エリュシオンの歌声G







ベッドで眠るティエリアの衣服を整えてやる。
そのまま、ティエリアを抱いて同じベッドでロックオンも眠った。

朝になって、外の騒がしさと、女将の悲鳴でロックオンは目覚めた。ティエリアはまだ疲れて眠っている。
「きゃああああああ!!」
女将の激しい悲鳴に、ロックオンはベッドの横に置いていた剣に手を伸ばす。

外の廊下で、何人もの足音が聞こえた。
こういうことには敏感だ。
長年盗賊なんて伊達にはしてない。

「いるな・・・この部屋だろう。始末しろ」
「は・・・・」

バタンと扉が開かれる。
武装した騎士が何人も飛び込んでくるが、室内はもぬけの空だった。

ロックオンはティエリアを抱き上げて、荷物を背中に背負い、窓からひらりと飛び降りると、馬小屋にいき、吃驚して起きたティエリアを前に乗せて、馬を走らせる。
「ロックオン!?」
「おう、大丈夫か?昨日は無理させすぎてごめんな。はじめてだっただろう」
かぁぁぁと、ティエリアの頬が紅くなる。
「そ、それは!」
「しゃべっても平気なのか?」
「もう・・・・意味はありませんから。戒律を一度破ってしまった。一体何が・・・・」
「追われてるみたいだ。相手は帝国騎士か」
「帝国・・・・皇帝が僕を殺そうとしているという噂は本当だったんですね」
「お前、怖くないの?」
「怖くなんて、ありません。だって、死ねばこの呪われた呪縛から・・・」
「解放、なんてさせねぇよ!お前を殺させたりしない。このまま俺と逃げよう!」
ロックオンは必死になって馬を走らせる。
追ってきた騎士たちと、馬上で剣を交わしあう。

「エリュシオンの扉よ開け!!」
それは歌声であった。
でも、それは呪文でもあった。

ざぁぁぁと、ロックオンとティエリアの乗った黒馬の後をついてきて、剣で切りかかってくるイスマイール帝国の騎士たちの馬の足を、地面から突然生えた蔦が絡めとり、馬は騎士たちを振り落とすと、嘶いてその場で静かになってしまう。
「くそ、何をしている!」
「しかし隊長、馬が!!」
対頂の騎士は、馬の足に絡み付いていた蔦を剣で切り裂いていく。
「神の巫女の歌声は奇跡を呼ぶ・・・か。続け!」
全ての馬の蔦を切り裂いて、イスマイール帝国の騎士たちはロックオンとティエリアを追い始める。

その頃、大分先に進んだティエリアとロックオンは森の中に入り、馬を下りた。
「どうしたのですか?」
ひょいっとティエリアを抱き上げるロックオンの顔を見る。
瞳はものを見ていないが、魔法で一応の視界は利く。
「いや・・・・宿の3Fからお前を抱いて地面に降りたとき、ちょっと足首を・・・」
「見せてください」
「大丈夫だって。こういうことには慣れてるから・・・・」
ティエリアは、歌を歌い出した。

「ららら〜〜エリュシオンは楽園、さぁ誘わん神の子らよ、奇跡をエリュシオンの歌声と共に〜♪」
それは、癒しの歌であった。
歌声に含まれた奇跡の魔力で、あっという間にはれていたロックオンの右足首の痛みはとれてしまった。
ロックオンは驚いて、ティエリアを抱き上げるとくるくると回った。
「な、なんですか!?」
「すげーなお前!ほんとに神の巫女だ。奇跡かぁ」
子供のようにはしゃいで、ロックオンはぎゅっとティエリアを抱きしめた。
「泣くなよ・・・・」
「でも・・・・私は、もう神殿に帰れない。皇帝が私を始末しようということは・・・私がこの世界に必要であることがなくなったことでもあります。イスマイールの皇帝が、私を神の巫女として神殿に迎えてくれるようにしてくれた。イスマイール帝国の皇帝は、私の・・・・実父です」
ロックオンは驚いた。
同じ神の子であるリジェネも、皇族の血を引いているということは知っていたが、まさか父が皇帝とは。
それでは、このティエリアは皇子・・・いや、それとも皇女か。中性なのでどちらとも判別がつけがたいが、イスマイール帝国の正当なる皇族の、しかも皇位継承権をもつであろう直系になるのか。
「父は・・・・何度か、私に会いにきてくれたけれど、それは皇帝として。そして・・・・・マリナ姉さまを愛しすぎて・・・・マリナ姉さまにエリュシオンの歌声を譲れと。でも、私にもそれはできなかった。一度宿ったエリュシオンの歌声は、資格を持っている者が他にいても、すでに宿ったものがもっている限り、消えることがない。そう、殺さない限り・・・・父様は、ついに私を捨てたのですね。歌声をマリナ姉さまに与えるために、殺すために・・・・あなたを雇ったのでしょう、ロックオン?」
「お前、何処まで知ってるんだ?」
「さぁ・・・何処まで、でしょうね」
ティエリアは、空を見上げた。
また涙を零す。

「俺は、そのエリュシオンの歌声に囚われたただの盗賊さ」
「ロックオン?」
ティエリアを抱き上げて、休ませていた馬にまたがらせる。
「いっただろう、お前を俺のものにするって。もう俺のものだ。誰にも、たとえイスマイール帝国の皇帝にも、殺させはしない。絶対に守る。守り抜く・・・」
「あなたは・・・・愚かな、人だ」
馬上の上で、ロックオンはティエリアはディープキスを繰り返すと、ロックオンは手綱をさばいて馬を走らせた。
向かう場所はどこだろうか。
遠い異国まで落ち延びようか。

二人は馬で森をかけぬけた。ティエリアは、ずっと馬上の上でエリュシオンの歌声を響かせていた。

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