エリュシオンの歌声J








「ようこそエリュシオンの地へ」

扉が開き、ティエリアとロックオンは中に足を踏み入れるのではなく、吸い込まれていた。
「ここは・・・・」
ティエリアは、自分の目が目えることに、そして自分の足で立っていることに、耳も聞こえることに驚き、そしてエリュシオンの歌声を出そうにももう出ないことに気づいて、愕然とした。
体の欠陥は、エリュシオンの歌声をもっている証に、神が奪っていったものだとされていた。
リジェネも、同じように実は目が見えない。耳も聞こえない。
魔法で全てを補っている。リジェネの魔法は完璧すぎて、目が見えなくても耳が聞こえなくても、関係ないほどに補っている。

「ようこそエリュシオンの地へ」

再びそんな声がした。
眩しい世界。
始めて自分の目で見る世界は、真っ白に見えたが、光になれてくると空中庭園のように美しかった。
広い花畑が広がり、奥には森と神殿が見える。
何処か、ティエリアが閉じ込められていた場所に似ている。
「あなたは・・・・・・」
美しく微笑む少女に、ティエリアは心臓がどくんどくんと高鳴った。
伝承でしか伝えられないエリュシオンの地へ、踏み入ることができた。ここは楽園なのだ。
では、その場所にいる住人は、人ではないだろう。
「私は女神アルテナ」
「女神・・・・」
神など信じないティエリアでさえも、彼女が神であることは分かった。あまりに神々しい。
「ようこそ、エリュシオンの地へ。あなたは天使となり、この地に留まることができます。そのために、生贄を捧げたのでしょう?」

ポウっと、女神アルテナは美しすぎる顔のまま、顔色を変えることもなく手を動かすと、ふわりと動かない意識を失ったロックオンの体が女神アルテナの前に浮いていた。
「ロックオン!!」
「忘れなさい、神の子よ。生贄を捧げて始めてエリュシオンへの扉は開く。愛する者を捧げること。それが扉を開く条件。この生贄にもう用はないでしょう」
「ロックオン!ロックオンを返して!彼は生贄なんかじゃない!そんな、そんなこと、愛する者を捧げるなんて僕は嫌だ!!」
女神アルテナにすがって、ティエリアは金色の瞳からたくさんの涙をこぼして、はじめて見るロックオンの姿を目に焼き付けた。
思っていたとおり、優しそうな青年だった。
「返して!!」
エリュシオンの地で、ティエリアの悲鳴だけが大きく響いた。

「おかしなことを言うのですね。あなたは天使になれるのですよ。人のサガなど忘れてしまうのが普通なのに」
ティエリアの背中に、12枚の翼が生えていた。
「こんな翼いらない!いやああ、こんな翼いらない!天使になんてなりたくない!ロックオンを返して!!」
ティエリアは自分の翼で羽ばたき、女神アルテナの頭上にいたロックオンの体を攫うと、地面に降り立った。

「ロックオン、ロックオン!!」
何度揺さぶっても、目を開けてくれない。
心臓に耳をあてると、鼓動はとまっているし、呼吸も止まっていた。
すでに、死後硬直がはじまっている。

ティエリアは泣き叫んだ。
「ロックオン、僕を守ってくれるんじゃなかったの!あなたは生贄なんかじゃない!天使になんてなりたくない!エリュシオンの地にいたくなんてない!!!」

「ここは楽園、選ばれたのに、なぜそんな我侭を・・・・」
「うるさい!女神だろうがなんだろうが、僕は人間でありたいんだ!僕は、元の世界に戻る!天使になんて、なるものか!!」

ティエリアは、全ての生命力と魔力をロックオンに吹き込む。

その姿を見て、女神アルテナはため息をついた。
ネイのいる世界からやってきたのに、この世界のネイに似た人間とその血族に似た人間は、なんと我侭なことか。
これでも、女神アルテナはこの世界を創造した女神なのに。
その女神に歯向かうというのか。



NEXT