血と聖水ウィンド「偽ネイ(仮)現る」







それから数日がたった。
皆、宮殿で退屈な日々を過ごしていた。偽ネイ退治なので、宮殿の外に出て観光というわけにもいかない。
やがて、悪魔が夕暮れ色の夕日に染まりながら、宮殿の入り口に現れた。
「ミーの婚約者のムーンリラ皇女殿下を花嫁に迎えにきたザーマス」
大水晶に記録されていたネイと・・・全然似ても似つかないエターナルヴァンパイアだった。
「ちょ、あれのどこが俺!?」
ロックオンも、現れたエターナルを指差す。
「いやぁ・・・・そっくりだなぁ。きもいところがすげぇそっくり」
リエットは、笑い転げながら、すぐに立ち上がると今の恋人となったムーンリラ皇女を後ろに匿う。
ぼさぼさの茶色の髪に、淀んだ灰色に近い緑の混じった瞳。
「あんなにも、そっくりではありませんか!」
ムーンリル皇帝は必死で訴える。

「おい、またあいつきたぞ」
「またかよ」
騎士団の騎士は、ぼやきだした。
「血を吸われたヤツって、みんな1週間アホになるだけで、なんともないんだろ?」
「そうだよな。あれのどこが悪魔なのか俺にはよく分からんわ」
「いや、アホすぎるとこは悪魔じゃねぇ?」

「ムーンリル皇帝」
「え、え、いや、だって、死んだとかいっとかないと、ネイ殿は来てくれないでしょう。さぁ、退治してください!!」
「皇帝ー。自分で退治できるのに、めんどくさがってるよ。あれだな、あんな汚い物体に触りたくもないんだな」
「しーっ。聞こえてるぞ!!」
騎士団の騎士たちは、ムーンリル皇帝の視線を受けて敬礼をして、すぐに佇まいをなおした。
「ごほん。さぁ、ネイ殿。ネイの偽者が来ました。盟約通り、退治を」
「あー、うん、そうだなー」
ロックオンも白け出している。
「ミーをのけ者にするなんて、なんて命知らずなんザマショ!!」
ネイの偽者は、血でできた矢を構えるとこっちに向けて射った。その血の矢は、空中でぽとっと地面に落ちるとうにょうにょとこっちに向かって鈍足で前進してくる。
「うふはははは、ミーの素晴らしい力にみんな呆然としているザマス!!」
確かにみんな呆然としていた。
あまりのかっこ悪さに。ここまでかっこ悪いヴァンパイアなんて見たことがない。
「あはは、あははは・・・・ゲッフゴッフ、ゴブ!!!」
偽ネイ(仮)は、手を腰にあてて偉そうに反り返ると、反りすぎて頭を地面にぶつけ、じたばたと地面を泳ぐようにもがいていた。
「ミー、ミーの美しい顔が、許さないザマス!このネイの本気、見せてやるザマス!!」
ティエリアは、こんなのが本当にロックオンだったら、絶対別れてると思った。
「あー。えーと」
ティエリアは、立ったまま居眠りをするロックオンをどうすべきかと思っていた。
「残念無念でしょー。お前の花嫁になるはずだったムーンリラ皇女は、今は俺にメロメロだぜ」
リエットが、この宮殿にきてずっと男装で通していたのだが、聖書者のローブを着ている時も、いつも腰に下げている剣をぬくと、うねうねしてる矢を四散させた。
それは元は短剣だったソウルイーターを鍛え直して、リエット用に加工した、新しいソウルイーターだった。
「な、ミーの花嫁を奪う気ザーマスか!どこのアホな男ザマショ!」
男装したリエットは、ちゃんと男に見えた。割と豊満な胸とかはサラシを巻いて隠している。
「リエットさま〜!がんばってー!!」
ムーンリル皇帝の隣で、皇女ムーンリラは両手にポンポンを持って応援をはじめた。
「がんばって〜!」
帝国騎士のウエマは女装させられ、同じようにポンポンを持って応援のダンスをしている。
「おえええええニャー」
それを目に入れてしまったフェンリルは、嘔吐しそうになっていた。
「大丈夫、フェンリル?君、フェンリルによくも!許さないんだから!」
「ミーは何も・・・おや・・・・そちらのあなたも美しいザマースね。ミーの花嫁に・・・・」
「絶対ならない。絶対いや。死んでもいや」
「素晴らしく拒絶されたザマース。何故ザマース?」
「いや、お前鏡見たことある?このスーパーブ男!」
リエットが、ソウルイーターを右手に携えて、哀れそうに偽ネイ(仮)に言葉をかける。

「失礼ザーマス!ネイたるこのミーの美しい顔のどこがブ男ザーマスか!」
「いや、全部。ついでに存在自体もうっとうしくてきもいから」
立ちながら眠っていたロックオンは、そこで目覚めた。
「お前、ネイなんだろう。エーテルイーター見せてみろよ」
飄々とした調子で、いつものように相手を挑発するロックオン。見た目だけが全てではない。もしも、本当にエーテルイーターを持っているとしたら少し厄介だ。
「ふふふフ。そんなにミーの力がみたいですか。エーテルイーター起動ザマス!」
偽ネイは血でできた自転車を作り出した。それを必死でこいで、こいで、こいで。
「ハァハァハァハァ。発電中ザマス。エーテルイーター起動中ザマス」
血でできた翼みたいなのを、その電力で動かしていた。
見た目は、真紅のエーテルイーターを小さくしたようなもの。動きはうねうねしてる。
「ハァハァハァハァ、起動終わりザマス!」
「「「「早!!」」」」
ロックオンも、ティエリアも、リエットも、ウエマもみんなしてつっこんだ。
ぜえぜえと、汗を大量にかいて、血でできた自転車を体内にとりこんで、その場にへたりこんだ偽ネイ(仮)

「アホらし」
ロックオンは、ティエリアを抱き寄せた。
「何を・・・・ううん」
舌を絡めながらキスをしていくのを見せびらかす。
それを見て、偽ネイ(仮)は鼻血を垂らして悶えている。
「良かったなぁ、ティエリア。ネイが俺で」
「そんなの・・・」

「ネイ?あなた、ネイといったザマスね!ミーの名を語る偽者ザマスね!さてはミーの美しさとこのエーテルイーターに嫉妬したザマスネ!?」
「「「「ないない」」」」
みんなつっこんだ。

 


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