残酷なマリア「使徒襲来」







使徒は、濃厚なエーテルの匂いを感じ取ってすぐにやってきた。
「ばかだね、君・・・・エーテルを展開するなんて。しかも、こんな広範囲に」
ティエリアが展開させたエーテルは、オゾン層のように星全体を覆っていた。薄く、けれど確実に自分がマリアナンバーズであると告げるかのように。
そして、聞き覚えのある声に、ティエリアは振り返る。
「リジェネ・・・・」
懐かしい声、顔、姿。
でも、今までのリジェネとは何かが違う。
「どうして、リジェネが使徒なの?」
純粋な疑問。17年間も一緒に育ってきたのに。
使徒も、人の世界に紛れ記憶を封印することがある。孤独に耐え切れなくなって。リジェネもそうしていたのだ。でも、半身であるティエリアの覚醒と共にリジェネも覚醒した。
「それはこっちの台詞だよ。大好きなティエリアが、まさかマリアナンバーズだったなんて。がっかりだね。大好きなのに・・・・核を取り出して殺さなきゃ」

リジェネは、ティエリアと同じ双子の顔をニヤリと歪めた。
こんなリジェネの残酷な顔なんて、見たことない。

「リジェネ、嘘だと思いたい。僕たちは、兄弟だった。どうして、リジェネが使徒なんだ。よりによって、リジェネが!兄弟なのに!」
「兄弟だよ?双子の。人工イノベイター。処分されかけたけど・・・・こんな特異な存在に転生するのではなかったね。普通の人間がよかったかもしれない。でも、この体はこの世界に転移して激しく消耗したボロボロの体よりも使いやすいよ。何せ、自然と体の中にエーテルを内包してるんだもの」

ティエリアは、ホテルの非常階段を降りて、逃げ出す。
「待ってよ、愛しいティエリア」
「ごめん、僕は君を・・・・殺す。大切な人のために!」
ティエリアは、黒い翼を羽ばたかせた。
「聖女の剣!(マリアオブソーディア!)」
巨大な白い光の剣が、リジェネを切り裂いたかのように見えた。でも、リジェネはそれを高速で避ける。
リジェネの放った見えない真空の刃が、今ティエリアがいた場所を切り裂く。
ティエリアはエーテルで盾を構築させると、そのまま飛び退る。
ホテルを離れ、高層ビルへと飛んでいく。

「エーテルイーター発動、食らいつくせ我の中のサタン!」
リジェネは、自分も持っている特種能力を本格的に発揮させる。使徒だけがもつ、マリアナンバーズを狩るために与えられたエーテルイーター。その名前の通り、エーテルを食らう。
稼動力の源は魔力だ。使徒は、もともと白天使だ。白天使であったが使徒になるために遺伝子をいじられて黒天使にされ、そして「聖歌(セイントヴォイス)」でエーテルを無力化させることができるのだが、マリアナンバーズはそれをさらに捻じ曲げて、通用させないようにしている。

「サタンが言ってるよ・・・・マリアなんて殺しつくせって」
二人の黒い翼をもつ人工天使たちは、空を飛びながら、互いにエーテルを放ちあう。
ティエリアが放ったエーテルを、リジェネのエーテルイーターが一度食らい、存在次元を変化させて黒エーテルとして魔力をこめてティエリアに攻撃する。
「あう!」
上段から、見えない風の突撃を受けて、ティエリアはよろめいた。

「そんなものかい?マリアナンバーズってのは。僕は、違う世界で3体のマリアナンバーズを狩って核をエンジェリックカオスに送ったよ?ほら、もっと足掻いてよ。僕が壊した人形たちは、いろんな方法で壊したから・・・・でも、みんな絶望して最後は泣いて許しを請うんだ。その世界の家族や友人に化けているマリアナンバーズの、その家族や友人、恋人を殺してやったら・・・みんな、泣いてさ。お願いだから、これ以上家族を、友人を恋人殺さないでって。人間の心を宿したマリアナンバーズばっかりだ」
「く・・・」
「マリアナンバーズって・・・・プログラミングどうなってるんだろうね?孤独になるのが怖いんでしょ。そして、人間の「心」を宿す。自分から核を手放してくれて、抉ったりしなくてすんだから、綺麗に結晶が取り出せたよ?人形は哀れだねぇ。兵器だっけ?それとも、単なる道具かな?」

「僕たちは、人形じゃない!ちゃんと、生きてる!たとえ兵器でも、アダムとイヴの種を守るための道具でも・・・それでも、感情をもっている!心を持っている!人を愛することができる!君なんかに、何が分かるものか!」
「分かるよぉ?ほら、僕君のこと大好きから・・・半身のティエリア」
リジェネは空中でせせら笑った。

「君も・・・・あの恋人、殺したら・・・泣き喚いて、核を手放してくれるかな?」
その言葉に旋律した。
リジェネは知っている。ロックオンの存在を。ティエリアが命より、責務や使命より大切にしている存在を。
「させるものか!このまま滅ぼす!」
キィン、キィン。
何度も空中で、エーテルと黒エーテルでできた刃で切り合った。

「そろそろ、終わりにしないかい?疲れてきたよ・・・・エーテルイーター、いけええええ!!!」
リジェネが咆哮する。
同時に、ティエリアが叫んだ。
「我の中の真なるマリアよ、我に力を!!」
エメラルド色の光が満ちる。
凄まじいエーテルの量に、リジェネのエーテルイーターは食いつくす限界をこえそうになった。
「なんだ、お前。核が・・・・2個・・・・あるのか!?」
「エーテル発動、聖女の槍!(マリアオブランシア!)」
マリアの力を宿す槍が現れ、そのままティエリアは翼を羽ばたかせ、高層ビルの壁をけると反転し、その勢いでリジェネのエーテルイータを貫き、そしてリジェネの腹に槍をめり込ませる。

ぐちゃっという、内臓を潰す嫌な音が聞こえた。
「愛してるよ、ティエリア・・・・」
耳元で囁いて、そしてリジェネは満足そうに瞳を閉じる。

どくどくと、彼の体から血がたくさん流れ、ティエリアを真っ赤に染め上げた。




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