残酷なマリア「魔女の槍」







ずっと、まどろんでいた。
ロックオンと、また一緒に、何事もなかったかのように生活をはじめたティエリア。
使徒のリジェネは、再生しただろうがあれから姿を見せない。

「ロックオン、起きて下さない!」
「んー、あと1時間」
「1時間じゃありません、もう昼です!!」
「じゃあ夕方まで〜」
「ばかをいってないで!」
いつものように、ベッドで押し問答をしていると、腕をひかれてティエリアはベッドの上にバランスを崩して倒れこんだ。
「一緒に、寝る?」
緑の、綺麗なエメラルドグリーンの瞳。

ロックオンは、いつでも優しかった。
人間としてとても魅力的で、いつもティエリアをリードしてくれる。
デートする時も、マイスターとして行動する時もいつもティエリアの一番側にいてくれた。

「僕は・・・・愛してます、あなたを」
「俺も、愛してる」
唇が触れるだけのキスを何度も繰り返し、ロックオンは起床した。
そのまま、歯を磨いて顔を洗って、着替えてやっと支度ができる。
「俺は、このままマイスターの集合所いってくるから。お前は今日は休んどけ」
「はい」
リジェネと争いあってから、それからずっと休んでいる。こんなの、マイスターとして失格だろうけど、リジェネは数日休んだ後からマイスターとして復帰したと聞いて、ティエリアはどうしても顔を合わすことができずに、病欠ということにしていた。

ソレスタルビーイング側も、一度消去しようとしたティエリアがマイスターを辞めても別に支障はないので、むしろ病欠のまま来ないでくれるほうが、研究員たちの心は穏かになる。だが、リジェネがいる。リジェネはいつにも増して剣呑で、声をかけたら噛み付いてきそうな勢いで、マイスターの者以外誰も声をかけない。
そういえば、アレルヤもずっと欠席しているらしい。
ティエリアとリジェネのことがよほどショックだったらしい。
心的ショックで、マイスターを辞めたいと言っているのを、ロックオンや刹那が口説いて止めている最中だ、ということころだろうか。

**************

「買い物にでも・・・・いこうかな」
一人、ロックオンのマンションの部屋でごろごろしていたティエリアは、翼を広げて、マンションのロックオンの住む12Fから飛び立つと、そのまま荷物をもったバッグを背中にしょって、すたっと地面に着地した。
それを見た人間は、みんなあんぐりと口をあけて最初はびっくりしていたけど、この世界の法則に従い、記憶の中からその光景を忘れていつものように日常生活を開始する。

「肉が安い・・・・うーん?」
料理を練習したとはいえ、ロックオンがもっぱら料理するので、とりあえず買い物メモを見て値段も確認せずに適当に商品を買い物籠に放り込んで、それを決算をすませてスーパーを出ると、ティエリアは自分が誰かにつけられているのに気づいた。
そのまま、黒い6枚の翼を広げて空を飛翔するけれど、相手も飛んで迫ってくる。

多分、使徒だ・・・・。

心の奥で呟いて、ティエリアは持っていた買い物の商品が入ったバッグを、エーテルで空間転移させ、ロックオンのマンションのキッチンのテーブルの上に移動させると、そのままぐんぐんと空を昇り続けた。
「使徒、いい加減出て来い!擬態して、体を透明にしていても分かる!魔力が溢れている」

「それはどうも。自己紹介を。僕はリボンズ・アルマーク」
現れたのは、緑の短い髪の線の薄い色白の少年だった。年齢はティエリアと同じくらいか。
相手の金色の瞳は、一瞬マリアナンバーズを思い起こさせるが、明らかに違う。魔力を帯びた黒い翼。歪な力が、彼が同胞ではないのだと語っている。
「使徒の名前なんかに興味はない!エーテル発動!目覚めよ、我の中のマリア!」
すぐにエーテルで自分の周囲に結界を張る。
「探したよ、オリジナルマリア」
「え・・・・」
「帰ろう?あの世界へ。大丈夫、オリジナルマリアは保護されるから。白天使皇帝の命令さ。オリジナルマリアは保護せよ。何せ、器にいくつもの結晶の核を取り込める。大事な保管庫だ」

「ふ、ざけるな!」
ティエリアが声を荒げて、エーテルでできたランスをとりだす。
「聖女の槍!!(マリアオブランシア!!)」
それをひょいっとかわして、リボンズという名の少年の姿をした使徒は、エーテルイーターを起動させるもの、とティエリアは思った。
「エーテル発動、目覚めよ我の中のリリス!」
「何故・・・・エーテルを、発動できる!!」
驚愕するティエリアに、リボンズは簡単だと説明してみせる。
「何も、結晶の核を取り入れられるのがマリアナンバーズだけじゃない。僕たち使徒だって、黒天使なんだ。つまりは、マリアナンバーズと肉体構成はほぼ同じ。取り入れられない原理ではない、だろう?」

「誰の結晶を・・・・それは・・・・NO36のもの!転移先AP−10355「ワールド・エルフィン」へいった同胞の・・・緑の髪をした少年のものを、奪ったのか!」
最後の最後まで、ティエリアと同じく世界に残り、転移を後送りにし続けた仲間思いの少年のことを思い出す。
「彼を、殺したのか!君が!!」
「そうさ」
「返せ!それは、お前たち使徒の手にあまるものだ!アダムとイヴの種は、誰の手にも渡してはいけない!集まれば集合的意識体が目覚めると知っての行為か!」
「知っているとも。白天使の皇帝は、それをお望みだ」
「世界の、崩壊をか!」
「崩壊じゃないよ。浄化、だよ。一度浄化して、白天使だけの世界にするんだってさ」
「愚かな!」
ティエリアは、ランスを剣にかえるとそれで切りかかった。
「聖女の剣!(マリアオブソーディア!)」
通常は巨大な光の刃のエーテルであるが、操る者一つでその力はどんな形にでも具現化する。

肉も骨も切るはずの一閃は、けれど紙一重で避けられる。
「核を返せ!」
背後をとられた。
そのまま、相手は言葉を唱える。
「魔女の槍!!(リリスオブランシア!!)」

一瞬だった。自分の身に何が起きたのかも分からなかった。ザクリと、その音だけが明確に耳に響いていた。
はらわたに、固いエーテルの槍が食い込む。
「か・・・はっ」
体が、落下する。空を飛んでいられなくて、そのまま下へ下へと。
落下しながら、すぐに自分を貫いていた槍をエーテルで破壊して、高速再生を始める。

「エーテルよ、我が傷を癒せ!」
エメラルドの光がティエリアを包み込み、そのままティエリアは、空き地になんとか着地した。
といっても、地面はめり込んでいる。
それを、面白そうに使徒のリボンズは追ってくる。
「僕の場合、言葉に使うのは魔女(リリス)なんだよ・・・・・マリアとリリス・・・ある意味、対極かな?」
「それ以上、近寄るな!」
エーテルでできたビームサーベルを手に、ティエリアは下がる。


リボンズは、ふっと笑って、ティエリアの目の前までくると。
「また、会おう」
そう言って、空中に四散した。

「エーテル・・・・・発動・・・・・・空間転移を」
ティエリアは、ロックオンが帰ったきたその部屋に転移すると、そのままドサリと倒れこんだ。
衣装は血まみれだ。
「どうしたんだ、ティエリア、おい、ティエリア!!」
ロックオンは慌ててティエリアを抱き上げ、衣服を破いて血が流れているであろう場所を確認するが、傷痕はなかった。
安堵するも、ティエリアは使徒と戦っていたのだろうか。
「くそ・・・俺、なんの力にもなれてぇじゃねぇか。ティエリアを守ることさえできないのかよ・・・」


 




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