残酷なマリア「飛翔する残酷なマリア」







「エーテル発動、目覚めよ我の中のマリア!」

今日も、ティエリアは使徒と対峙している。そして、ロックオンに助けてもらい強固された体を使い、複数の核をエーテル化して使いこなし、空間を転移してはその世界に潜むマリアナンバーズを助け、その世界にいる使徒を逆に滅ぼしていく。

「聖女の槍!(マリアオブランシア!!)」

光を煌かせ、エーテルの槍が敵を貫く。
何も、敵は使徒だけではない。
いろんな世界で、エーテルの結晶を狙うものが増えた。
エーテル、神の力。その結晶である核は、不老不死をももたすことができる。

「聖女の剣!(マリアオブソーディア!!)」

次々と敵を滅ぼしていくティエリア。

まるで、かつてのアベルか、それともオリジナルマリアの再来か・・・・。

「エーテル発動、目覚めよ我の中のリリス!)」

ティエリアの背後で、魔女を呼ぶ声がした。

「魔女の槍!(リリスオブランシア!)」

襲い掛かってくる獣を蹴散らしていく。

「魔女の剣!(リリスオブソーディア!)」

二人は、互いに互いの背を預けて、呼吸する。

「リリスなんて、縁起でもない。残酷だ」

「残酷なマリアの名をもつくせに、なんだよそれ」

集合的意識から生まれた、彼を従えて。
ティエリアは、一度生み出されそうになった集合的意識をエーテルの波にかえ、無へと返してしまうことにまで成功した。
今日も、ティエリアは空間をこえて、同胞を助けるために闘う。

もう、自分がいた元の世界に戻る気はない。
あの世界が滅ぼうがどうなろうが、もう知ったことではない。

それは、あの世界の住人たちの問題だ。ティエリアの問題ではない。

生きた兵器、核をつめる道具、人形・・・・いくらでも、ティエリアのことをそういう者は多い。
でも、今のティエリアはきっと誰よりも一番人に近い。

心が、あるから。

誰かを愛した時、心を宿すと知った。

愛されると、心は感情をさらに豊かにする。

「エーテル最大解放、目覚めよ我の中の真なるマリア!」
「エーテル最大解放、目覚めよ我の中の真なるリリス!」
二人の声が波紋する。
きっちり揃って、でも最後だけ台詞が違う。

信仰というか、自分の中にある力の源の根源が違うのだ。
それは、種族の違いと性質を意味している。
マリアは破壊と救いを、リリスは破壊と再生を。

魔女が再生を宿すなど、本当に奇妙なことだが、元いたあの世界ではそうだった。
使徒にとって、サタンとリリスは重要な意味を含んでいる。
もう、彼は使徒とはいえないかもしれない。

身のうちに、何せオリジナルマリアの最大級の結晶を宿すく黒天使か。

バサリと、二人は黒い翼を広げ飛翔する。
どこまでも高く高く。
ティエリアも、もうただの黒天使かもしれない。
身のうちに宿す結晶の数は、9。アベルである刹那を上回る。

ティエリアは、集合的意識から得たエーテルできた命の雫を同胞たちに与え、普通の黒天使にして結晶を回収していた。
元いたエンジェリックカオスは、その名の通り混沌としているらしい。
結晶がすでに幾つか集まり、集合的意識が生まれるはずだったのに、それにオリジナルマリアの結晶を加えて集合的意識を利用してしまったのはティエリアだ。

もう、あの世界に用はない。
もう一度集合的意識を生み出し、世界を破壊するというのなら、好きなようにするといい。
守るべき黒天使たちは、すでに違う世界へ転移済みである。
残された使命は、世界に散っていったマリアナンバーズから結晶を回収し、彼らに本当の命を与え、そして使徒や結晶を狙う者を狩ること。

「どこまで飛ぶんですか?」
ティエリアが首を傾げる。
「さぁ。次の世界まで、飛んでく?」
「ご勝手に・・・・ゲートアウトは、僕にしかできませんから」
「そうでした・・・・」
げんなりと翼をよろめせて、アイリッシュ系の茶色のウェーブがかかった柔らかな髪を風になびかせ、エメラルド色のオーラをまとって、彼はティエリアの後に続く。
「なぁ、愛してるぜ、ティエリア」
「知ってますよ、ロックオン」

どこまでも、無限に広がる世界へ、今日も出かける。
自分たちが生きるために。そして、仲間を助け、命を与えるために。
何より、心を持って生きているのだと実感するために。

残酷なマリアは笑う。
とても綺麗に、優しく。
その世界では、残酷なマリアと呼ばれた存在がいた。
でも、もう優しいマリアでいいのではないかと、ロックオンは蒼い空を見上げて呟くのだった。