マリアの微笑み「これが、伝えたかった言葉」







「ロックオン!!」
透けていく体に精一杯しがみついて、ティエリアは涙を零す。
「僕は、僕はあなたと出会えたこと、後悔してませんから!またもう一度こうして出会えたことも、後悔しませんから!!」
「うん・・・・」
「お願い、もう少しだけ、一緒にいてください!いかないで!!」
「ごめんな。俺は、この世界にいてはいけない存在なんだよ」
「それでも・・・・僕は、あなたを愛してる!!」

ロックオンの中で、何かが弾けた。
そうだ。
俺は、この言葉を言うために、ここにいるんだ。

「ずっと言ってなかったよな。お前さんに。俺も、お前さんのことが大好きで、愛してるよ、ティエリア」
「ロックオン・・・・・」
「愛してる。過去も現在も、そしてこれからも。幸せになれよ」
ぐしゃりと頭を撫でられて、ティエリアはたくさんの涙を大きなガーネット色の瞳から零しながら頷いた。
「あなたが、いてくれたから、幸せになれた。ロックオン」
ふわふわと、風に靡くロックオンの髪にティエリアは指を通す。
その髪の先まで、エメラルド色の光にロックオンは包まれていた。

ティエリアに、愛していると伝えたかった。それが、ロックオンがずっと思い残していたもの。愛していると伝えることができなかった。だから、今伝える。

ティエリアは、服の袖で涙を拭ってから、大きく深呼吸した。
そして、微笑んだ。
マリアの微笑みのように、優しく。

「ありがとう。僕を愛してくれて、ありがとう。ずっと、忘れませんあなたのことを」
「俺も、ありがとう。俺を愛してくれてありがとう。お前のことは、何があっても忘れない」

もう、ロックオンの足は完全にこの世界から消えていた。
残る上半身も薄くなって、ついには肩から上だけしか見えなくなっていた。
エメラルド色の光を頬に浴びながら、精一杯ティエリアは微笑んだ。涙を零すのを拳を握り締めて我慢する。ここで泣いちゃだめだ。

「また、会おうな!」
ロックオンは、まるで風のように突然現れて、そしてまた完全にこの世界から消えてしまった。
「また、いつか会いましょう。何処かで。だから、さよならは、言いません」
さわさわと風に揺れる緑に耳を傾けながら、ティエリアは微笑んだ。

ありがとう。
また、いつか何処かで。
また、会いましょう。

どんなに時間がかかるか分からない。でも、さよならはしません。
きっと、また出会えると信じて。


「ティエリア」
「刹那」
ずっと、影から見守ってくれていた刹那が、車から降りてきた。
「大丈夫なのか?」
「ん・・・平気」
二人で、空を見上げる。
「本当に・・・・変わってなかったな。まるで台風みたいに、通り過ぎていった」
「変わらないよ。あの人は」
刹那とティエリアは手を握り締めあう。
「僕たちも、変わらなくては。刹那、一緒に最後まで歩んでくれるか?」
「無論だ」
ロックオンが残していったマリアのためにも。
そして、ティエリア自身のためにも。

過去を振り返る時もある。でも、そこで立ち止まらずに歩き出せ。
そう、いつでも彼がそうしていたように。
涙を流すときもある。でも、次の日は笑ってお日様を見上げよう。
そう、まるで太陽の存在であったロックオンに見守れながら。


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ジブリールは、本を読み終わり静かに閉じた。
「ありきたりな、でも美しい音色だ」
ありきたりな物語。でも、どこか儚く幻想的な音色を奏でている、その本は。ジブリールは、マリアという存在が微笑んでいるのを感じ取って、同じように微笑んだ。
「マリアの微笑み」か・・・。閉じられた本を、膨大な図書館になっている本棚の一つに直すと、ジブリールはまたカウチに寝そべった。
また、今度自分で紡ごう。
ティエリアとニールの、愛の物語を。昔のように。

「おやすみ・・・・」
パチンと、照明が消えた。
ジブリールもマリアも、ティエリアも刹那もニールも誰もいなくなった空間で、キラリとティエリアとニールのペアリングだけが美しく耀いていた。


                         The End