さようならと。







さようならと。
そう簡単にいえたらいいのにね。

さようならと。
そう簡単に割り切ってしまえればいいのにね。

ティエリアは窓の外に見える、星の瞬きをずっと見ていた。そっとそえられた白すぎる手を、いつもあの人と一緒に繋いでいた。
そう、いつも。
歩く時も、寝る時も。
それが当たり前だった。

あの人の微笑を、ずっと見つめていた。
それが当たり前だった。
あの人が隣にいることが、当たり前だと思っていた。
ずっとそれが続くと思っていた。

「ねぇ、さよならってまだいえません」

涙はもう流しつくした。
でも涙があふれてきそうになる。
あの人の誕生日はこの前に過ぎてしまった。
ガンダムの機体に乗って、ハッチをあけて、あの人と一緒に育てた花を宇宙に流した。
誕生日プレゼントとして。

もうあの人はこの世のどこにもいないのに。

「ねぇ、さよならと・・・・・・まだいえません」

星がいっそうきらめき、ティエリアの蒼白の肌を照らす。
紫紺の髪がサラサラと流れていく。

「ねぇ・・・・ロックオン。ニール」

さよならと、割り切ってしまえれば楽なのに。
なぜいつまでたってもこんなに悲しいのだろうか。

それは彼を愛していたから。
愛していたから。

今でも愛しているから。だから、死んでしまった彼にさようならはいわない。絶対に。
いつまでも、心の中に彼はいるように、見守ってくれているように、いつまでも一緒に歩いていくのだ。
彼の志と、そして思い出と一緒に。

「愛しています」

ふわりと、ティエリアは窓からきびすを返して廊下を、少しだけ空間を泳ぐと、そのまま廊下を歩いていく。
手に制服の手袋をはめ直しながら。