迷い犬(3期)









「ワン」

がじがじがじがじ。
刹那は頭を犬にかじられていた。セントバーナードの子犬だ。
毛並みも美しいし、目も綺麗で、首輪もしている。見たところ、野良犬ではなさそうだ。

がじがじがじがじ。

「フェルト。何故、俺だけかじられる・・・・」

「さぁ?刹那の頭が美味しそうに見えるからじゃないかしら」

保護したのはフェルトだ。今は休暇をもらい、日本の経済特区東京にある、刹那の家に来ていた。
迷い犬のこの子を拾った、というか正確には買い物の帰りにフェルトに懐いて、そのまま刹那の家にまでついてきてしまった。

とりあえず、どうしようか迷ったが保健所に通報すれば、飼い主が見つからなければそのまま安楽死処分というきつい現実が待っている。

アメリカなどでは、長期に渡り野良となった犬や猫を預かり、飼い主が見つからなければ適性な飼い主を選び、新しくペットとして飼ってもらうという制度が広がっており、安楽死処分など、人に噛み付くばかりなどの凶暴な性格ではない限りありえない。

「首輪にマイクロチップ埋め込まれてないのね。困ったわ」

普通は、首輪に飼い主の住所や電話番号、勤め先などが記録されたマイクロチップが埋められているのだが、獣医にフェルトが診せにいったところ、そういう類のものは首輪にはめられていなかった。

捨て犬か。

それにしては首輪もしているし、やたら元気だし、人懐こいし、純血の血統書つきの子犬と思われる。ワクチン接種なども受けており、病気などの心配もないようだった。

「くーん」

がじがじがじがじ。

頭をかじられるままに、ふやかしたドッグフードをフェルトが皿にいれてもってくると、勢いよくそっちのほうに走り出す子犬。ガツガツとエサを食べ、水入れた皿をフェルトが子犬の前にだすと、水も飲んだ。

そして、尻尾をふって刹那の前にくると、背中をなんとかよじ登って、ぴょんぴょんはねている刹那の頭をがじがじとかじりはじめる。刹那の髪は子犬の涎まみれだ。

「フェルト。俺は何もしていないのに、何故こいつは俺の頭をかじり続ける・・・・」

「さぁ、刹那の頭がおいしいからじゃない?」

「こ、この犬は食人犬か!」

べりっと頭から子犬をひきはがして、抱いてみるとずっしりとした重みがあった。セントバーナードは大型犬で、子犬といっても小型犬以上の体重がある。

「このまま飼うわけにもいかないし、どうしよう?」

休暇はまだあるが、最終はトレミーに戻るのだ。犬など無論飼えない。

「ふむ。少し世話はアレルヤを呼んで任せよう。ネットで飼い主がいないか検索するか、新しい飼い主を募集するか」

小型コンピューターで、早速迷い犬、子犬、セントバーナードなどのキーワードを入れて検索すると数件のヒットがあったが、どれも終了したもようだった。

そして、トレミーからわざわざ呼ばれたアレルヤはというと。

「ああああ、僕もう死んでもいい( ´Д`)」

セントバーナードの子犬に顔をペロペロ舐められて悦に浸り、本当に死んでもよさそうな顔をしていた。
アレルヤを殺すなら、きっと今だ。

「アレルヤを殺すなら今だな」

「そうね」

ふふふと二人でニヤリと笑む。

仕方なしに、飼い主を募集しようとした矢先であった。フェルトが、駅前で子犬を探しているというちらしをもらってきたのだ。ちらしには連絡先と探している子犬の犬種、特徴などが記載されていた。

「この子で間違いなさそうね」

セントバーナードの子犬、オス、生後4ヶ月。気に入ったおもちゃをかじり続ける癖あり。赤い首輪をしており、尻尾が黒い。

千切れんばかりに尻尾を振って、アレルヤの頭をかじっている子犬をみて、刹那とフェルトはかかれていた連絡先に、子犬を保護していると電話をした。

「ああ、僕のパトラーーーッシュ!!( ´Д`)」

アレルヤは涙をぼろぼろ流して、僅か数日世話をした子犬との別れを惜しんだ。

「わおん」

がじがじがじがじ。

アレルヤの頭をかじってから、刹那のところにきて刹那の頭をかじる。そしてフェルトの手をペロペロと舐めた。

「あはは嬉しいよ、そんなに僕のことを気に入ってくれたんだねパトラッシュ!」

「わん」

ちらしには、気に入った「おもちゃ」をかじり続ける癖があると書いてあったが、あえて刹那もフェルトも言わないことにした。

「ああ、パトラッシュさようなら!!」

しーっとしっこをひっかけられながらも、アレルヤは涙をハンカチでふいて、そして三人で飼い主と待ち合わせしていた場所に子犬を連れて行き、無事引渡しを完了した。

「パトラッシュ・・・・僕にたくさんの思い出をありがとおおお!!」

「わふ〜〜ん。わん!」

別れを惜しむアレルヤの頭をかじってから、子犬――名前はマサル君(生後四ヶ月)は飼い主に引き取られていった。

「なんていうのか・・・・ペットもいいね」

「だが、トレミーでは飼えない。仕方ないさ」

「そうね。いつか刹那と地上で暮らすことになったら、子猫飼いたいな。ね、未来の旦那様?」

刹那は顔を手で覆って、地面でゴロゴロしていた。クールな顔をして、意外に恥ずかしがりやだ。しばらくゴロゴロしてから、いつもの冷静さを取り戻して、コホンと咳払いをして、アレルヤを引き摺って、刹那はフェルトとトレミーに帰還した。

迷い犬、マサルさんはアレルヤに「マルチーズを飼いたい」という心に火をつけ、しばらくアレルヤはマルチーズ飼育許可をくれとうるさかったとか。