冷めてます(3期)









朝起きると、ロックオンがジャボテンダーの着ぐるみを着て、紅茶を飲んでいた。
手なんてないので、わしづかみ状態のカップはカタカタと音がして、気をぬけば床に落としそうだ。
ティエリアを驚かそう、しまっていたジャボテンダー着ぐるみを着たはいいが、自分でぬげなかった。顔だけ露出した情けない格好でソファーに座っている。
もう1回寝ようかと思ったけど、いつティエリアが目覚めるか分からないので、とりあえず起きて紅茶などを入れて、朝を一人で楽しむ。
見るからに情けない格好で。

「・・・・・・・」
ティエリアは、起き上がって、ロックオンを見た。
そして、自分の隣に寝かせてあったジャボテンダーを確認してから、制服に着替え、歯を磨いて顔を洗って、それからいつものように眼鏡をかけた。
「あのーティエリア〜」
「空耳がする」
情けない格好のロックオンを、いつもなら喜んで抱きつくくせに、今日はやけに冷めている。そのまま、ロックオンを伴って・・・・というか、ジャボテンダー姿のロックオンが勝手にティエリアの後ろについてきた。
ティエリアは食堂に来ると、刹那とフェルトの横に座った。
「あれはなんだ、ティエリア」
「ただの変態だ」
「そうか。確かに、ロックオンは変態だな」
刹那は納得した。
フェルトが、涼しい顔の刹那の横で、笑い死にするのをこらえていた。
「フェルト、大丈夫か?」
「あっはっは・・・・ぐ、大丈夫よ」
きっとフェルト一人なら、床で笑い転げたに違いない。
「放置していいのか、ティエリア」
「僕には関係ない」
今日のティエリアはまとも・・・というか冷めている。思考がまともなのだ。おかしい。
さっと、ティエリアの手が動いて、フェルトが食後に楽しみしていたクッキーをいつの間にか食べてしまっていた。
「ああ、ティエリア!せっかくとっておいたのに!」
「僕は知らない。ロックオンのせいだ。朝起きたのに何処にもいなかった」
「ちょ、本気で言ってるの?」
「ティエリア・・・・」
刹那が、ティエリアの額に手を当てると、案の定熱があった。
「おい、ロックオン、ティエリア熱があるぞ」
「なに、まじかよ!」
よいせよいせと、ジャボテンダー姿のまま食事をしていたのだが、その一言に冷静に戻って、でもジャボテンダー姿のまま、ティエリアをよっこらせとおんぶする。
ティエリアは、大人しくロックオンに身を任せて、医務室に連れられていく。

普通に見えたのは、熱があったから。
そうじゃなければ、あれほどジャボテンダー狂なティエリアが、ロックオンのあの格好に冷たい態度を示すはずがない。

「ねぇ、刹那、クッキーもらっていい?」
「ああ」
フェルトは笑顔で、ティエリアに食べられた分を刹那から分けてもらった。
「そろそろ行こうか」
「ええ」
二人は手を繋いで食堂を出た。

カウンター席ではライルが、アレルヤをからかっていたし、マリーはソーマになって、同じようにアレルヤを囲んでいじめていた。
「ああ、みんないなくなっていく!マリー元に戻ってよ!」
「うるさい。私はソーマ・ピーリスだ!」
ばきっとマリーに殴られながら、アレルヤはそれでも至福だった。
「みんな平和ボケしとるな」
ライルはアニューがまだ寝ていたので、起こすことはなく、一人で食堂にきた。そろそろアニューを迎えにいこうか。
そうして、また一人、また一人と去っていく。
食堂はマリー(ソーマ)にしばかれるアレルヤだけになった。

「はい、紅茶をどうぞ」
「すまない」
その頃、刹那の部屋で紅茶を二人分いれたフェルトは、食後のティータイムを楽しんでいた。
「フェルト」
「え?」
「目を瞑ってくれ」
キスをされて、フェルトは真っ赤になって紅茶をがぶがぶ飲んでいく。
「もう、もう少し雰囲気考えてよ」
でも、まんざらでもないフェルトだった。


「風邪でもない。ただ体温が上昇しすぎてコントロールしきれんかっただけだなぁ」
医務室にいた医師は、そう告げて解熱剤をティエリアに飲ませた。
かつて、ここはドクター・モレノの占拠地であった。でも、彼は数年前の戦いで命を落とし、帰ってくることはなかった。
「はー。よかった」
ジャボテンダー姿のまま、ロックオンは眠るティエリアの頬に口付けて、彼が目覚めるのをずっと待った。
そして、4時間たった。
ロックオンはいつの間にはうつらうつらと眠っていたらしい。
ティエリアは体温が元に戻り、熱も下がってすっきりした顔で目覚めると。

「・・・・・・・・・・・・ジャボテンダー星人が襲撃してきたあああ!!」
そう言って、ロックオンを蹴り倒すのであった。
ある意味、冷めていたティエリアのほうがましだったかもしれない。その後、ジャボテンダーの着ぐるみを脱いだら、紛らわしいとティエリアに、本当のジャボテンダーでばしばしと殴られ続けながら、自室に戻るティエリアとロックオンの姿があったという。

「ち、計画失敗か」
一連の様子を見ていたリジェネは、ジャボテンダー星人の姿をホログラムで事前にティエリアに見せていた。それはジャボテンダーの着ぐるみをきたロックオン。
そのまま、退治されてしまえと計画を練っていたのに。
ちなみに、ロックオンに、ジャボテンダーの着ぐるみを着ればティエリアがサービスしてくれるとか、ムフフな情報を偽で流したのもリジェネ。
腹黒いが、ロックオンもムフフなことを期待したのでそれなりに腹黒いかもしれない。
その結果は、筋肉痛とジャボテンダーで殴られ続けるという愛の鞭であったが。

もう、このトレミーにまともな思考をした人物はあまりいないのかもしれない。
ジャボテンダーは、真っ黒なボタンのつぶらな瞳で、面白おかしいトレミーの人々の人生を、ティエリアに抱きしめられながら、時にはロックオンをしばく道具にされながら見つめているのであった。