螺旋する感情「罪深き囁き」







ティエリアは、熱を出してそのまま三日間寝込んだ。
それが精神的なものであるため、一向に回復する兆しはなかった。
刹那は、健気にティエリアの世話をした。
水を口に含み、飲ます。
点滴を受けさせる。
解熱剤を噛み砕き、口移しで飲ます。
解熱剤の効果が出たのか、ティエリアの体温が生命維持の危険ラインである39度以上になることはなかった。37度前後を保ったままだ。それでも、平熱の低いティエリアにとっては、普通の人間が39度以上の熱を出す高熱と変わらなかった。
「はやく、よくなってくれ」
祈るように、ティエリアの傍に付き従う刹那。
ライルは独房にいれられたままだ。
ティエリアが目覚めた時の精神的ストレスも考え、2週間の独房入りの懲罰は1週間に減らされた。アレルヤが強く嘆願したせいでもあった。

「おかしいよ。ライルがティエリアと喧嘩なんてするはずがない」
アレルヤが、一人疑問を抱く。
「ねぇ、ライル。君は嘘をついていないかい?」
独房にいるライルに話しかけても、返事は一向に返ってこなかった。
「あのね、ティエリアが熱を出してもう三日間も意識不明なんだ」
アレルヤがその言葉を出すと、はじめてライルが動いた。
「なんだと!?容態は?」
「刹那がつきっきりで看病してる。さっき見にいったら、熱が下がったって」
「そっか」
本当に心から喜んでいるようで、とてもティエリアと喧嘩をしたとは思えなかった。
喧嘩をしたのなら、剣呑な空気が残るはずである。
「ライル、君は嘘をついていないかい?」
「はっ、嘘なんてついてなんになるってんだ」
「それは・・・」
アレルヤが言葉に詰まる。
まさか、ライルが自分を犠牲にして、刹那とティエリアの結びつきを強くしているのだと、知る由もない。

ティエリアは目覚めた。
横には、眠っている刹那の顔があった。
「刹那」
ティエリアが、刹那に手を伸ばす。
刹那は大分疲れているようで、普段ならティエリアが起きたらすぐに目覚めるのに、深い眠りについたままだった。
ティエリアは、だるい体で起き上がる。
まだ体調は万全ではないが、ライルの元に行かなければならない。
ティエリアは壁伝いに歩いて、独房の前にくると、名前を呼んだ。
「ライル」
「お、ティエリア。目が覚めたのか。三日間も意識不明だってきいて、ひやひやしたぜ」
「あなたはなぜ、あんな嘘を刹那にいったのですか?」
「さぁ、なぜだろうな」
自嘲気味に、ライルが笑う。
「でも、刹那は優しくなっただろ?」
「あなたは・・・・・」
ティエリアは涙を零した。
「あなたは、愚かだ。不器用すぎる」
刹那とティエリアの関係を保つために、ライルは自分から犠牲になったのだ。
「愛する者のためには、これくらい平気さ」
「あなたが不幸になるだけなのに!」
「いいさ。それでティエリアが幸せになるなら、俺はいくらでもこの身を差し出すぜ」
「ライル!」
ティエリアが涙を零す。
「泣くなよ」
「あなたのかわりに泣いているんです。あなたが涙を零さないかわりに」
「はは、確かに俺は涙腺弱くないからなぁ。ティエリアは涙腺弱いな。いつもないてばっかだ」
「あなたのせいです」
「ごめんな」
「謝らないで」
「愛してるよ、ティエリア」
ティエリアは、刹那が意識不明のときに、ライルに「あなたの愛なんかいらない」とそれは残酷な言葉を放った。それなのに、ライルはひたむきなまでにまっすぐに、ティエリアを愛し続ける。
「僕はロックオンを愛しています。そして刹那を愛しています」
「知ってる。それでもティエリア、お前のことを愛している」
「あなたを選べない僕を許してください」
「俺が勝手に惚れてるんだから、ティエリアが気に病む必要はないさ」
独房のドアが開く。
「ティエリア?」
中に入ったティエリアは、ライルを抱きしめて、ただ涙を流した。
「あなたを選ばなかった僕を、許してください。愛しています、ライル」
螺旋する感情。
絡まる。
絡まって、絡まって。

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