人魚姫







ロックオンの部屋で、ガンダムマイスターたちが集まっていた。
菓子類や飲み物を手に、好き勝手に座っている。
今回は、ロックオンが企画した、一つの童話をアレンジして繋げて面白い話を作ろうという唐突な企画だった。
童話はある程度好きにアレンジしてもOKで、つなげればきっと面白い話ができるとロックオンは乗り気だった。アレルヤも、暇なので乗り気だった。
年少組み二人は、顔をブスっとさせ、全くやる気がなかった。
それぞれ、刹那とティエリアは参加を拒むように約束の時間も自室にいるところを、ロックオンに摘まれて、強制的にロックオンの部屋に集められた。
「よーし、第1回みんなでアレンジ童話を語ろう大会だ!いえぇ〜」
一人、ロックオンが立ち上がった。
「いえー」
アレルヤは、コーラを飲みながら手をあげる。
「家」
発音からして違うから、刹那。
「・・・・・・・・・・・」
ティエリアにいたっては、綺麗な顔を嫌そうに歪めて、そのまま何も言わなかった。

「では、まずトップバッターは刹那だ!なんの童話でもいいから、好きな話をだしてくれ」
「題材は人魚姫だ」
以下、刹那のお話。

昔々、あるところに人魚姫という素晴らしい鯉がいました。時価600万円の錦鯉です。
めでたし、めでたし。

スパーン!
「いきなり終わるなああああ!!!」
ロックオンが、あらかじめ用意していたハリセンで刹那の頭を叩いた。
「痛い」
刹那は、無表情ではたかれた頭を撫でる。
ハリセンは必須だと、ロックオンは巨大ハリセンを用意していた。
アホな話になるたびに、これでみんなの頭をはたいてやるのだ。いつも苛められている仕返しのようなものかもしれない。
「ううう、いいお話だったね、ハレルヤ」
アレルヤがマジ泣きしていた。
「そこ、泣くとこじゃないから!」
スパーン。
アレルヤの頭をハリセンが襲う。
刹那には思い切り力をこめたが、アレルヤはかわいいし自分を慕ってくれているので優しくはたいた。
明らかな差別である。
「はい、刹那やり直し!」
「めんどうくさい」
そう言いながらも、刹那は続けた。
以下、刹那の話。

昔々、あるところに人魚姫というとても美しい人魚がいました。
人魚姫は綺麗な歌声が特徴で、仲間の皆からも慕われていました。
「人魚姫、今日の売り上げは?」
「400万だな。ち、しけてるぜ」
人魚姫は密漁を生業としており、珍しい貝や魚を周辺の国に売っては膨大な利益を得ていました。
今日の密漁も終わり、札束を数えている時に、嵐になりそうな気配がします。
人魚姫は家のシャッターを下ろしました。
その頃、荒れ狂う波をぬって、巨大な船が海を航海していました。
やがて嵐になり、船は耐え切れずに沈みます。
船には、隣国の見目麗しい王子が乗っていました。王子は意識を失い、海に飲み込まれてしまいます。
その頃、人魚姫は着飾って婚約者の愛しいエルフ王と密会していました。
そのままめくるめく繰り広げられる20禁ワールド。エルフ王の魔法で美しい少女となった人魚姫は、エルフ王とバキューンバキューンと何発もやりまくっていました。
隣国の王子は、そのまま海に飲まれ溺れ死にました。
めでたし、めでたし。

スパーン!
「なんて破廉恥なんだ!」
刹那の口から語られるバキューンバキューンの部分は、とうてい言葉にできないくらいエッチだった。流石に、ロックオンに隠れて18禁のサイトや映画やドラマを見たり聞いたりはしていない。
ロックオンは顔を真っ赤にしている。
アレルヤにいたっては、鼻血を出して倒れていた。血文字で刹那と床に書かれている。
ティエリアは、真剣にきいていた。
「いい話だな」
ティエリアがメロンソーダを飲む。
「ティエリア、全然いい話じゃないだろうが!」
「だって、違う種族のものが結ばれるのは普通ではありえないことだ。いいことだろう」
「あー、もう次アレルヤ!王子は溺れ死ななかった。はい、その続き」
以下、鼻血をとめて意識を回復したアレルヤの話。

王子は、奇跡的に助かりました。バキューンバキューンしていた人魚姫が、気分が乗らないと途中でやめて、海に戻った時、偶然にも王子を発見したからです。
王子は、人魚姫の魔法で海の中でも呼吸ができるようになりました。
そのまま、見目麗しい王子に恋をしてしまった人魚姫は、王子をつれていろんな場所を案内しました。
愛しい王子のため、密漁という稼業もやめ、人魚姫は王子と海の中で穏やかに暮らします。
けれど、王子が海の中で呼吸しているのにも限界がありました。人魚姫の魔力がつきかけていたのです。人魚姫は泣く泣く、王子と別れを告げました。
王子は自分の国の浜辺から城に戻りました。
つづく。

「うんうん、流石アレルヤだ」
ロックオンが関心したように頷いた。
アレルヤらしい、素直で純朴なストーリー展開だった。
「おもしろくもなんともないぞ」
刹那が、パリポリとつまらなさそうにぽてちを食っていた。
隣では、ティエリアが小説を読み出している。
スパーン。
ティエリアの頭をハリセンで叩くロックオン。
「没収だ、没収・・・って、中世の残酷拷問歴史!?なんつー小説を読んでるんだ!教育によくない!没収!」
挿絵のグロテスクさに、ロックオンが眉を顰めた。
「あ、せっかく面白いとこだったのに」
ティエリアが、没収された小説を仕方ないとあきらめ、メロンソーダを飲む。
ティエリアの感性は人とはずれている。
「じゃあ、続きは俺な」
以下、ロックオンの話。

人魚姫は、王子のことが諦めきれず、人間になることを決意しました。
そして、人間になるために人魚の魔女のところにやってきました。
「やぁやぁ人魚姫。お前の願いは分かっている。変わりに、その美しい声をもらうぞ」
「そんな、私の声を!」
「そうでもしなければ、つりあいがとれんわい。それとも、王子のことを諦めるか?」
「いいえ!私を人間にしてください!」
魔女の魔法によって、人魚は美しい人間の少女になりました。

そこまでロックオンは話して、ひねりがないなと思い、アレンジしだした。
以下、再びロックオンの話。

人魚姫は、密猟で儲けた金を使ってマフィアを雇い、魔女を脅し、魔法の一部を解いて貰いました。
人魚姫は、声を取り戻しました。
そして、愛しい王子のいる城まで着飾ってやってきました。
しかし、なんたることでしょう。王子には、すでに后がいたのです。
王子は、人魚姫を迎え、側室としました。そして、人魚姫は、后とその子供に毒を盛り、殺しました。
自分のものだけになった王子と人魚姫は深く愛し合います。
しかし、王子は不能でした。人魚姫が巨乳だったからです。王子はツルペタな女性しか愛せない体質でした。
つづく。

スパーーーン!!!
ロックオンが持っていたハリセンをティエリアが奪って、息も荒く何度もロックオンの頭をはたいた。
「誰がツルペタだ、誰が!僕のことか、そうなのか、えええええ!?!?」
スパーン、スパーン!!
「あいてて、簡便」
逃げるロックオンに、刹那が足払いをしかける。
「ぎゃあああ」
ロックオンは派手に転んで、ベッドにつっぷした。
「ティエリア、落ち着いて」
アレルヤがなんとかなだめる。
ティエリアは、メロンソーダをあおった。
「ひっく」
ティエリアの白い肌が、ほんのり染まっている。
「うわ、これアルコール入ってるじゃないか!」
ティエリアが飲んでいたメロンソーダはアルコール2%のカクテルだった。
ティエリアの本物のメロンソーダは刹那が飲み干していた。
「刹那ああああ!!!!」
ロックオンが、刹那の首を締め上げる。
「俺じゃない」
「あ、それ僕がもってきたやつ」
アレルヤが、参ったなぁとばかりに、ほとんど空になったカクテルメロンソーダの瓶を、ティエリアから取り上げた。
「最後は僕ですね」
酔っ払っているようにも見えたが素面にも見えて、まだ大丈夫なようであった。
アルコール度も低いので、そのままロックオンもアレルヤも様子を見ることにした。
刹那は、一人ロックオンに呪詛を呟いていた。
以下、ティエリアの話。

人魚姫は、実はドラえもんの道具で巨乳になっていたのです。人魚姫は、早速ドラえもんを呼びました。
「またのび太君、無茶なことを言って。仕方ない、解毒剤をあげるよ」
「ありがとう、ドラえもん!」
人魚姫の本名は野比のび太でした。
ドラえもんから解毒剤をもらった人魚姫は、みるみるうちに胸が小さくなりました。
そのまま、王子は人魚姫を深く愛します。
バキューンバキューン(以下、自主規制)
人魚姫は、王子との恋にあき、王子を捨て去りました。
そして、なんたることでしょう、魔女の呪いがふりかかったのでした。婚約者であったエルフ王も、自分を裏切った人魚姫を許さず、その凄まじい魔力をもって、魔女に人魚姫に最大の不幸になる呪いをかけるように頼んだのでした。
魔女は、人魚姫を人間から人魚に戻しました。
貴族たちの間で歌姫と絶賛され、寵愛をほしいままにしていた人魚姫に破滅がやってきます。美しい声もまた奪われました。
そのまま、人魚姫はどんどんと魔法で退化していき、ついに逃げるように淡水の池に身を潜ませます。
「おおー、凄いのがとれたぞ!」
池で漁をしていた網に、人魚姫はかかってしまいました。
もう、美しい人魚姫の姿は形もなく、虹色に輝く美しい錦鯉になっていました。時価600万円の錦鯉です。
漁師は大もうけしました。
めでたし、めでたし・・・・では、おわりません。

ティエリアの話はまだ続いた。
以下、ティエリアの話。

漁師は、美食家で有名な王子に、錦鯉を見せました。
「おお、なんて美しい錦鯉だ。まるで人魚姫のようだ。早速刺身にしてくれ」
「かしこまりました」
人魚姫は、錦鯉となって、刺身にされました。
「ぎゃああああああああ!」
「うわああああああああ!」
調理場で、コックたちの悲鳴が響きます。
刺身にされ、息絶えた人魚姫の呪いが解けたのです。
そこにあるのは、血みどろの人魚姫の血に染まった肉。
騒ぎにかけつけた王子は、その光景に胸を打たれました。
そして、素手でぐちゃぐちゃと人魚姫の肉をくい、内臓をくい、新鮮な血を飲み干しました。
「ははははは!なんて美味いんだ!これから、毎日おれは人間の肉を食うぞ!」
王子は乱心しました。
それから、毎日毎日、罪もない人間が拷問にかけられ(自主規制)
そして、かの有名なエリザベート・バートリーのように、王子は処女の生き血の風呂に入り、生のまま娘たちの肉を貪り食うのでした。
ビチャビチャと滴る大量の血。王子はどんどん歪んでいきます。
あらん限りの拷問で責め立てたあと、生き血を抜いて飲み干し、そしてその生肉を貪り食うのでした。
王子は新しく結婚した后も殺して食べてしまいました。
その国では食人文化が栄え、今でも戦争で捕まえた捕虜を拷問にかけ、生のまま人間の肉を食い漁るのでした。
めでたし、めでたし。

「う、うええええええ」
ロックオンが、顔を真っ青にして震えていた。
拷問のシーンや人を食べる描写があまりにも緻密で、聞いていて気分が悪くなったのだ。
確実に、とりあげた小説の内容が響いている。
「ティエリア、今度、世紀の食人鬼ブラッディ・ジャルルとその一族という映画を見ようか。18禁でぐっちゃぐちゃの凄いえげつない映画だ。面白いぞ」
「面白そうだな、見たい」
ロックオンは、震えながら、二人の頭をスパーンとはたいた。
「どうした、ロックオン・ストラトス。顔色が悪いぞ?まさか、怖いのか?」
「ロックオン、たかが作り話なのに、怖いの?」
刹那とティエリアが楽しそうに会話をはじめる。
そして、刹那は部屋から世紀の食人鬼ブラッディ・ジャルルとその一族という映画のDVDをもってきて、そのままDVD鑑賞会になってしまった。
アレルヤは、あまりの恐怖にすでに昇天していた。
「ロックオン・ストラトスも見ろ」
「ねぇ、ロックオン、一緒に見よう」
年少組みにがしっと捕まえられ逃げられない。

「ぎゃあああああああああああああ」

ロックオンの悲鳴が、トレミー中にこだました。
映画のあまりのグロテスクさに、何度も悲鳴をあげてティエリアに泣きかけて抱きつく。
刹那は、パリホリとポテチを食べている。
「人間の内臓の構造に忠実だな。よくできている」
ティエリアも真剣に、違う角度から映画を見ていた。

一つの童話をアレンジして繋げて面白い話を作ろうという唐突な企画は、ロックオンを恐怖の底に叩き落して幕を閉じた。
ちなみに、アレルヤは一度目覚めたが、画面の中のあまりの残酷なシーンにまた意識を飛ばした。
DVDを見終わり、刹那とティエリアは満足したようだった。
そのまま、就寝時間となる。
ロックオンは、それから一週間、ずっとティエリアの部屋で一緒に眠った。怖くて、一人では眠れなくなってしまったらしい。
刹那が、影でザマーミロと言っていたのは内緒である。