15話補完小説「ミレイナの初恋







「ううう、もう食べられないですう」
「・・・・まだ居たのか」
ティエリアは、格納庫でガンダムの修理をして、疲れ果てて眠ってしまったミレイナに毛布をかけていた。
てっきり、自室に戻ったものだと思っていたが、ミレイナはその場所でまだ眠っていた。
毛布は蹴られて、足元にぐしゃぐしゃになっている。
短めのスカートは捲れて、パンツが丸見えだった。
「イアンに少し似ているな」
こういう大雑把というか、粗雑なところはイアンにそっくりだ。
紹介されたミレイナの母親は若く美しく、ミレイナにはあまり似ていない。
ミレイナは、どちからというと父親のイアン似だろう。
「あちゃー、なんつー格好して寝てやがるんだ」
イアンがやってきて、我が娘のあまりの格好に顔に手を当てた。
ティエリアの手が伸び、ミレイナを抱き上げた。
「ティエリア?」
「イアンにはガンダムの修理を一刻も早く頼みたい。ミレイナは、僕が部屋まで運んでおくので、ガンダムのことは頼んだ」
「まぁ、ティエリアならミレイナを任せてもいいか」
他の男どもなら断っていたが、ティエリアは無性の中性体であり、女性に全く興味を示さない。刹那とライルと三角関係であるようで、存在的には女性に近いだろう。
「ミレイナのことは頼んだ。ガンダムのことは俺に任せておけ」
「いつもすまない。ありがとう、イアン」
「いいってことよ」
そのまま、ティエリアはミレイナを抱き上げた。
トレミーでも一番若いミレイナの体重は軽いが、それでもティエリアには重かった。
よろめきつつも、しっかりと抱きかかえて、ミレイナの部屋へと歩きだす。
「んあー、もう食べれないですう。でも食べたいですう」
むにゃむにゃと寝言をいうあどけない少女に、自然とティエリアの表情も綻ぶ。
「っあ」
躓きそうになって、体勢を立て直す。
そのとき、ミレイナが目覚めた。
「アーデさん?なにしているですか?」
「寝てしまった君を、君の部屋まで運ぼうとしていた」
そのときのティエリアは、いつもの美しい顔を優しく和ませていた。
少女のようにも、少年のようにも見える中性的な顔立ち。
「あわわわ、一人で立てるですう」
ミレイナが暴れて、ティエリアはよろめいた。
「う・・・」
「アーデさん?」
「すまない。戦闘の時に少し負傷したんだ。みんなには内緒にしていてくれ・・・・またいつ敵が襲ってくるかも分からない」
ミレイナは、毛布をティエリアにかけると、ティエリアを抱き上げた。
「ふん!!!」
ミレイナは力が無駄にあることが、自慢の種だった。
「ミレイナ、無茶をしなくても一人で立てる」
そういうティエリアであったが、つらそうな顔している。
左肩にはうっすらと血が滲んでいた。
「イノベーターの再生速度をもてば、数時間で治る。どうか、このことには皆には」
「言いませんですう」
そのまま、ティエリアを抱きかかえて、ミレイナはドシドシと歩き出した。
「普通、逆ではないのか?」
「アーデさんは患者さんですう」
ミレイナは自室までくると、そのままティエリアを寝台に下ろした。
「ありがとう。女性に運ばれるなんて、恥ずかしい・・・」
頬を染めるティエリアに、ミレイナはもう我慢できなかった。
「アーデさん!衣服をとっとと脱ぐですう!」
あれよあれよという間に、衣服を脱がされる。
黒のベストは着たままで、その上から左肩に包帯が巻かれた。
「ありがとう、ミレイナ」
「アーデさんは、女性に恋したことがありませんね?」
「え、ああ、そうだけれど」
「女性に恋をすれば、男性になりますか?」
「僕は無性だから、完全な男性にはなれないけれども、男性の存在に近くはなると思う」
「おっしゃあ!」
ミレイナはガッツポーズをとった。
「今のアーデさんでも十分素敵ですう。今のままでもいいかも・・・」
「ミレイナ?」
ミレイナの目は輝いていた。
「アーデさんは、ミレイナの王子様ですう」

「は?」

「これからラブラブアタックしかけて、いつか落としてみせますう」
「あの、ミレイナ?」
「うふふふふふ」
すでに、ミレイナは怪しい笑みを浮かべていた。
「ミレ・・・」
唇が、ミレイナの唇と重なる。
ティエリアは真っ赤になった。
「ミレイナ、君はなんてことを」
「私、アーデさんが好きになりました。初恋ですう」
「初恋ってミレイナ」
「恥らうアーデさんも素敵。禁断の愛でも構いません。ミレイナはアーデさんが好きですう」
「僕もミレイナのことは好きだよ。でも、君には僕なんかよりも素敵な男性が現れるはずだ」
「その謙虚さが堪らないですう。ロックオンさんを愛し続けるティエリアさんも堪らないですう」
「あー、ミレイナ?」
「このネタを同人誌に描かなければ!」
いた。
ここにも、ミス・スメラギの毒牙にかかり、同人誌にはまり、そして自分で作成までする人間が。
ティエリアもミス・スメラギの仲間なので、なんともいえない。
「アーデさんと恋するミレイナ。ああ、素敵」
すでに、妄想の世界に入っている。

ティエリアは、静かにミレイナの部屋を後にした。
ミレイナは、早速漫画を描く原稿用紙を取り出して、そこに下描きをかいていく。

ティエリアはため息をついた。
これは、イアンに小言をいわれることになりそうだ。
ミレイナは悪い子ではない。
好きにはなれないと、無残に突き放すこともできない。
これから困ったことになりそうだと、ティエリアは天井を仰いだ。