肩を噛んで声を殺す







「つ」
ティエリアの綺麗な顔が歪む。
コックピットから降りた瞬間、その場に蹲る。
「怪我したのか?」
ライルが近寄ってくる。
「違います」
平然とそう呟く。
いつもの調子に戻り、立ち上がる。
「そっか、ならいいんだ」
ノーマルスーツのまま、そのまま別れる。
「・・・・・・っ、・・・・っ」
押し殺した声を、さらに殺してティエリアはノーマルスーツから衣服に着替えるべく更衣室に入る。
他のガンダムマイスターたちはみんな着替えてしまった。
残っているのはティエリアだけだ。
ガタン。
「誰だ!?」
ティエリアが、いつも所持している銃をそちらに向ける。
「刹那・・・・なぜ、ここに」
刹那は、何も言わずティエリアのノーマルスーツを脱がしていく。
「刹那!」
ティエリアが抗おうとして、痛みに顔をしかめた。
痛みに対する神経が鈍いといっても、痛いものは痛いのだ。
「右肩の深い裂傷。全治二週間というところか。治癒カプセルいきだな」
緊急セットを取り出して、応急処置の止血をする。
流れ出る血を、刹那の舌が舐めとる。
「・・・・・あぐっ」
アルコールを吹き付けられ、ティエリアが刹那の体にしがみついた。
そのまま、傷口に直接アルコールを拭きつける。
「い・・・あ・・・」
ティエリアは、刹那の肩に噛み付いて、痛みをこらえ、悲鳴をあげるのを我慢する。
普通なら、気絶してもおかしくないくらいに酷い怪我だ。大の大人でも、この痛みだと泣き叫ぶだろう。それを、刹那にしがみつき、噛み付くという行動でやり過ごす。
そのまま、止血と消毒をすませ、手馴れたかんじで傷口にガーゼをあてると包帯を巻いていく。
「問答無用だ。医務室に連れて行く」
ティエリアのノーマルスーツを脱がせ、下の衣服だけ着替えさせる。
上半身は、血にまみれた包帯を巻かれたままだ。
黒のベストはティエリアが嫌がるので脱がさない。
ティエリアを抱き上げる。
「何故、分かった」
「血の匂いがした」
抱きかかえられながらも、刹那が答える。
「血の匂いか・・・」
医務室につく。
ドクターがすぐに治療に当たってくれた。
「応急処置は完全なものだな。局部麻酔をかけて傷口を縫合する」
そのまま、局部麻酔がかけられ、丁寧に傷口が縫合された。
「治癒カプセルには・・・」
「カプセルには、入らない」
強く、ティエリアが否定する。
「全く、ティエリアも刹那と同じか。カプセルに入らないのはお前たち二人くらいのものだぞ」
ドクターが説教をたれだす。
それを聞き流す。
「三日後に、再生治療を受けに来る。それで、傷口を完全に治してほしい」
「はぁ?たった三日?全治二週間の怪我だぞ」
「僕はイノベーターだ。細胞を活性化させ、自己治癒能力を極限にまで高める。三日あれば事足りる」
「はぁ、さいでっか。お前さんの体の仕組みは一体どうなってるんだ」
「では、ドクター、三日後に」
歩き出そうとベッドから起き上がって、立ちくらみにあう。
「無理するな。かなり出血しただろう、この傷なら。輸血していくか?」
「必要ない。刹那」
呼ばれて、医務室の壁に腕を組んでもたれかかっていた刹那が、ティエリアを抱き上げる。
「刹那、ティエリアが大事ならお前からももっと自分の体を大事にするようにいいきかせてくれないか」
「無理だな。ティエリアは俺に似て、自分の体にあまり執着しない」
「全く、お前たちは理解できんよ」
「理解されなくてけっこうだ。誰も、俺たちの間に踏み入れることはできない」
「刹那、僕のベストは?」
治療のために脱がされてしまった黒のベストは、血をすってにごっていた。
「新しいのに着替えたほうがいい」
幸いなことに、肩から胸にかけて包帯が巻かれているので、ベストを着なくても、部屋にたどり着くまではなんとかなりそうだ。
それでも心元なくて、羽織っていたポレロで胸の部分を隠す。
平らでなくなってしまった胸は、別に見られても平気なのだが、ロックオンに隠せといわれていたので、平然と人前で晒すような行為はしなくなった。
刹那が、廊下でいったんティエリアをおろした。
「刹那?」
石榴の瞳で見上げると、刹那が自分のポレロを脱いで、ティエリアの肩に羽織らせた。
露出してしまった肌の白さが目に痛い。
「部屋はどちらにする。ティエリアの部屋か、俺の部屋か」
「聞くまでもないだろう」
「そうだな」
そのまま、ティエリアを抱き上げて、刹那は自分の部屋にティエリアを運んだ。
三日間、そのままティエリアは出てこなかった。
寝食共に刹那と過ごした。
訓練は、怪我をしたということで放棄する形となった。
そのまま三日が過ぎ、再生治療を受けて、ティエリアの肩の傷は跡形もなく消えた。
ドクターが、本当に三日で治癒してしまったことに目が落ちそうなほど驚いていた。
「・・・・・・ふ」
白い肌の肩を、刹那の唇が這う。
「傷跡はないな」
「だから言っただろう。何も見る必要はないんじゃないのか」
「ティエリアの肌に傷がついているのは俺が許さない」
「僕の問題だろうが」
「それでも、俺が許さない」
「我侭な」
「俺は、ティエリアに関しては我侭になる。傲慢にもなる」
「好きにしろ」
そのまま、同じベッドで眠った。

比翼の鳥は、今日もまた寄り沿いあう。
誰よりも、その存在を大切に。