僕の瞳には映らない「信じてる」







「リボンズ・アルマーク。君は完全に包囲されている。大人しく、ティエリア・アーデ嬢を引き渡せ!」

「だってさ。あはははははは」
リボンズは狂ったように笑った。
やがて、ガードマンもいない無人ということで、相手側のガードマンが窓を破り、進入してくる。
銃を向けられながら、リボンズはティエリアを抱いて、その首にサバイバルナイフを突きつけていた。
「発砲してごらんよ。アーデ嬢の命もないよ」
「ティエリア!」
同じように、銃を向けたニールが血まみれなティエリアの姿に驚愕する。
「ニー、ル」
虚空に向かって、手が伸びる。
「ああ、君がティエリアの新しい婚約者。いいことを教えてあげよう。ティエリアはね、施設に引き取られるまでずっと、実の父親から性的虐待を受けていたんだよ」
「なんだと!でたらめを言うな!」
「本当だよ。ねぇ、ティエリア」
ティエリアは涙を零す。
「いつか・・・・隠していてもばれます。リボンズの言うとおりです。僕は、お父様から性的虐待を受けていました」
「あははははは!」
リボンズがさも面白そうに笑いまくる。
「これで終わりだね、君たちも」
「でも、体はいくら蹂躙できても、心までは蹂躙できません。ニール、あなただけを愛しています。僕は穢れています。僕は欲張りです。穢れていても、あなたに愛されたい」
「何言ってるんだよ!」
リボンズがティエリアを殴り飛ばした。
その隙を見計らって、ガードマンが銃を発砲し、それはリボンズの手に当たり、リボンズの手からサバイバルナイフが飛ぶ。飛んだサバイバルナイフを、一人のガードマンがしっかりと踏みしめる。
「おおおおお!」
ティエリアにさらに殴りかかろうとしていたリボンズの体が、吹き飛んだ。
血にまみれるリボンズを無視して、ニールが殴り飛ばされたティエリアに駆け寄る。
「僕を愛してくれますか?穢れていても」
「愛している。ティエリアの過去に何が起こっていたとしても、それはもう過去のできごとだ。俺がこれからティエリアを守る。愛している」
抱きしめる。
ティエリアの瞳には、ニールは映らない。
それでも、ニールの方を向いて、強く抱きついた。
「愛しています。僕を、捨てないでください」
「俺も愛しているよ」
「ヒリングさんのお腹の子供は?」
「あれは違う。そこにいるリボンズの子供だ。心配したライルが、頼まれて一緒に産婦人科に行ったんだ」
「そう・・・・良かった」
二人はそのまま唇を重ねた。
血まみれになったリボンズは、止血され、拘束される。
アーデ家の令嬢を拉致監禁、暴行した罪で、リボンズは後に有罪が確定し、今まで闇に葬られていた拉致監禁、暴行事件も含めて、その被害者の一人が死亡していることから、終身刑が言い渡されることになる。

「アーデ嬢をこちらに」
ガードマンが、血に染まったティエリアの応急処置を施す。
「出血が酷いです」
ガードマンの一人が冷や汗をかく。
ティエリアの全身には無数の切り傷があった。特に、右手首の傷が深く酷い。
「早く、待機させてあった医師を呼べ!それから輸血の用意を!」
そのまま、ニールと一緒にティエリアは緊急病院まで運ばれ、治療を受けた。
輸血され、眠り続けるティエリアは、ずっと起きなかった。
「ワンワン」
「マリアも、お前が起きるの待ってるぜ?」
病室で、包帯まみれになったティエリアの手を、ニールはずっと握り締めていた。
イオリアは心臓発作をおこしたが命に別状はなく、医師の静止も無視して、無残な姿になったティエリアの前にきて、涙を零すと、ニールに後は頼んだと言い残して、ベッドに戻った。
事件から、一日、二日、三日。
ティエリアは再生治療を受けた。
最新の医学による再生治療により、傷まみれだったティエリアの肌には傷一つ残らなかった。
そのまま、ティエリアは眠り続ける。
まるで、茨の塔の眠り姫のように。
そのまま医師チームが組まれ、昏睡状態の間にティエリアの両目を再生する治療が施された。
事件から、一週間、一ヶ月、二ヶ月、三ヶ月。
両目の再生治療は完璧に終わった。
もう、ティエリアの両目は光を取り戻している。
それでも、ティエリアは目覚めない。
まるで、茨の塔の眠り姫のように。
自分の周りに見えない茨を築きあげて。

「ワンワン」
「マリア、今日も元気だな」
ニールは学校を休学した。
毎日、ティエリアの傍にいた。両親も止めず、学校側も特別な計らいをしてくれた。
季節が巡り、冬から春になった。
ティエリアの長い髪をなでながら、ニールは毎日のようにティエリアに語りかける。
「茨の眠り姫は、王子様のキスで目覚めるんだっけ」
もう、何度も口付けした。
絶対に、諦めない。

「愛してるよ、ティエリア」




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