あなたの傍に









次の武力介入までには、時間があった。
ソレスタルビーイングは今となっては戦争やテロ行為を行っている国にしてみれば、脅威の対象であり、CBに面だって敵対する 組織も国もなかった。
ガンダムの力は、それほどまでに強力だった。仮に敵対したとしても、反対に殲滅されるのがおちだろう。
ミス・スメラギから2週間の休暇を言い渡された。
アレルヤと刹那は地上に降りるらしい。地上で、休暇をすきなように楽しむようだった。
特に、刹那は経済特区である日本の東京に家を借りており、そこでしばらくの間過ごすようだった。アレルヤは、ただ地上に降りて気分転換をしたいだけだったようで、 結局は刹那の家に2週間泊まることになった。
ロックオンも、地上に降りるつもりだった。
故郷であるアイルランドの地を、久しぶりに踏むつもりだったのだ。
「おーいティエリア。よければ、一緒に地上に降りないか?」
アレルヤと刹那は、また今度誘えばいい。
ロックオンは、ティエリアに自分の故郷を見せたかった。農牧の広がるあの広大な大地を。平和であるが、けれど いまだにカトリックとプロテスタントとの間の対立は収まらず、テロ行為はたまにあったが、それでも首都から離れて しまえば長閑な田舎の風景が広がる、平和な国だった。
「あなたは、僕が地上が嫌いなことを知っているでしょう。万死に値します」
ティエリアは、ロックオンの誘いを蹴った。
しかし、ロックオンは一向に気にしたそぶりもみせずに、こう囁いた。
「ティエリアに、俺の生まれた国を、生まれた故郷を見て、そして生まれた家にきてほしい」
それは、半ば愛の囁きのようであった。
ロックオンは意識していなかったが、ティエリアはそんなことを言われたのは始めてで、すぐに頬が紅くなった。
それに苦笑しながら、ロックオンが続ける。
「嫌か?」
「それは…」
「俺は、アレルヤや刹那も大切だけど、それ以上にお前さんが大切なんだ。一緒の時間を過ごしたい」
口説かれているのと、ほとんと同じ状況だった。
ロックオンは、ティエリアが無性であると知ってから、何かと優しく接しそして庇ってくれた。男性としてティエリアを扱っている つもりのロックオンであったが、半ばティエリアに対しては女性と接するのと似た部分があった。
女性化の進むティエリアには、女性として扱われるのには嫌悪感があった。男でいたい。女になりたいくない。
けれど、不思議とロックオンに女性のように扱われても嫌悪感はなく、逆に自分だけが特別であるような気がして心地よかった。
「僕が地上が嫌いなことを知っていて誘っているんですか?」
「2週間もずっとトレミーで過ごすつもりか?地上が嫌いなのは重力があるせいだろ。たまには、地上に休暇に降りるのもいいだろ? それともなんだ、俺と一緒に俺の故郷にくるのは嫌か?」
嫌だ。
そう否定するのは、とても簡単なことなのに、ロックオンの傍にいたいとティエリアは思った。
「あなたの生まれた故郷はアイルランドでしたね」
やっと会話にのってきたティエリアに、ロックオンが表情を和ませた。
「長閑で、いい国だぜ。生まれた家は、まだ処分してないんだ。時折、ハウスキーパーに頼んで家の掃除とかはちゃんとして もらってる」
「2週間、その家にあなたと滞在しろと?」
「あの家は、思い出がいっぱいつまってるんだ。だが、俺は家族をテロで亡くしちまったからな。一人でいるのは辛い」
「ロックオン」
「ティエリアが傍にいてくれたら、辛さも吹き飛ぶんだけどな?」
翠の瞳が、哀しい輝きを放っていた。
それが痛ましくて、ティエリアは気づくと首を縦に振っていた。
「そうかそうか。来てくれるか。実はな、実家に誰かをあがらせるなんてもう何年もしてないんだ」
「いいんですか?」
「ティエリアなら、いいさ。何せ、特別だからな」
特別という言葉に、ティエリアの石榴の瞳がロックオンに縋りつく。
「嘘は、言わないでくださいね」
「嘘なんていわないさ。一緒に来てくれるんだよな?」
「あなたが、そこまでいうのなら」
ぐしゃぐしゃと、ロックオンの手がティエリアの頭を撫でた。
「子供扱いしないで下さい!」
ティエリアが声をあげる。
構わずに、ロックオンは笑った。そして、そっと抱きしめると額にキスを落とした。
「好きだよ」
「はぐらかさないでください。本当に、あなたという人は」
ティエリアは、ロックオンに翻弄されながらも、優しい時間を過ごしていた。

そして、二人は地上に降り、アイルランドのロックオンの実家で2週間を過ごした。
本当に、穏やかな時間だった。
それが幸福というものなのだと、ティエリアはロックオンの傍にいながら思った。
たとえ、場所が宇宙であれ、彼の傍にいられればそれだけでティエリアは幸せだったろう。
それはロックオンも同じことだった。