僕の兄弟なのに







「む・・・・・・」
「どうしたんだい、リジェネ」
淡い緑の髪で、リボンズが隣に座る絶世の美貌を持った少年に問いかける。
同じイノベーターの中でも、リジェネはリボンズのお気に入りだ。
少し他のイノベーターとは違う。
どちらかというと、ガンダムマイスターとして、人間として生きるティエリア・アーデに近いかもしれない。人間という生き物を睥睨するだけではなく、純粋に興味深そうに観察する。
他のイノベーターは、人間に関心なんて一欠けらも持ち合わせていない。

僕らとは違う。
私たちとは違う。

どのイノベーターも人間を睥睨し、下等な生物であると蔑視する。
そんな中、リジェネは人間がつくったドラマや映画を見たり、小説を読んだり・・・・とにかく、人間のことに興味深そうにいろいろと人間の作ったものを鑑賞しては楽しそうな毎日を送っている。

「リボンズも見るかい?ティエリアが描いた同人誌」
「・・・・・・・・ティエリアは、そんなことをしているのか」
「けっこう面白いよ。ガンダムOOで、僕たちも出てくる」
「くだらない」
「そうかな?」
ちなみに、今読んでいる同人誌は、ティエリアの個人同人誌で、ロックオン×ティエリアだった。
ほのぼのしたギャグがかかれていて、中身は甘い砂糖菓子のようだ。

「ジャボテンダーさんアタック。・・・・ティエリアらしいね。きっと、現実でもこんなことをしていたんだろうね」
「あの男はもういなくなったというのに、ティエリアはまだ固執している」
いまいましそうに、リボンズが舌打ちする。
「まぁ、ティエリアは人間の道を選んだから・・・・深く愛していても仕方ないさ」

ぶくぶくぶく。
氷の入ったマンゴージュースのストローに空気を送り込むリジェネ。
「リジェネ。行儀が悪いからやめなさい」
リボンズが呆れた声を出す。
「ティエリアったら、またあの男のこと考えてる」
遠く離れていても、意識を集中すれば、ティエリアの考えていることは少しだけ分かった。
「嫉妬してるのかい?」
「してるよ。悪い?僕の兄弟だもの。ティエリアは僕のものなのに。あの男が、ティエリアの心を支配している。僕のものなのに・・・・」
リジェネは、マンゴージュースを飲んだ。
それを、リボンズの手が奪う。
そのまま、中身を全部飲まれてしまった。
「君も、子供っぽいことをするね」
「リジェネが、ティエリアのことばかり考えるからだ。リジェネは僕のものだ」

クスリと、リジェネが悪戯っぽく笑う。
イノベーターの中でも、とりわけリジェネとティエリアは美しい。
シンメトリーをえがく二人は、双子よりも似ている。
同一人物のように。
リボンズは、イノベーターの同胞の中でも、ティエリアとリジェネが気に入っていた。ティエリアは自分のものにならなかったが、リジェネは手放さない。
「僕は、誰のものでもないよ」
氷の薔薇のような美貌。

「つれないな」
「だって、僕はティエリアのものだもの。そして、ティエリアも僕のものだ」
「自己愛に似ていないか、それじゃあ」
「構わないさ」
クスクス。
二人は笑いあう。

「さぁ、ティエリア。君がもがく姿を見せておくれ。まだまだ、舞台は続いているよ」
瞳を金色に輝かせるリジェネ。
ティエリアは自分のものだというが、酷いことを言う。
ティエリアがもがき苦しむのが、リジェネにとっては快感でもあった。
シンメトリーをえがく相手が苦しんでいる。同じ美貌を持っているのに、イオリアに天使として特別に作られたティエリア。心の何処かで嫉妬している。

「愛しているよ、ティエリア」
遠く離れたティエリアに囁く愛は、小悪魔が囁くもののように純粋に醜く歪んでいた。