それが君を支える







「ロックオン・・・・・あなたの分まで、僕は生きて変わっていきます」
そっと、ロックオンの墓に白い百合の花束を添える。
カスミソウも一緒に混じっていて、白い白い花は、暗い墓地で凛と綺麗に咲き誇っていた。

「見守っていてください。あなたがなしえなかった未来を、築いて見せます」
涙は流さない。
もう、数え切れないほどの涙を流した。
涙ばかり流していては、ロックオンが心配してしまう。

黒のスーツに身を包み、黒のネクタイをしていた。
首には、ロックオンが買ってくれたお気に入りのガーネットをあしらった黒のチョーカーを身につけていた。
黒に塗りつぶされた色彩の中、その緋色だけが鮮やかに輝く。

冥福を祈るように、墓の前で跪く。
「どうか、安らかに・・・・・」
唄を歌う。
捧げるように、祈るように。
ロストエデンの唄を歌って、ティエリアは起き上がる。

墓地から離れた木陰から、コートに身を包んだライルが姿を現し、ゆっくりと墓の前にやってくる。
「ライル・・・・」
「ずっと、不思議に思ってた。この四年間、墓地にいくと花束があるんだ。はじめは家族の墓に花束が置かれていて、それから数ヶ月には近くに新しい墓ができた。彫られた名前は、「ロックオン・ストラトス」・・・・・そこに、家族の墓にいつも置かれていた薔薇や百合の花束が置かれるようになったんだ」
懐かしむように、エメラルドの瞳が細められる。

「誰の墓なのかなって、ずっと思ってた。兄さんは生きて、通信はなくなったけど、何処かにいるんだと思ってたから・・・・」
一緒に、目の前にある、十字架を象った墓を見る。
ライルの手には、白い薔薇の花束があった。
ゆっくりと、それを墓に捧げる。
誰でもないロックオン・ストラトス・・・・ニール・ディランディである、実の兄の墓に。
「すまない・・・・」
ティエリアが顔を伏せた。

「心のどこかで、気づいてたんだ。家族に捧げられていた花束は、いつもいつもこの墓に捧げられて。「ロックオン・ストラトス」って誰だ?って思いながらも、もしかしたら・・・って。でも、兄さんは生きているだ、きっと元気にしているって、この四年間、現実を直視するのを避けていた」
「すまない・・・・」
ティエリアは、ただそう繰り返すだけだった。

「あんたが、兄さんの墓を建てたんだな。あえて、新しく建てた」
「すまない・・・・・」
「そして、ニール・ディランディとは彫らずに、「ロックオン・ストラトス」と彫った。兄さんは、「ロックオン・ストラトス」として生きていたから」
「・・・・・・・・・・・・・すま、ない」
じっと、地面を見つめるティエリア。
「同じ「ロックオン・ストラトス」の名前を受け継いだ俺は思う。兄さんは、きっと天国にいけたはずだ。そして、あんたのことをいつでも見守っているはずだ」
「・・・・・・・・・すまない」

「どうして、謝るんだ?」
「実の弟である君に、ずっと隠していた・・・・君が仲間になっても、隠していた」
「秘密、だったんだろ?兄さんと、あんただけの」
「そんなことは!」
ティエリアが顔をあげて首を振る。

「兄さんは、白い花が好きだった。特に、白い薔薇と白い百合が好きだった」
「・・・・・・・・・・」
「いつもそうなんだ。置かれる花束は、白い薔薇か白い百合で。たまに紅い薔薇とか違う花のときもあったけど、いつも置かれる花束のほとんどが白だった。心の何処かで、刹那に会う前に気づいていたんだ」
「僕を庇わなければ、ニールは、生きていた・・・・・」
「でも、兄さんはティエリアを庇った。守りたかったから。その気持ち、今の俺なら分かる」
そっと、抱きしめられる。
黒いスーツは、ティエリアの細い体に似合うようにオーダーメイドだった。
普通の男性のサイズでは、ティエリアの細い体には大きすぎる。丈はあっても、肩幅などがどうしてもあまってしまう。

「兄さんに、届いていると思う。あんたの唄も、そしてあんたの微塵に霞むことさえない純粋な愛も」
「・・・・・・愛して、いるんです。今でも・・・・滑稽なほどに・・・・・」
「だから、兄さんはあんたを選んだんだと思う」
「ライル・・・・・・」

手を握り締められ、墓地を後にする。
「でも、俺はいつかあんたを兄さんから奪ってみせるから」
「僕は・・・・私は・・・・・ロックオン・ストラトス」
「その名前、兄さんに呼びかけてるの?それとも俺?どっち?」
「両方です」
「躊躇いもしないのな。そんなあんたが好きだよ。気高くて、凛々しくて、孤高で・・・そのくせ脆くて」
「私は、強くなりたい」

「兄さんが、あんたを守ってくれるから」
「本当に?」
石榴の瞳が、大きく零れ落ちそうだ。
大きめの石榴の瞳は、ティエリアをどう見ても少年、というより中性・・・もしくは、少女に見せる。
「俺も、あんたを守るから」

停めてあった車から、ようやく邂逅できた懐かしい人影が姿を現す。
「お前には、ティエリアは渡さない」
ゆっくりと近づいてくると、ティエリアの手を握り締める。
「刹那」
「刹那、俺も本気だぜ?」
「だから、余計に渡さない」
「参ったなぁ・・・・」
ライルは、頭をかいた。

「刹那、ライル、私は・・・・」
「ティエリア。無理をすることはない」
「涙は、もう流さないと・・・・決めていたのに」
一滴だけの涙が、キラリと太陽の光を受けて輝いた。
「愛しているから。ロックオンが、お前を守ってくれる」
「そうだぜ。俺もお前を守る。兄さんも、お前を守ってくれる」

二人の愛に包まれて、ティエリアは変わっていく。
もう誰も愛さない、愛される資格はないと言っていたティエリア。
少しずつ、氷山の雪が溶けてゆくように。
雪解けの水は、温かい。ティエリアは、暖かくなった。人間として。
「僕は、君たちと出会えて良かった。大好きだよ」


ロックオンが、天国で、エメラルドの瞳に愛を溢れさせて、微笑んだ気が、した。

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意外と長く・・・・タチバナ様のサイトの花束を見て・・・。
こんな、刹那とライルのありかた。
お話としては、「ナイトクロス」の前にくる時間系列。