それは心のカナリア







それは心の中のカナリア
籠の中でカナリアが囀っている
綺麗な声で、いつもいつも
それは心の中
外には聞こえない

「ヴェーダ・・・・・・ヴェーダ・・・・」

カナリアがそういつも鳴いていた。

虚空に向かって手を伸ばす。
システムルームにいつも篭るのが、ティエリアの癖だった。

伸ばしても、ヴェーダが答えてくることはない。
そう、どんなに切望しても渇望しても、もうヴェーダとリンクすることはないだろう。
イノベイターにでもならない限り。

人の道を歩き続けるティエリアは思う。
ヴェーダに固執しすぎていたティエリアは思う。

ヴェーダと切り離されたことは、むしろよかったのではないかと。

人間として生きるきっかけとなった。
ロックオンの愛のように、ヴェーダもティエリアを愛してくれていた。
突然切り離され、母親に見捨てられた幼子のようになったティエリア。
それを救ってくれたのは、ロックオンという人間の存在だ。

「私は進む・・・・ゆっくりと・・・・・あなたの意志を引き継ぎながら」

虚空に向かって、また手を伸ばす。
ヴェーダは画像として、AIを伴った銀の乙女の姿をしていた。イオリアがティエリアとリンクするときにだけ与えてくれたAI。
もう、答えてくれる暖かな声はない。

それでも、虚空に向かって手を伸ばす。

「・・・・・・・・・・ロックオン?」

その手を、隻眼の瞳で眼帯をしたロックオンが、ふいに握った気がした。

ただの、気のせいなのに。
どうしてだろう。
そんな気がしたのだ。

「あなたに笑われることのなように、生きてみせます」

見えないロックオンが、ティエリアの手を握り締めていた。