聖痕







刹那が制服からパジャマに着替えるのを、じっと見つめていた。
ボクサーパンツの、ティエリアが好むのと一緒な下着姿になった刹那の右肩に残された、銃弾を受けた傷を、そっとティエリアの白い手が這う。

「再生治療を受けたはずなのに・・・何故だろうな。この傷だけ、痕が残った」
「別に、痕が残っても平気だ」
「それはそうだろうけれど」
桜色の爪が、傷痕をなぞる。

「皮膚の再生治療を、受ける気はないのか?」
「別に、そこまでしなくてもいいだろう。傷痕なんて、気にしていない」
「君は、いつでも強いな」
「強くなければ、誰も守れない」
刹那は、無言になってパジャマを着た。

イメージカラーである蒼と同じパジャマ。
無地で、どこにでもあふれていそうなもの。

そっと、ティエリアがパジャマの上から傷痕をなぞる。
「これは、きっと聖痕だ」
「聖痕?」
「そう。君が強く生きれる証・・・・・聖痕、スティグマ。普通は、神の奇跡によってできた傷痕・・・・イエス・キリストが受けた手と足の傷ようなものをさすのだけれど・・・きっと、聖痕だ」
「なら、なおさら傷痕は消せないな」
「ピンクのパジャマを着たティエリアを抱き寄せる。

「スティグマ・・・・・・・君を手に入れたら、この傷痕は、聖痕は消えてしまうだろうか?」
石榴の瞳が伏せられる。
「そんなことはない。それに、俺はもう、お前のものだ」
「刹那・・・・」
躊躇いもしない言葉に、ティエリアが顔をあげる。
「ライルはアニューを選んだ。だが、俺は・・・・・マリナを選んだとしても、お前を捨てることはしない。強欲かもしれないが、一緒に連れて行く」
「それは、本当に強欲だな」
クスリと、音もなくティエリアが笑った。
桜色の唇は、パジャマの上から銃の痕を這う。

「スティグマ、聖痕。消えなくても、こんなにも美しい」
「この聖痕は、お前のためにある」
「僕のために?」
首を傾げるティエリアに、刹那は説き伏せる。
「そう。天使であるお前に見つけてもらうための、聖痕だ」
「・・・・・・・・では、僕だけの聖痕だな」
「そうだな。お前だけのものだ」

唇が重なる。
そのまま、二人はベッドの上に転がった。

体を繋げることはしなくても、心が、魂が深く繋がっている。

こんなにも、こんなにも。

「聖痕。銃の痕だなんて、皮肉なものだ」
「ティエリアには、こんな痕は残したくない。天使には、似合わない」
「君なら似合うと?」
「そうだな。おれはゲリラとして生きてきた。ずっと銃を握りしめて・・・・今でも、握り締めている」
「それは、僕も同じことだ。銃を、握っている」
「その手で、お互いの手を握り合う。不思議だな・・・・・」
ティエリアと刹那は、しっかりとお互いの手を握り締めていた。

聖痕(スティグマ)
こんなにも、醜くて美しい。