握れない手







「アーデさん、捕まえたですう!」
「何をする、ミレイナ、離せ!」
「いいえ、離しませんです。ふふふ、今日こそは大人しく・・・されやがれ!なのですう」
ミレイナに捕まったティエリアは、それはもう思う存分ミレイナに髪を遊ばれた。

「クセになってるじゃないか!」
くりんくりんと、いろんな方向を向いている髪は、まるで刹那の髪のようだ。
「このままでいられるか!」
ティエリアは地上に降りて、いきつけの美容院に足を運んだ。

「やぁ、また会ったね」
「とかいいながら、毎日ここで時間を潰していたんじゃないのか。イノベイターというのは、暇人だな」
「そうなんだよ、君がくるのをこの3週間毎日待って・・・って、そんな話じゃないよ!」
ティエリアの様子がおかしい。
普通なら、自分をみて驚愕するはずなのに。

が、それももう10回目になったら、驚愕を通り越してため息しか出ない。
「今日は・・・僕の髪とお揃いなんだね。嬉しいよ」
リジェネは頬を薔薇色に染めて、美容師に髪を結ってもらっていた。
「ああ、こんなことならストレートパーマにするんじゃなかった」
「なんだと!また、何かよからぬことでもたくらんでいるのではあるまいな!」
「ふふふ。そういいたいところだけど、愛してる君と同じ姿になりたかっただけだよ。

イノベイターは世界の歪みの象徴。
でも、このリジェネ・レジェッタという兄弟だけは、どこか違う気がする。

「ティエリア。僕はリボンズじゃない。認めるよ。先代のロックオン・ストラトスの存在を」
言葉を間違えると、ティエリアは銃を発砲しかねない。
「大好きだから」
額に、キスをされた。
ティエリアは、シンメトリーを描く相手をただじっと見つめていた。

「僕は、そっち側には、決していかない。君もこのまま終わっていくのが嫌ならなら、一緒にくるといい」
「え?」
美容院を出たところで、ティエリアがそう言って、手を伸ばしてきた。

躊躇いのない、石榴の瞳。

「愛してる、から。だから、その手はとれない」
「なぜ?」
「僕はイノベイターだよ?ティエリアが許しても、他の仲間が許すはずがない」
一緒にと、手を差し伸べられることを何度夢見ただろうか。でも、それが現実のものになっても、その手を握ることはできないのだ。

その言葉だけでも、僕は十分に幸せだから。
「愛してるよ、ティエリア」
「僕は、君を愛してはいない。だが、嫌いではない」

また、リジェネは神出鬼没に、ティエリアの前に姿を現すのだろう。
そのときは、もう、二度と手を差し出したりはしない。

二人が生きる世界は違うのだから。