世界が終わっても「私は、こんなにも幸せ」







「行かないで、ハレルヤ!」
「バーカ、てめぇはもう一人で生きれるだろ。いつまでもうじうじすんなよ。俺がいなくても生きれるだろ。てめぇえはもう、俺がいなくても立てる」
夢の中で、アレルヤはもう一人の自分であるハレルヤと無理やり引き裂かれる夢をみていた。
遠い月に繋がった階段を、ハレルヤは登っていく。
アレルヤは泣いた。
「行かないでよぉ、ハレルヤあああ!」
ハレルヤは、困った顔で振り返ると、手をひらひらさせて、月への階段を登っていく。
月は、銀色だ。
アレルヤの瞳の色だと、ハレルヤは思った。
ハレルヤの中に還るように、月へと登っていく。
「いやだぁぁぁ!ハレルヤ、ハレルヤ、ハレルヤ!」
アレルヤは泣きじゃくる。
月は、決してアレルヤを近づけさせない。
まるで、そこに硝子の境界線があるように。
「またな、アレルヤ」
いつのも軽い調子で、ハレルヤは銀色に包まれて月に溶けてしまった。

「ハレルヤ!」
がばっと起き上がる。
アレルヤは、手を虚空に向かって伸ばしていた。
涙が溢れた。
「ハレルヤ・・・・君は、もういないんだね」
金と銀のオッドアイの片方の金色は、ハレルヤの色だ。
ハレルヤの瞳だ。

アレルヤは着替えることもせずに、マリーの部屋の前にくる。
涙を零したまま。
「あら、アレルヤ、どうしたの?」
扉をノックされて、ロックを解除しらマリーが部屋から顔を出す。
そして、アレルヤの泣き顔をみて、マリーも泣きだした。
「ごめんなさい。アレルヤ、ごめんなさい。私があなたからハレルヤを奪ってしまった」
マリーは、何も言わなくても全てを悟ったようだった。
そのまま、二人で抱きしめあう。
「マリー、僕を一人にしないで」
もう、ハレルヤのように、僕をおいていったりしないで。
アレルヤは、マリーの膝に縋って泣いた。
涙を、金と銀のオッドアイから溢れさせる。
「アレルヤ、私はここにいるわ。ずっと、傍にいるわ」
「マリー」
アレルヤは、目を閉じた。
金色のほうの涙からあふれるのは、きっとハレルヤが零した涙だ。
ハレルヤは、ただの別人格ではなく、アレルヤには特別な存在であった。
そう、ライルとニールが双子であるように、ハレルヤはもう一人のアレルヤだ。
「ごめんね、マリー」
その日は、マリーの部屋で泊まった。

やがて、朝がくる。 マリーを残して、アレルヤはハレルヤの姿を探すように、ふらふらとトレミーの中を歩き回った。
「ハレルヤ、どこ?ハレルヤ?」
呼んでも、答えは返ってこない。
いつもなら、詰るような声で自分に話しかけてくれるのに。
「ハレルヤがいないよ。どこにも、いないよ」
アレルヤは、廊下に蹲って泣き出した。
朝の眩しい太陽の光を、天使が眺めていた。
こちらにやってくる。
「天使様。お願い。ハレルヤを返して」
ボロボロと涙が、決壊したダムのように溢れ出す。
その天使には、翼はなかった。
天使は、何も言わずアレルヤを抱きしめた。
マリーと違うその温度に、アレルヤは目を瞑る。
「君も、心の傷が塞がらないんだな。どうして、大切な人と引き裂かれてしまうんだろう。どうして」
天使のようなティエリアは、アレルヤの涙を拭いながら、自分も涙を零しているのに気づいていた。

神は、人を愛しているのではないのか。
ならば、なぜこんなにも哀しい試練を、人に与えるのか。

「ハレルヤぁ」
「いつか、きっと、ハレルヤの魂にまた出会える」
ティエリアが、ニールの魂と出会えると信じているように。
いつかきっと、ハレルヤの魂もアレルヤの元に還ってくるだろう。
「ティエリア、ごめんね」
抱きしめられる。
ティエリアは首を振った。

それは、きっと。
互いが傷口を舐めあっているようなものだ。
けれど、きっと。
いつの日にか、求めた魂に、遥かなる未来でまた出会える。

それは、きっと。
いつか訪れる、奇跡。