世界が終わってもU「朝のひと時」







「ニール、卵割りすぎ。どうするつもりさ、これ」
リジェネが、エプロン姿でプンプン怒っている。
ティエリアとシンメトリーを描くその姿は、ティエリアそのものに見えるが、髪が短く、いろんな方向にはねている。リジェネは天然パーマで、髪はとても柔らかかった。
ニールはお昼のおやつまでつくるつもりであった。小麦粉をとりだして混ぜていく。
リジェネは、これでは朝食の手伝いにならないと、ニールの背中をスリッパをはいた足で蹴りどかして、ニールの代わりにポテトサラザを鮮やかな手つきで三人分つくり、スクランブルエッグに、コーンスープ、パンをトーストにして、ハムとツナとレタスをはさんで軽いサンドイッチにした。パンのみみはついたままだ。
別に、売り物ではないのだから、みみをきる必要はない。

「できた」
リジェネは嬉しそうだった。
ティエリアの料理の腕は壊滅的だったが、同じ半身であるリジェネは料理学校の先生かというくらい、とにかく料理の腕が鮮やかだ。
ニールも料理を得意とするが、その更に上をいっている。

三人は、それぞれ仕事を持っている。
ティエリアはAI開発をメインとしたプログラミングで、同じようにIQ180をこえるリジェネもティエリアの仕事を暇な時は手伝うこともある。
ニールは、はじめ料理の腕をいかして最近まで空いていた隣の家で、小さな料理教室を開いていたのだが、容姿端麗のニールに惚れる奥様方が多くて、ある日ニールは年若い女性に、ティエリアと偽って呼び出され、大変な目にあった。もう少しで既成事実を作られる羽目になり(当時はティエリアとまだ籍を入れていなかった)、料理教室は止めた。ティエリアの嫉妬も少なからずあったし、もてるのは嬉しいが、愛しいティエリアを傷つけたくなくて、料理教室は廃業となった。
今は、ニールはいつでもティエリアの傍にいたいので、家でできる簡単なプログラミングや、テープライターといった地味な仕事をしている。

アイルランドにもCB機関の支部はあって、そこに勤めるつもりであったのだが、すでにライルが勤めており、またティエリアが主夫でいいのではないかと主張したので、結局は今のような地味な仕事を空いた時間にして、主に主夫をメインとしている。

リジェネは、これはもうなんというか好き勝手に人生を謳歌しているというか。
ネットを基盤として活動するとあるアイドルグループのボーカルを担当していて、いわゆる芸能人だ。ティエリアとシンメトリーを描く美しい容姿は男性として固定されており、美しすぎる容姿はモデルなどとしても引っ張りだこだ。リジェネの声帯はティエリアほどではないが、それでも美しい歌唱力を持っていて、コンサートなどを全く行わず、スタジオでの収録だけで、ネット世界を基盤とした歌うという行為をメインとしたかわったユニットグループである。TV番組なども出演しない。他のメンバーがTV出演やドラマに出る中、まるで、メインボーカリストだけが覆面をかぶったようなアイドルグループ。だが、雑誌の写真は引き受ける。
そこに映し出される、リジェネの美しさがより一層ユニットを神格めいたものにしていた。

リジェネは写真に写る、ということは許すが、映像の中で映る、という行為は嫌いだった。
ちなみに、ティエリアはこのグループのサブボーカリストだ。リジェネと同じように、写真にしか顔を出さない。あまりにも美しすぎる歌声から、ソロのアルバムを何枚も出している。それらは全てネット世界を基盤とした活動であるが、ミリオンセラーをどのアルバムも保っている。
ティエリアの性別は無性であるが、男性、ということに表向きはなっており、雑誌の表紙をリジェネと二人揃って飾ると、音楽に興味のない人間でも、思わずその雑誌を買い込んでしまうくらいだ。

雑誌の撮影依頼は嫌なほどに舞い込んで来る。それに、リジェネは気まぐれにモデル活動も行っている。なぜ爆発的に売れないのかというと、本当に気まぐれだからだ。雑誌の依頼がきても断ることも多く、それでも美しすぎる容姿のため、雑誌撮影の依頼は絶えることがない。
リジェネとティエリアがそれぞれ個別であっても、同じであっても、OKした撮影依頼は、音楽評論家に認められた、というようなものだろうか。被写体として、素晴らしい存在にカメラマンとしての腕を認められた。そんな錯覚に陥らせる二人。

二人のプライベートは守られているが、それでも町に住んでいればばれてしまう。
芸能人であれば、スキャンダルネタを求める者もおおいが、ティエリアとリジェネは世界で大きな変革存在となるCB機関というものに保護されており、いわば国家が二人を保護しているようなものだ。
ティエリアも安心して、アルバム収録をできるし、雑誌の撮影も引き受ける。

CBに特別重用に保護されている謎の双子の美少年。世界では、リジェネとティエリアはそんな存在になっていた。

「あっはっは、見てよこの写真。かわいいの。あさって発売の雑誌だけど、ティエリアったら雑誌の中でもゴスロリのドレス着させられてる」
リジェネが、封を切った雑誌をパラパラめくって、自分とティエリアが映った写真の、雑誌としての掲載の出来具合を確かめていた。
「お、今ヨーロッパで有名な一流デザイナーの服じゃないか。かわいいな」
ニールがクッキーをつくる作業を中断して、雑誌のページを捲る。
「リジェネもかわいいな」
ボン!
火が吹いたように紅くなるリジェネ。反応まで、ティエリアそっくりだ。





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