忘れないから







「誕生日おめでとう、ニール。生きていたら、ライルと同じ29歳ですね」
ティエリアは、ライルからもらったライルとニールの少年時代の写真に向かって話しかける。
最近は、めっきり仮想空間のニールと会うことが少なくなった。
刹那がいつも哀しい目をするからだ。

強く、生きなければ。

ライルは、託したアニュー・リターナのデータを全て破棄した。

彼のように、強くいきなればと分かっているのに。

でも、でも。

「今でも、愛しています」

ライルと同じように、ニールの遺品のジャケットを椅子にかけると、二人分の紅茶を入れる。

「あなたの意志をついで、刹那は変わろうとしている。僕も、最後まで・・・・一緒に」

ジャケットを引き寄せて抱きしめる。

涙が、一滴だけ零れた。

四年間いっぱい泣いた。最近は刹那に支えられ、涙を零すことも少なくなった。

気づくと、向かいの席に刹那が座り、紅茶を飲んでいた。

瞳が金色に光っている。ティエリアの瞳も金色に光っていた。

「歩こう。一緒に。ニールの意志を継いで」

手を差し出される。ティエリアは、ニールのジャケットを着て、刹那の手をとって立ち上がる。

刹那に抱きしめられた。

「誕生日おめでとう、ニール」

刹那が、静かにティエリアを抱き寄せて、そう呟いた。

「あんたの意志は引き継いだ。どうか、見ていてくれ。世界を変革してみせる。イノベイターを駆逐してみせる」

「僕も、刹那と、そして仲間たちと一緒に最後まで歩んでいきます、ニール」

ふわふわと、写真からエメラルド色の光がポッ、ポッと浮かび上がる。

その光は、エメラルド色の蝶を形作り、二人の周りを舞ったあと、空気に溶けて消えた。

「ニール・・・・」
「ニール」

刹那とティエリアは寄り添って、消えてしまったエメラルド色の蝶が描いた言葉を読む。

「信じている・・・・」

緑の燐粉で、そう書かれていた。
それも、次の瞬間にはふわりと消えた。

「強く生きて、世界を変革する。私は」
「俺もだ」

忘れないから。
いつまでも、ニール、あなたのことを。