禁忌でもいいから「道を、進もう」







少女の天使は、驚いた。
「何故・・・・アニューを、愛していたのではなかったの?」

「愛しているさ。誰よりも。でもな、誰かの命を犠牲にした上でのアニューなんて・・・そんなの、アニューじゃない。俺の知ってるアニューは、誰かが犠牲になるくらいなら自分から犠牲になる。そんな女性だ」
「そう・・・・・アニューを選んでいたなら、私は貴方をヘルファイア・・・・地獄の炎に落としていたわ」
「奇跡、か。アニューにあわせてくれて、ありがとな」
ライルが涙を拭って、ぎこちなく笑った。

そう、ここは誰もいないあの教会。
時計の針を見ると、一分も経っていない。これは、全て少女の天使がくれた幻。
夢なのだ。
夢の中で、幻影のアニューを愛し、デートをしてアイルランドの町を見せ、そして結婚式を挙げた。

「夢で、ごめんなさい。本物を蘇らせるだけの力が、私にはもうないの。違う次元で、本物を蘇らせたから・・・・そして、私は・・・時間の波の果てに消える」
「エメラルドの指輪がある・・・・」
ライルが、自分の指を見て驚いた。
「それは、幻の中の現実。あなたがアニューと夢の中で愛し合い、そしてアイルランドの町を見せ、結婚式を挙げたのは夢の中の現実。あのアニューは、本物のアニュー。本当の魂のアニュー」
「ああ。会話して、すぐに本物だって分かった。俺が愛したアニューだって」

バサリと、翼が羽ばたく音が聞こえた。
少女の姿は消え、変わりにティエリアに何処か似た絶対的な美貌を持った青年が立っていた。
「人の子らに、幸あらんことを。私はセラヴィ。さぁ、進みなさい。あなたが自分で示した道へ」

天使は、空気に光の泡沫となって溶けていった。
「天使さん。なんで俺なんかに、こんな奇跡を?」
「それは、汝の魂が愛を求め、そしてその愛が純粋であったから。違う次元の世界の愛も、純粋であった。ニールとティエリアの愛」
「違う、次元。その世界では、兄さんとティエリアは幸せになっているのか?」
「ああ、なるとも。してみせるとも、幸せに・・・・汝も、幸せになれ。神の加護が、汝にあらんことを。ジブリール、今帰る。ジブリール・・・・私の仕事は次の世界で終わり。後は、すまない、汝に全てを託す」
天使は、白い羽を一枚だけ残して、消えてしまった。

ライルは、空を見上げる。
白い鳥が、飛んでいる。
車に乗り込み、家に帰ると、ティエリアの寝ている寝室のドアを開ける。
ティエリアは、泣いていた。
「ティエリア?」
「アニューが・・・・・アニューが少しだけ蘇って、君と愛し合う夢を見ていた。目覚めると、目の前にアニューが、アニューが・・・・私に、ありがとうと。そして、幸せになれと・・・」
ライルは、ティエリアが落ち着くように、何度も背中を撫でて頭を撫でた。

「夢、だったのだろうか。何故だろう。体が軽い。今までの不調が嘘のようだ」
夢の中の現実。幻の中の現実と天使は言っていた。現実世界でも、なんらかの影響がティエリアにあったのだろう。

「なぁ。俺はアニューを愛してる。ティエリアは兄さんを愛してる。そのままでもいいから・・・俺たち、付き合わないか。愛している、ティエリア」
「ライル?」
「気づかないふりしてごめんな・・・・いつも、お前さんは・・・・俺が寝たあと、優しく額にキスをして「ライル、愛してる」っていってくれてたよな」
ティエリアが、涙を流しながら言葉を失う。

「あなたは、気づいて・・・」
「気づかないふりして、酒に溺れて煙草すって女に溺れて。俺はどうしようもない男なのに。あんたは、俺が朝帰りしても怒らずに、俺が眠りにつくといつも優しく毛布かけてくれて、「愛しています、ライル」って囁いててくれた。意地悪でごめんな。アニューのことがどうしても忘れられなくて、あんたに辛くあたるのは間違いだって知ってるのに。新しい愛を始めるのが、怖かったんだ。また、失う気がして」
ライルは、優しくティエリアを抱き寄せる。
ティエリアの指には、アニューに買ってやったはずのエメラルドの指輪が光っていた。
「あれ。何、この指輪・・・?」
「いいから。答えて?俺みたいな男、本当にどうしようもないけど・・・俺と、新しい愛を始めてくれる?ティエリア」






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