遙かなる恋姫「人として生きる天使」







「ニール。私は、イオリアに作り出された人工天使。今は翼すらもなくしてしまいました。そんな私でも、マスターがくれた半年という時間を、私を愛して過ごしてくれますか?」
「ティエリア。ティエリアは、もう人間だよ」
ニールはティエリアを抱きしめた。
ティエリアは、その暖かさにただ涙を零した。

二人は、何の変哲もない平和な町で一緒に暮らし始めた。
「ニール。お帰りなさい」
ニールは、時折イオリアの研究所に通っては、イオリアの様子を確かめていた。
「大丈夫。じいさん、元気にしてたぞ。おれがきたら、「私の娘は世界一の美人だ」とか言って杖をぶんぶん振り回して、新しいガンダムの基礎理論にかかりきりだった」
「良かった・・・・」
ティエリアがイオリアに会ってしまえば、そのまま帰ってこないかもしれない。
ニールが行くのが一番だった。

ニールは町で簡単な裁縫の店を開き、容姿から老若を問わず女性の客ばかりであった。ティエリアは、そのお手伝い。収入は少なく、生活は苦しかった。イオリアが、ティエリアのためと、口座をもたせていたので、ニールもティエリアに苦しい生活をさせたくなかったので、その口座を拝借してやりとりしていた。

「あら、若奥さん。今日も美人ですね」
家の庭にホースで水をまいていると、近所の奥さんがそう話しかけてくれた。
「若奥さん・・・・」
ティエリアは照れた。
「本当に、まるで彫像のように綺麗な旦那様と奥様ねぇ。ほら、奥さん。これ、あなたが欲しがってた忘れな草よ」
「わぁ!ありがとうございます!」
小さな植木鉢に這えた、小さな小さな水色の花。これが、有名な忘れな草。
ティエリアは、もっと大きくてハイビスカスのような花をイメージしていた。
可憐な水色の花は、青空のようなクリアブルーに白を混ぜた色をしていた。
ちょうどそのとき、目の前の駐車場にニールの車が泊まった。
「ニール!見てください、忘れな草の植木鉢をもらったんです」
「へぇ。かわいいな。すまないな、奥さん。いつもいつも・・・」
「あら、いいのよ。うちは花屋ですもの。それに旦那さんと若奥さんを見ていると、こっちまで幸せになれるから」
「どうも。また今度、手作りのクッキーおくりますね」
「あら、楽しみにしているわ。旦那さんのクッキーとっても美味しいから」

オホホホホと甲高い笑い声をあげて、花屋の奥さんは去っていってしまった。
「ん?どうした?」
「ごめんなさい。私、料理だけはどうしてもだめで・・・・」
石榴色の瞳に涙までためている。
「なんだ、そんなことか。いいって。おれがかわりに作れるじゃないか。お互い、欠点を補えあえてるじゃないか。俺は今、幸せだよ」
「ニール。私も、幸せです。マスターイオリアといた頃とは比べ物にならない。こんなにも幸せな気分を味わえるだなんて」

二人は、笑顔で微笑みあって、家の中に入った。
そのまま、ニールは夕食をつくり、ティエリアは大人しくそれを待っていた。
二人の間に子供はいなかった。ティエリアが無性であるからだ。ニールもそれを承知の上で、何も知らないティエリアに、体の関係を迫ることはなかった。

そう、一緒にいられるだけで幸せなのだ。
「ニール。愛しています」
「俺もだよ、ティエリア」

僅か半年の幸せ。でも、ニールも人間だ。このままティエリアを、自分のものにしたいという欲望があった。イオリアが死んでも、それをティエリアに知らせなければこの生活は続く。
ドス黒くてもいい。この人工天使と、愛し合いたかった。


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