エメラルドの彼方「グランドクロス」







「俺な、白の薔薇と百合が好きなんだ」
ロックオンのアイルランドの生家で、一緒に過ごしながら、ロックオンの幼少時代の話や家族の話をきいていた。
そのときだった。
今まで、好きな花はないといっていたロックオンが、白の薔薇と百合が好きなのだといいだしたのだ。
「へぇ、そうなんですか」
ロックオンが作ってくれた夕食を食べながら、ティエリアは記憶する。
そして、夕食がすんだ後、ロックオンは一枚の家族の写真を見せてくれた。

「こいつ。俺の双子の弟のライル」
「弟?あなたに、弟が?」
「ああ。俺にたった一人残された家族だ。もうずっと連絡をとっていないけど、元気にしてるみたいだ」
「会って、みたいですね」
「いつか、会えるよ」
「そのときは、ロックオン、あなたも会うんですよ。弟さんとずっと連絡なしなんて、哀しいです」
「ああ。そうだな。一緒に会おう」

「あなたの写真は・・・・ないんですね」
「ああ。ほしかったのか。ごめんな。俺、家族がテロに巻き込まれた時に写真とか全部処分しちまって・・・・家族写真とか、そんなのしかねぇんだ」
「いえ、いいです。傍に、本物のあなたがいるから」
「刹那は、絶対に生きている」
「突然、どうしたのですか?」
ティエリアを抱きしめる腕に、力が篭る。
「刹那は強い。生きている。何かあったら、お前を守ってくれるはずだ」
「僕も刹那もアレルヤも生きていると信じています」
ティエリアは、泣いた。
何故なら、ロックオンが泣いていたから。
「愛しているよ。愛している。何万回だって囁く」
「はい。僕も愛しています。今が永遠ならいいのに・・・・・」
「そうだな。今が永遠なら・・・・・」

ロックオンとティエリアは、抱きしめあって、一つのベッドで眠った。
お互いの温もりを共有しあうように。
優しく、優しく。

次の日、ロックオンとティエリアは、ロックオンの家族の墓に墓参りに出かけた。
白い薔薇と白い百合の花束を、ロックオンが贔屓にしているという花屋で購入して、墓前に捧げる。
「父さん、母さん、エイミー。紹介するよ。俺の恋人のティエリア。かわいいだろ?」
「冥福を、お祈りします」
ロックオンが花を捧げる。
「なぁ。歌ってくれないか。家族に捧げたい。レクイエムを」
「はい。何の歌がいいでしょう?」
「なんでも」

ティエリアは大きく息を吸い込む。
綺麗な女性ソプラノの声が、その喉からあふれ出す。


神よ もう一度 エデンへの扉をあけて
神よ もう一度 この翼を元に戻して
私は飛び立つ もう一度この世界を見るために
私は飛び立つ もう一度この世界を生きるために
グランドクロス この果て無き世界に祈りを
グランドクロス この果て無き世界に光を
神よ もう一度 エデンへの扉をあけて
何度でも何度でも 信じているから
何度でも何度でも 聖なる愛の賛歌を
グランドクロス この聖なる傷痕は祈り
グランドクロス この聖なる傷痕は光
この果て無き世界をもう一度旅立つ
この果て無き世界をもう一度飛び立つ


「グランドクロス・・・・・私は飛び立つ・・・・・・」
ティエリアは、泣いていた。
やがて、涙は止まらなくなり、歌うこともできなくなった。

「・・・・・うああああああ」
「ティエリア。大丈夫だから」
ヒラヒラと、数匹のエメラルド色の蝶が舞っていた。
蝶たちは天に昇っていく。
ロックオンは、涙を零してティエリアを抱きしめると、深く口づけする。

聖なるかな。聖なるかな。

天に昇っていく蝶たちの群れが消える。
「支えて、下さい。どうか、最後まで・・・・」
「ああ。支えるよ」
ロックオンもティエリアも涙をこぼし、何度も口付けして、何度も抱きしめあう。

エメラルドの蝶が、グランドクロスを作り出す。
「ティエリア。愛して、ごめんな」
「いいえ。僕はあなたに愛されてよかった。あなたを愛してよかった。人間になれたから」


光の河岸で、その人は目覚める。
隻眼のエメラルドの瞳をした青年。
エメラルドの蝶と光が、青年の姿を形作っていた。
そこはエメラルドの彼方。
人が手を伸ばしても望んでも、たどり着けない場所



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