実は笑い上戸









アレルヤは、いつものようにミス・スメラギと飲んでいた。
ロックオンと飲むこともあったが、ビール派のロックオンよりは、ミス・スメラギと飲んだほうが楽しかった。
いろんな酒を飲むことができたし、その味についての感想もいえるし、どの酒がいいかとか談笑もできる。
何より、ミス・スメラギは日ごろたまったストレスを飲んで解消するクセがあった。
飲みすぎるときもある彼女である。
アレルヤと一緒に飲んでいるときのミス・スメラギは楽しそうであった。
年は離れているが、飲み仲間がいることはいいことだ。
仕事の愚痴も、アレルヤに零す。
アレルヤは優しいいい子なので、愚痴に付き合ってくれた。
誰かに言いまわすような真似もしない。
ミス・スメラギにとっては、最高の飲み友達であった。

「でね、そこで刹那ったら、カレーに牛乳いれたんですよ。本当に、牛乳も好きとはいえ、信じられないことをしますね、刹那は」
けらけらけら。
ミス・スメラギの笑い声が響いた。
「何よそれ、おっかしー。刹那は味音痴なのかしら」
「さぁ、僕にも分かりません。でも、刹那は食べ物を残せない主義のようで、平気な顔でカレー牛乳を食べてましたよ」
「おいしいのかしら。想像しただけで、気持ち悪いわ」
「おいしくはないでしょうね」

コンコン。
扉がノックされた。
ミス・スメラギが、空っぽになった瓶を逆さまにしながら、そちらの方を向いた。
「入ってらっしゃい。ロックはかかっていないわ」
「失礼します」
中に入ってきたのは、ティエリアだった。
ティエリアは、室内に満ちたアルコールの匂いに、眉をしかめた。
「また飲んでいるんですか。いい加減にしないと、体を壊しますよ」
「あははは。大丈夫よ、あたしは酒に強いんだから」
すでに、べろべろに酔っていた。
アレルヤも、同じように泥酔状態だ。
ティエリアは、床に転がった酒瓶に足をとらえられ、転んだ。

「ぶベし!!」
アレルヤが、転んだティエリアの体当たりを直撃して変な声を出した。
「あいたた・・・一体、どれだけ飲んでるんですか」
ティエリアが、打った腰をさすりながら、起き上がる。
「キャハハハ、アレルヤ、変な声!」
ミス・スメラギが、おかしいとばかりに床を叩いて笑い転げた。
「ミス・スメラギ。いい加減にしてはどうですか」
「あっつーい」
「ミス・スメラギ!!」
アルコールで火照った体を少しでも冷やそうと、服を脱ぎだした。
ティエリアは止めるが、構わず脱いでいく。
ついには、上半身はブジャーだけの姿になってしまった。
ティエリアは紅くなって、自分がきていたカーディガンを脱ぐと、ミス・スメラギに羽織らせた。
「ありがとう。優しいのね、ティエリアは。ゴクゴク・・・・んーー」
「んーー!!」
「ぷはぁ」
ミス・スメラギは、アルコール度の高い酒を口にすると、そのままティエリアに接吻した。
酒の中身を口移しで注がれ、ティエリアは飲んでしまった。
「痛いよ、ティエリア。酷いじゃないか」
アレルヤが、酒を飲みながら、ティエリアを非難する。
「ティエリア、本当に美人ねぇ。男にしておくのはもったいないわー」
トロンとした目で、カーディガンを羽織っているとはいえ、巨乳をブラジャーで包んだだけの体で、ミス・スメラギがティエリアに迫る。
がしっと、ミス・スメラギがティエリアの足を捕まえた。
「ミス・スメラギ、止めてください!」
「いいじゃないのお。減るもんじゃなしぃ」
そして、また強い酒を口にすると、口移しでティエリアに注ぎ込んだ。
ティエリアは、また強い酒を飲んでしまう。
女性としてとても魅力的なミス・スメラギに迫られれば、普通は喜ぶだろう。だが、ティエリアは無性の中性体で、女性に興味はなかった。同じように、男性にも興味はない。ロックオンは、特別である。

「ティエリアー。暖めてあげるわー」
巨乳が、胸に当たった。
ティエリアは、普通なら真っ赤になって逃げていただろう。
だが、ティエリアはミス・スメラギの顎をとらえると、深い口付けをした。
「んー?」
ミス・スメラギが、その舌使いに翻弄される。
「あら、ティエリア、キスうまいわね。誰から教わったの?」
「ロックオンです」
泥酔状態であったが、それでもアレルヤには理性が残っていた。
二人の様子を紅くなりながら見つめつつも、酒を飲む。そして、ティエリアの言葉に、アレルヤは口にした酒を噴出していた。

「あらぁ。ティエリアったら、ロックオンとはやっぱりそういう仲だったのね。ティエリア、かわいいわ」
ミス・スメラギは、ティエリアの服を脱がせていく。
ティエリアの目は、とろんとしていた。
完全に酔っていた。
アルコールを口にしたこともないティエリアには、いきなりの酒はきつすぎた。しかも、かなりアルコール度の高い酒である。
ティエリアとミス・スメラギは、もつれ合うような形で、床に転がった。
ミス・スメラギは、ティエリアのワイシャツを脱がす。
「あら、これは何かしら?」
ワイシャツの下は、てっきり素肌だと思っていた。
ティエリアは、黒の襟なしのベストを着ていた。
ミス・スメラギの手が、ベストにかかる。ティエリアが身を捩った。
「いや、です」
綺麗なボーイソプラノの声で、ティエリアが目を彷徨わせる。
ティエリアの手が、自分がミス・スメラギにかけてやったカーディガンを落とす。
そして、ブラジャーの紐に手がかかった。
「ティエリアでも、おっぱいに興味あるのかしら?大サービスよー」
ミス・スメラギは、自分から、ブラジャーを脱ぐと、ぽいっとアレルヤのほうにむけて放り投げてしまった。
ティエリアは、ミス・スメラギに乗りかかられ、その豊かな胸に、ミス・スメラギがティエリアの手を誘導する。
そして、もう一方の手で、ティエリアのベストを半ばめくりあげた。
「やっ」
ティエリアが首を振って、ベストを元に戻す。
「あら、いいじゃない。ティエリアも脱いじゃいなさいよ」
プルンプルンと、ミス・スメラギの巨乳が揺れた。
「あたしだけ脱がしておくつもりー?」
二人は、また口付けをかわしあった。
そんなティエリアとミス・スメラギに、アレルヤは我慢ができずに鼻血を垂らしていた。
美しい美女と、美しい美少女が肌を重ねあっている。
見たかんじ、完全な百合であった。
「あら、ティエリア、鎖骨のところにキスマークがあるわね。あら、ここにも。こっちにも。いっぱいキスマークあるわね。お姉さんの他に、一体誰がティエリアにこんな真似をする人がいるのかしら?」
ミス・スメラギの巨乳に押しつぶされながら、ティエリアは小さく声を出した。
「ロックオン・ストラトス」
「また、ロックオン?こんな子供に、あの子ったら、なんて真似をしているのかしら」
そういう自分はどうなんだ、おい。
ミス・スメラギは自分の行動を棚にあげていた。
「それにしても、ティエリアの肌はすべすべね。羨ましいわ。雪のように白いし」
ミス・スメラギの手が、愛撫するかのように、ティエリアの鎖骨を撫でた。
また、ベストに手がかかる。

いけない。
このままでは、ティエリアはミス・スメラギに食われてしまう。
アレルヤは、鼻血をおさえながら、ふらつく足取りで、ロックオンの部屋に向かった。

「ロックオン〜〜〜」
「うわ、酒くせぇ!!どうしたんだ、アレルヤ」
「スメラギさんが、ティエリア押し倒してるー」
その言葉に、よっぱらったアレルヤを介抱しようと、肩にまわされていた腕が止まり、ロックオンはアレルヤの体を床に放り投げた!
「あべし!!」
「お、俺のティエリアがーーー!!!」
ロックオンは、ダッシュでミス・スメラギの部屋にくると、扉をあけた。
ロックはかかっていなかった。
そこで繰り広げられたいた光景に、ロックオンまで鼻血を出した。
「あら、ロックオン。あなたも飲む〜?」
上半身裸で、ミス・スメラギが酒をらっぱ飲みしていた。
そのミス・スメラギに組み敷かれて、同じように上半身裸にされてしまったティエリアが、ミス・スメラギの胸を揉んでいたのだ。
かろうじで、ワイシャツが腕に引っかかっている。
ロックオンしか見たことのない、ティエリアの小さな胸に、ミス・スメラギが笑い声をあげる。
「ティエリアは、無性の中性体って聞いたけど、やっぱり女の子だったのね。かわいい胸ね」
ミス・スメラギの手が、ティエリアの胸に伸ばされる。
それを、鼻血をおさえながら、ロックオンが止めた。
「あらぁ、何するの、ロックオン」
「ティエリアにそれ以上触れるな、ミス・スメラギ。たとえあんたでも、許さない」
「何よー!ティエリアに一杯キスマークつけたくせに!犯罪よ」
「あんたのしてることだって、犯罪だろうが」
とえりあえず、鼻血は止まった。
プルルンとふるえるミススメラギの巨乳に、ロックオンは落ちていたティエリアのピンクのカーディガンを羽織らせると、ボタンを留めた。

「ロックオン。大すきー。あはははは」
無邪気な笑みを浮かべて、ティエリアが縋りついてくる。
ベストを探したが、零れた酒にまみれていた。
とてもじゃないが、着せられない。
同じように、腕に引っかかっていたワイシャツも、零れた酒でぬれていた。
ロックオンは、自分の上着を脱ぐと、ティエリアに羽織らせた。
きっちりと、上までジッパーをとめる。
「ロックオン、キスして?」
うるうると見上げてくる瞳に、ロックオンはうっとなった。
キスしてやりたかったが、ミス・スメラギが見ている。
「何よー。こんなかわいい子が誘ってるのよ。キスくらいしてあげなさいよ」
ミス・スメラギが、キスをしないロックオンのかわりだとばかりに、酒を口に含んで、ティエリアに口づけた。
「んー」
口移しで飲みきれなかった酒が、ティエリアの顎を伝う。
「冗談じゃない」
これ以上、こんな乱れた場所にティエリアを置いておけなかった。
ティエリアは酔っ払っているのか、足取りがおぼつかない。
「本当に、子供に酒を飲ますなんてどうかしてるぜ」
「あら、そんなあなたは、その子供にいけないことしてるくせに」
「同意の上だ!」
強く言い切るロックオンに、ミス・スメラギがけらけら笑った。
「あんなにいっぱいキスマーク残すして。ティエリアが壊れちゃったらどうするの?ティエリアってば、誰にされたのって聞いたら、素直にあなたの名前を口にしたわよ?」
ロックオンは頭痛がした。
「あはははは。ロックオン、変な顔ー」
自分の腕の中で、ティエリアは無邪気に笑う。酔っ払っているのは明らかだ。
どうにも、笑い上戸らしい。
いつもはそうそう笑い声をあげないのに、けらけらと笑っている。
ロックオンは、ティエリアの体を抱き上げた。
「いやー。いーやー」
暴れるティエリアが、ロックオンの手を引っ掻いた。
「しょうがねぇな」
ロックオンは、ミス・スメラギの前で、ティエリアに口付けた。
それは深い口付けであった。
「んあっ」
ティエリアが、ロックオンのされるがままになって、大人しくなる。
「うわー。ディープーー」
ミス・スメラギが、酒瓶を落とした。
そして、おとなしくなったティエリアを、ロックオンは右手で抱えた。
「ふにゃら〜。ロックオン、らいすきー」
ティエリアは、すでに呂律が回っていない。ロックオンには、ミス・スメラギを介抱する気はなかった。
大切なティエリアの肌を見たうえに、キスまでしたのだ。
ミス・スメラギは、今はロックオンの敵である。
ロックオンは、ティエリアを抱えて、ミス・スメラギの部屋を後にした。
そして、自分の部屋で酔いつぶれているアレルヤを廊下に放り出すと、ティエリアを介抱する。
「いーやー」
げしげしと、蹴ってくるティエリアを、ロックオンは接吻して黙らせた。
「ロックオンは、やっぱ巨乳好き?」
ぽかんと自分を見上げてくる石榴の瞳に、ロックオンはどう答えたものかと迷った。
好みをいえば、巨乳は好きである。
「やっぱり、好きなんだ。どうせ僕は貧乳ですよ。ぷんぷん」
ああ、もう。
酔っ払ってしまったティエリアは、いつもは口に出さないようなことを平気で口にするし、素直だ。
かわいすぎる。
「俺は、ティエリアだけが好きだ」
「ミス・スメラギのおっぱい見て鼻血たれてたくせにー」
「違う。お前の裸みて鼻血たれたんだ」
「うそばっかり。あはははは」
「嘘じゃねぇって。ああもう、仕方ねぇなぁ」
自分の上着を脱いでしまったティエリアに、ロックオンはシーツを巻きつけた。
「ロックオン?」
ロックオンが、膝の上にティエリアの頭を乗せる。膝枕だった。
いつものティエリアだったら、絶対に逃げているだろう。
だが、酒のせいかとても素直だ。
「いい子だから、じっとしときなさい」
「あーい」
ティエリアは、呂律の回らない口でそう返事した後、大人しくなった。
そして、眠りに落ちる。
ロックオンは、ティエリアをベッドに横たえてやると、毛布を被せた。

落ち着いた今、ロックオンはアレルヤとミス・スメラギを介抱するために、立ち上がった。
ティエリアを酔わせた原因であったとしても、放っておけない。
ロックオンは、とにかく面倒見がいい人間であった。
そして、アレルヤとミス・スメラギをなんとか介抱した後、ロックオンは、自室に戻った。
眠っていたはずのティエリアが、いつの間にか目を覚ましていた。
「嫌です。僕の傍から、いなくならないで」
ぎゅっと、ティエリアがロックオンの服を掴んでくる。
そのいじらしい態度に、ロックオンが優しくティエリアの髪を撫でる。
「傍にいるさ。だから、安心しろ」
「はい」
大分、酔いはさめているようであった。
ティエリアとロックオンは、同じベッドで眠った。
酒のせいか、ティエリアはまたすぐに眠ってしまった。夕食を食べていなかったが、ロックオンはティエリアが目を覚まして、寂しがることがないようにと、一緒のベッドに横になった。
お腹はすいていたが、それよりもティエリアの傍にいたかった。
ロックオンも、やがて眠りにつく。

朝になって、ロックオンを待っていたのは、ティエリアのビンタだった。
昨日の記憶はすっかり抜け落ちており、アレルヤもミス・スメラギも、酔いすぎて二日酔いになっていた。
それに、ミス・スメラギは酔いすぎて、ティエリアにしたことも忘れていた。

「あ、あなたという人は、僕を勝手に部屋から攫ったあげく、服をはいでこんな真似を!!」
「うわあああ、誤解だああああああ」
「待ちなさい、ロックオン・ストラトス!」
ちゃんとした服に着替えたティエリアに、その日一日中、ロックオンは追い回された。
まぁ、いきなり怒って口を利いてもらえなくなるよりは大分ましだ。
少なくとも、嫌われてはいないようである。それも、ロックオンの行為にティエリアが大分慣れたせいだ。
ロックオンは体に触れ、キスマークは残すが、ティエリアを汚すような真似はしなかった。
それは、天使を汚したくないという気持ちに似ていた。

「待ちなさい、ロックオン・ストラトス!今日という今日は許しません!!」
「誤解だああああああああああ」
ロックオンとティエリアの追いかけっこは、夕方まで続いたという。