25話後補完小説「ただいま、みんな」







「あのさ、みんな集まってくれるかな」
リジェネが、ティエリアとお揃いの制服をきて、ブリーフィングルームに皆を集めた。
「いろいろと、説明したいことはあるんだけど・・・まずは、ある場所に向かって欲しい。僕は、イオリアの後継者。命を創造する者。君たちに合わせたい人物がいる」
意味深なリジェネの言葉の後、刹那がトレミーをリジェネが指定したポイントに向ける。

「僕はね、思うんだ。イオリアの後継者でよかったと。はじめは何故、イオリアの後継者なんだと自分を呪ったよ。イノベイターでありながら、イノベイターを作り、何百年も一人で生きて・・・でも、僕は「リジェネ・レジェッタ」であって良かったと思う。皆が望む最大のことを可能にしたのだから。イオリアは偽りの神だった。僕も、偽りの神だ」
「どうしたんだ、リジェネ。さっきから」
刹那が、リジェネの方を向く。
「純粋種である君には分からないよ、刹那」
リジェネは、寂しそうにティエリアの肩に顔を埋める。

巡礼の旅から戻ってきたアレルヤとマリー、それにライル、フェルト、ミス・スメラギがなんとなく、感じていた。リジェネの謎な言葉から、もしかしたらと。
リジェネ・レジェッタという神のような存在なら、可能かもしれないと。
スペアに精神を宿らせ、復活したリジェネとティエリア。ティエリアの復活を手助けしたのも彼だ。
いや、彼という呼称は正確ではないのかもしれない。リジェネは男性タイプの無性体だった。
男性として性別が固定しているかと思えば、無性化もする。完全な無性体であり、分化していないティエリアとは近いようで違う。

「ねぇ、ティエリア。愛してるよ」
「僕も愛してるよ」
「でもね、僕が本当に愛していた人は、僕を殺してそして死んでしまった。僕を完全に殺せるわけないって知っていながら。僕は、彼を創りだしたんだ。そう、彼が「何故僕は生れてきたんだ」って言っていた言葉は、僕に向けられたものかもしれない。僕は、彼を生み出した。そして、イオリアの計画の遂行者にした。僕が傍にいれば、間違うことはないと思っていた。僕は傲慢だった。彼は自分で神になるのだと。イオリアの計画のためだけに生きた彼。僕は彼を憎んでいた。彼に、僕は作られたという記憶を彼に与えた。本当は、反対なのに。僕が彼を生み出した。計画のために。イオリアの後継者である僕は、計画のためにいろんなイノベイターを作った。彼はその一人。僕が彼を、計画の遂行者の中心人物に選んだんだ。それが間違いだった。僕は、僕は・・・・・」
「大丈夫だから、リジェネ。僕が、ずっと傍にいるよ」
「うん。ありがとう、ティエリア」
リジェネは、皆を見回す。
「ねぇ。羽ばたいて。僕の代わりに。皆で、世界を見守って。イオリア計画はあくまで計画。人が未来を作りだすものだ。そう、君たちはその未来を見守って・・・・」
「どうしたんだ、リジェネ?」
流石に心配したライルが、リジェネに近づく。
「会えるよ。君の、愛しい人に、もうすぐ。僕は、頑張ったから」
「まさか?」
「ついたぞ」
刹那が声をあげる。

皆そろって、トレミーをおりる。
そこは、イオリアの隠れた研究所の一つだった。
「ここは、イオリアの研究所の一つ。紹介したい人物は、二人。生活区域で生活してる。いこう」
リジェネを先頭に、ぞろぞろ皆で生活区域を歩く。
「いる?ねぇ、二人とも。みんなをつれてきたよ」
「おー、リジェネ、久しぶり・・・って、まじでみんないる」
「え、兄さん?」
「ロックオン!?」
「ロックオン!」
生活区域で出会った人物の一人は、皆がよく見知った人。
ロックオン・ストラトス。本名、ニール・ディランディ。

「あんたは、人の命を弄んでるのか!」
ライルが、リジェネに殴りかかろうとしたところを、ニールが止めた。
「よせ、ライル。俺は本物だ。宇宙で仮死状態だった俺を、リジェネが回収してくれて、蘇生させてくれたんだ」
「本当に、兄さん?」
ライルは、双子の兄の顔を両手で包み込む。
「ライル、久しぶりだな」
その声も言葉も性格も姿も、全てニールそのもの。それは、血を分けたライルが一番よく知っていた。
「生きてたんだ、兄さん!!」
ライルがニールに抱きつく。
「はははは、泣くなよ」
「だって兄さん!!」
泣いてしまったライルに続き、皆がニールに抱きつき、そして泣き出した。
「ロックオン!」
「ロックオン!」
「本当に、ロックオンなのか?」
子供の表情に戻った刹那は、信じられない表情をしていた。
「刹那、大きくなったなぁ」
「あんたの意思を継いで俺は・・・あんたは、あんたは・・・」
刹那はロックオンに近づく。そして、刹那は無表情の仮面をはいで、ニールの傍にやってくる。

「もう一人、いるんだ。おいで、アニュー」
「そんな。まさか」
「アニュー、大丈夫だから。おいで」
リジェネがとても優しい声を出す。
「ライル!!」
建物の影から、一人の薄紫色の髪をした女性が飛び出して、ライルを押し倒した。
「アニュー、なのか?」
「ライル、ライル!!愛してるわ、ライル!」
「本当に?」
「私が、偽者に見える?愛してくれた、分かり合った私たち。あなたになら、分かるはず」
「アニュー!!!」
ライルはボロボロ泣いた。アニューも泣いた。
もう、みんな涙だらけだ。

「リジェネが、私のスペアを発見してずっと保存していてくれたの。リボンズの計画を知っていたから。他のイノベイターのスペアはほとんどなかったのに、私だけ一体残っていたの。脳量子波で前のボディと繋がっていて、記憶も魂もそのままよ。深い眠りから、リジェネが解放してくれた。もう一度、ライルと愛し合いなさいって」
「アニュー!アニュー!」
ライルは、アニューを抱きしめてずっと泣いていた。

「ニール」
ティエリアが、ニールに抱きしめられる。
「俺は、正真正銘のニール・ディランディ。宇宙で仮死状態で漂っていた俺をリジェネが回収してくれて、蘇生してくれた。ティエリアとはもうすでに、全ての戦いが終わってから、リジェネとティエリアがスペアに精神を宿らてから何度も会っている。皆と会うのは久しぶりだな」

「信じて、いいのか」
刹那が、問いかける。
アレルヤもミス・スメラギもフェルトもすでに泣いていた。

「ロックオン!!」
刹那は、ニールに抱きつくと、泣いていた。
あの刹那が。

「だから、ほんとにもう。僕を殴ろうなんて何様のつもりさ。僕だって命をかけて彼らを保護していたんだ。ニールの蘇生だって、何体ものイノベイターを使った。僕自身の細胞移植に遺伝子操作までして、やっと仮死状態から蘇ったんだ。アニューだって、リボンズに見つからないように何度も場所を変えて・・・・・僕は、リジェネ・レジェッタ。リボンズの、意思でもあるんだ、これは。彼が、最期に・・・こう願った」
「リボンズが・・・」
刹那は、涙を拭って驚いていた。

「帰ってきたよ、みんな」
「私も」
ニールとアニューは皆に抱きしめられ、そして本物であるかを確かめるように話をして、そして生きている本物であると実感して皆涙を零す。

「ただいま」
「ただいま」

それは、リジェネとティエリアに続く、帰還の物語。
ありえないことを、リジェネは長い時間をかけておこしていた。そう、神の奇跡のように。
ニールとアニューを迎えた一行は、外に出た。

(ありがとう、リジェネ)
「リボンズ?」
リジェネは、その声を聞いて周囲を見回した。
彼のスペアは何体かあったが、リジェネ自身が処理した。自分たちと同じように、スペアに精神を宿らせ蘇っているなんてことはありえない。

最期の最期、リボンズが望んだこと。
それは、世界の新しい再生と、彼らCBメンバーの幸福。人類の未来と、自らが殺めてきた者の再生。

リジェネは、その願いをかなえた。
なぜなら、それはティエリアの願いでもあり、CBメンバー全員の願いであったのだから。

「リボンズ、君は本当に愚かだね。本当は優しくて誰よりも愛に飢えていた君。望めば、もっと違う結末だってあったのに。CBメンバーたちと分かり合う道もあったのに。君は、あえてそれを選ばなかった。僕はずっと君を、作った時から見守っていた。僕を女のように扱った君。僕を奴隷のように見ていた君。対等ではないと言った君。僕は君を憎んでいた。でもね、でもね・・・・誰よりも、君だけを愛していたよ」
リジェネが、青空を見上げて一粒の涙を零す。
透けたリボンズが、リジェネにだけ見える世界でリジェネを優しく見下ろしていた。背中には黒い翼。彼は、堕ちたのだ。他のイノベイターたちは堕ちなかったのに。その所業ゆえに、白いはずの翼は黒く染まった。
(僕も愛していたよ、リジェネ。どうか、世界を、人を・・・愛は無限だと、今更に気づいた。遅すぎたよ。リジェネ、僕はそのカルマ故にヘルファイア(地獄)にいく。どうか、幸せに・・・・)
「いつか、僕もいくさ。僕も死ぬ時は堕ちるだろう。いつか、ヘルファイアで会おう・・・いや、転生した君に、僕が会いにいくよ。ヘルファイアに堕ちても、転生はできるから・・・・リボンズ、さようなら。いつか、またどこかで。その時は、純粋に愛し合おう」
(愛している、リジェネ・・さようなら)
ヒラリと、黒い羽が一枚地面に落ちる。
それを受け取って、リジェネはリボンズの魂が完全に消えたのを確認すると、泣き出してしまった。
「ティエリア、ティエリア」
「リジェネ、僕がいるから。大丈夫。いつか、会えるよ。僕とニールのように」
「愛していたんだ・・・僕は憎んでいたけれど、それでも彼を、本当は愛していたんだ・・・・うわああああああ」

皆が泣いている。
涙は、けれど喜びのもの。リジェネだけは、哀しみのもの。


さぁ、また皆で歩いていこう。
世界を見守りながら。

刹那が、トレミーに乗り込む。
「行こう、みんな。世界を見守る旅に」
刹那にはフェルト、ライルにはアニュー、アレルヤにはマリー、そしてティエリアにはニール。
唯一人、リジェネだけが愛する人を失ったまま。


(信じているよ。いつか、この世界の何処かで出会おう、リボンズ。その時がくるまで、僕は誰も愛さない。ティエリアへの愛は家族の愛だ。恋愛感情で誰も愛さない。それが僕にできる、君を裏切ってこんな形にしたせめもの、償いだよ)

トレミーは、今日も世界の空を飛んでいる。