時、遡る「純粋に」







「二人が幸せなら、私は止めはしないよ。ただ、ロックオン君。ティエリアを不幸にするような真似は止めてくれたまえ」
「絶対にしません」
ロックオンは固く誓った。
目の前にいるのが、CBの代表だと思うと目の前が暗くなりそうだ。お偉いさんとは関係ない世界で生きてきたロックオンにとって、CBの代表という存在はとても大きなものに見えた。そう、彼がロックオンとティエリアの付き合いを否定すれば、無理やり別れされられるかもしれないのだ。

「君は、ティエリアの情夫だと聞いたが、好青年のようだね。ドクター・モレノも全く、おかしな情報をくれたものだ」
「ぶばっ!」
ロックオンは、代表の言葉に、代表の顔に向かって思い切り紅茶を吹き出した。
「す、すみません」
「ははは、構わないよ」
「ロックオン、ファザーに失礼だぞ」
ティエリアは、代表のことを代表と呼ばずにファザー「父親」と呼ぶ。
それは、ティエリアの中にある僅かなる家族に対する憧れでもあった。
「ファザー、これで顔をふいてください」
ティエリアがさしだしたのはミニジャボテンダーだった。
「あ、違う、こっちだ」
ハンカチを今度こそ差し出す。
「これがティエリアのジャボテンダーか。私も思わず購入してしまったよ。ジャボテンダー教にも入った。会員NOは64だ。ティエリアが開祖と聞いて思わず入ってしまったよ」
「ファザー、光栄です」

老紳士は、ティエリアを抱きしめた。
「ティエリア、君はイオリアシュヘンベルグの計画のために生み出された人工生命体だ。かつて、CBでは君を人間扱いしていない時期があった。ロックオン君、その頃のティエリアに何度か会ったことはあるだろう。今ではティエリアには人権は与えられているし、私が背後についているので、もうティエリアをあのような目に合わすことはないよ。この醜く歪んだ世界の中でも、どうか純粋に愛し合ってくれたまえ」
「ファザー」
「そうして、世界を変革していってほしい」
世界の変革。その言葉は大きくロックオンを塗りこめていった。
「了解しています」
「では、頼むよ」
それだけいうと、老紳士はソファーに座り、優しい瞳で二人を見つめた。

「若いということはよいことだ。生きる力に溢れている。ティエリアの瞳が昔とは考えられないくらいにとても強く輝いている。全てロックオン君、君のお陰だな。私からも礼を言わせてもらう」
「いや、そんなことは」
「ファザー、ロックオンはいい人です。結婚も誓いました。見てください、ペアリングもしているんです」
「おやおや。では、ティエリアの父である私が公認しよう。二人の仲を」
「ありがとう、ファザー」
ティエリアは紅茶を飲んで、終始上機嫌だった。
そのまま、CBの秘密基地に何日か滞在することになった。
ティエリアが、その間ファザーにつきっきりで、他のCB構成員にもジャボテンダーがどれだけ素晴らしいものか語って聞かせた。

懐かしいのだろう。
自分が何年も過ごしたこの場所が。
そう、忘れもしないあれは何年前のことだろうか。


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