時、遡る「必然の運命」







白亜の少女は、代表の徹底的な調べの元でもともと、ガンダムマイスターになるべく作られた、イオリアシュヘンベルグが作った人工生命体、新たなる人類であることが分かった。
代表の知らない間にコールドスリープが数年前に解かれて、本来ならばガンダムマイスターとして候補ではなく確定した者として生きるはずだった。
医師たちのグループの一部だけが、ティエリアを目覚めさせたことが今回の事件に繋がった。新しい生命体は普通の人間とは傷の回復能力も違い、遺伝子操作も受けており、はじめは解剖の意見が持ち上がったが、投薬実験を繰り返した後に解剖されることになっていた。
同じ姿をしたイオリアが作り上げた人工生命体が他にも数体見つかったせいであった。
何人もいるのならば、一人くらい人体実験にかけても大丈夫だろうと。

何年も監禁され、人体実験を受けて、投薬実験のすえに髪は紫紺から銀色になり、それは人体から色素を失わせる実験の成功でもあった。瞳は石榴色で、綺麗な声でよく歌っているが、無性で男でも女でもない。まるで天使のようではあるが、ドクターたちはそれにも興味を持った。
無性でどうやってホルモンバランスをとって、生命として生きていられるかなど。

ティエリアは、眠っていたカプセルにティエリア・アーデと名前が刻まれていた。ティエリアがガンダムマイスターとなるべくイオリアが渾身をこめて作り上げた生命体であることは後になって分かった。

今回の件で、ティエリアの人体実験に関わった者には処刑という極めて厳しい判断が出された。
それもそうだろう、イオリア計画の実現はCBメンバーたちの夢でもあるのだから。その夢の欠片であるティエリアをそんな目に何年もあわせたものたちには、当然の罰かもしれない。

ティエリアは、精神分析の結果、IQ180をこえていること、そのかわり精神的にずっと虐待も受けていたためか極めて未熟な子供の部分も持っていることが分かった。
代表は、ティエリアを自分の娘のように傍において人としての愛情を注いだ。
けれど、ティエリアはとても冷めた機械のような人間になってしまった。自分のことを人間ではないというティエリア。全ては過去に受けた傷のせいなのかもしれない。

そのティエリアが今、生きる希望に溢れた瞳をしている。
長年、娘として連れ添った代表には、それが嬉しくて仕方なかった。
「これも、運命、いや必然だったのかもしれないな。ロックオンがティエリアを愛することは」
ロックオンは、かつてティエリアを救ったものの、その後はなんの音沙汰もなく、無事であることは確認できたが合うことはかなわなかった。

そして、ロックオンが22歳になった時、正式にガンダムマイスターとして、少年の姿をしたティエリアを会うことになる。その頃のティエリアには全ての人権を与えられ、一部人間くさい部分もあったがまるで機械のようだった。昔とかわらぬ艶やかな容姿。
ティエリアに、過去に人体実験を受けたという記憶はない。代表が消すよう命じたのだ。
足元にたどりつくほどに長かった髪は肩のあたりで切り揃えられ、元の紫紺に戻っていた。

ロックオンは何度もティエリアに話かける。
でも、返答は返ってこなかったり、無視されたり、あっけないものだったり。

人は、ある時劇的に変わる。
そう、恋をした日。
もしくは、愛を知った日。

変わる。
全てを覆すほどに。

「ファザー、ではお元気で」
「ティエリアも元気で」
「お元気で、代表」
ティエリアとロックオンはデュナメスに乗って、トレミーに帰還した。



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