静かなる海「ティエリアの願い」







(どうして戻ってこないの?刹那の言葉では、意識体だけでも存在できるという話だったわ。ねぇ、ティエリア。どうして帰ってこないの?あなたの帰ってくるべき場所はここよ。みんなあなたを待ってる。みんな泣いているわ。ねぇ、私も涙が止まらないの、ティエリア。ティエリア。帰ってきて。お願い)
ミス・スメラギはアクセスしながら涙を落とす。
「帰ってきて、ティエリア。ティエリア、お願いよ・・・・」

女性陣は皆泣いてしまった。
アレルヤも泣き出した。ライルも泣き出した。
トレミーのクルー皆が泣いている。
ただ、ティエリアの帰還を願って、泣いている。ティエリアがいないことに、これだけ哀しんでいる。

(ティエリア・アーデは現在存在しませ・・・・僕は)
「ティエリア!?」
「ヴェーダ内から、ティエリアの生命反応が確認できました!」
フェルトの報告に、皆が顔をあげる。
ディスプレイに打たれる文字に、皆が釘づけになった。
(僕はもう、役割を果たした。僕の役割は終わったんだ)
刹那が、素早く文字を打ち込む。
(何故そういいきる?)
(僕は・・・・・生きて、変わって、人間としていきてきた。もう十分だ。たくさんの幸せをもらった。みんなから、たくさんの感情をもらった。僕は、ティエリア・アーデという生命であってよかったと思う。ティエリア・アーデでなければこんな喜びも感動も・・・人間らしさも何もなかったと思う。僕は、役割を終えたんだよ)
(だが、今お前は皆を哀しませている)
(それはすまないと思う。でも、意識体として皆と生活することは考えていない。僕の役割は終わったけれど、それは僕という人間の役割が終わったこと。僕というイノベイトの役割はこれから遙かなる未来へと続いていく。どうか、哀しまないで。僕は消えたわけではない。死んだわけではない。どうか泣かないで)

「そんな無理言わないでよ!」
フェルトが乱暴に立ち上がって、彼女らしくもなくわめきちらした。
「あんなにいっぱいみんなと一緒に生き残るって誓っておいて!ティエリアのバカ!!意識体だから、肉体がないから帰ってこなくていいなんて、そんなことないんだから!生きて、生きてみんなで生き残るって誓ったじゃない!私、私、ティエリアがいないなんていやよ!!」
「僕もいやだよ、ティエリア。このまま終わるなんて、嫌だよ、ティエリア!!」
アレルヤが、マリーを抱きしめながらディスプレイに訴えかける。
「私は、ティエリアさんと出会って日が浅いですが、こんな終わり方残酷です!どうか帰ってきてください!」

「ティエリア。帰ってこい!!」
はじめて、刹那がティエリアにそう訴えかけた。

(ああ・・・・皆の愛に僕は包まれている。ありがとう。そしてごめんなさい)
「ティエリア!!」
ディスプレイの文字が消えた。
(僕の願いを)
(どうか、かなえてほしい)
(ヴェーダの中から移動して、トレミー内で冷凍保存している)
(ティエリア・アーデの肉体を)
(どうか、アイルランドの)
(ロックオンの墓に葬ってほしい)
(そして)
(墓標にロックオン・ストラトスの下に)
(ティエリア・アーデと名を刻んでほしい)
(それが僕という存在全ての願い)

次々と浮かんでいく文字をみて、皆涙を流していた。
 



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