静かなる海「再生される記憶」







金色に耀く海の中からティエリアは浜辺へと移動した。
そこは、エメラルドの光の向こう側。光る岸辺。真っ白に、黄金に、エメラルドに、オーロラ色に。
いろんな色が煌く世界を、ティエリアは見つめる。
もう何度も見た風景。

黄金の海は、エメラルドの光の向こう側に繋がっている。そこは、ヴェーダの存在から離れた世界。どうなるか分からない。だけど、だけど、誰かがずっとエメラルドの光の向こう側からティエリアの名前を呼んでいた。
そう、とても懐かしい声。
とても優しい。
ティエリアは、意を決して光の向こう側に飛び込んだ。
そこは。

そこは。

そこは。

ティエリア・アーデの全てが。
愛し、そして失った。

再生される光景。

ロックオンは、デュナメスのコックピットから出ると、ハロにデュナメスの機体をトレミーに収容するように託した。
「あばよ、相棒」
宇宙を漂う。
ビームライフルを手に。
「何やってるんだろうな俺は・・・けどなこいつをやらなきゃ、仇をとらなきゃ・・・おれは前に進めねぇ、世界とも向き合えねぇ」
アリーの乗るガンダムスローネに向けて、銃の照準を合わせる。
「だからさぁ、狙い撃つぜぇ!」
引き金を、ためらわずに引いた。
発射される。
襲いかかる衝撃。
体が吹き飛ぶ。

砕ける。
壊れる。

「父さん、母さん・・・エイミー・・・・・分かってるさ、こんなことしても変えられないかもしれないって。元には戻らないって、それでも、これからは・・・・・明日は、ライルの生きる未来を・・・・」

思い出す。
双子の弟。
たった一人、生き残った家族。
とても仲が良かった。影から、資金的に援助をしていた。顔を合わすことはなかったけれど。
ガンダムマイスターになり、家族の仇を打つと決めたロックオンは、双子の弟と別れた。
生きるために、その手を血で染め上げながら。

エメラルドの光が落ちていく。
闇に向かって、ロックオンの体は堕ちていく。
キラキラと、エメラルドの光を、欠片を零しながら、ロックオンの体はエメラルドの光に包まれる。

「よう・・・お前ら、満足か、こんな世界で」

宙を漂い、遠くに見える地球を見る。
隻眼にうつる地球は、青く美しかった。
人が生まれた母なる大地。
そっと、手を伸ばす。
遥かなる地球に向かって。
その手は、伸ばされたまま。

「おれは嫌だね」

指で、銃の形をとって、BANG!と撃つ真似をする。

「・・・・・・ああ、ごめんな。ティエリア、愛してるよ。こんな愚かな俺を許してくれ」
エメラルドの欠片をまといながら、宙を漂う。
「一緒に、家族になろう。家族に・・・・アイルランドで、一緒に暮らそうぜ。結婚式をあげて、俺の家で一緒に暮らして・・・・・」
明滅する光の欠片たち。
虚空に向かって、手を伸ばす。
「・・・・ああ、ちゃんと聞こえてるぜ。お前の愛してるって言葉。・・・・俺に、ちゃんと届いてるぜ」
エメラルドの瞳が、ゆっくり閉じていく。

「愛してるぜ、ティエリア。誰よりも、お前を」

目を開ける。
ぼんやりと映る、地球に手を伸ばす。
ロックオンの隻眼から、涙が溢れた。
「愛しすぎて、ごめんな」
こんなにも、こんなにもティエリアを愛している。
愛している。愛している。愛している。
幾万回でも幾億回でも囁く。
愛していると。
「愛してるぜ・・・・ティエリア」
ふわりと、ティエリアが現れてロックオンに向かって優しく微笑んだ。
そのまま、ティエリアに抱きしめられながら、闇に堕ちていく。
果てしない闇に。

再生される光景を、ティエリアは泣きながら見ていた。
そうか。彼は、こんな最期を遂げたのか。
彼は、最期まで僕を愛していると。
ティエリア・アーデがティエリア・アーデである全て。
それは彼。ロックオン・ストラトス。
最期に、僕の幻に抱かれて彼は死んでいったのか。
こんなにも、愛されていた。知っているのに、涙が止まらない。乗り越えたはずなのに。愛しい人の死を全て見るのは、ヴェーダと一体化したティエリアでさえ衝撃的だった。

「僕も、あなたに何度でも幾万回でも幾億回でも繰り返します。愛しています、ロックオン」




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