ドクター・モレノの日常VSティエリア2







「ごめんください」
スプリンクラーは止まっている。
ペコリと、丁寧にお辞儀をしてくるティエリア。
「ごめんください」
「おいおい、そんなに何度も繰り返してると「ごめん」ってのをくださいって言ってるようにかんじるだろ。1回でいいんだよ、そんな挨拶は」
「分かった。ごめん、臭い。ドクター・モノレ」
「そうだ、それでいい」
ドクター・モレノの目の前で、恋人同士はいちゃついている。
よしよしと、ロックオンはティエリアの頭を撫でてて、ティエリアはとても嬉しそうにしている。腕にはもちろんジャボテンダーを抱いて。

さっき、「ごめん、臭い」は失礼だろと言っておきながら、OKを出しているロックオン。勿論わざとではない。彼は非常によく人間性ができている。ただ単に、ティエリアシンドローム(ドクター・モレノ命名)にかかっているだけだ。ティエリアシンドローム。それは、ティエリアに関わることでおこる現象である。本来こうであるべき人間が崩壊していく・・・・そんな現象だ。
ちなみに、「ごめん、臭い」とはティエリアなりのあいさつの仕方で「ごめんください、失礼します」を省略したものだ。
「大将、またやったな。床が濡れてるぞ」
床に落ちている濡れた煙草を見下ろして、ロックオンはため息を零す。
大将というのは、ドクター・モレノのことだ。普通はドクター・モレノとロックオンも呼ぶが、ティエリアと一緒のときは大将と呼ばれることが多い。
「床が濡れている。滑って転んで脳みそが零れては大変だ!ふいておく」
ティエリアは、ジャボテンダーをロックオンに持たすと、デスクの前の椅子にかけられていた白い布で床を、ゴミとなった煙草ごとふいていく。
いや、親切心はとってもありがたいのだけど、ティエリア、それ俺の新しい出したばかりの白衣だっての
無論、ドクター・モレノはいつでもどこでも、寝る時でさえ白衣をきているので、今きている白衣とは別のものだ。ティエリアは床をふきおわると、ゴミ箱に白衣を捨てた
捨てられちまったよ、俺の新しい白衣。まだ着てもいないのに。
「さぁ、これで脳みそが零れる心配はなくなった」
いや、たとえバナナの皮で滑っても、捻挫したり頭をうったりいろいろするかもしれないけど、脳みそが零れることなんて100%ありえないから安心しろ。脳みそは頭蓋骨に保護されており、強い衝撃でも与えない限り脳という存在は・・・・・(以下略)

ティエリアは、ロックオンからジャボテンダーを受け取ると、ぶんと勢いよく振り回す。
「ホームラン!」
まるでバットのごとく、ジャボテンダーでハロを打っては、どんだけジャボテンダーに威力があるのか、ハロは「アーレー」という合成音声をだして、診察室のベッドに転がった。
「ティエリア、ホームラン、ティエリア、ホームラン!」
「ハロさんをホームラン!」
きゃっきゃっと、ハロとジャボテンダーとティエリアは戯れている。
ハロはティエリアのお気に入り。最初はいつも戦闘の時でさえ傍にいるハロを少し煩わしがっていたティエリアだったが、刹那が覚えさせた変な言動のせいでハロの性格は歪み、その言動がティエリアは楽しくて仕方がないようで、またハロもロックオンが「ティエリアと仲良くな」と言い聞かせているせいで、とてもティエリアと仲がいい。ハロはロックオンの相棒のはずなのだが、ティエリアの遊び友達の一つになっている。
ハロはまたティエリアに向かっていって飛んでいった。
「ホームラン!」
ティエリアは、またジャボテンダーをぶんとうならせて、ハロを打つ。カキーン。そんな音が聞こえてきそうな、とてもよい打ち方だ。
打たれたそれは、ドクター・モレノの頭に当たった。
べし、どんがらがっしゃん。
そんな擬音をたてて、ハロに頭を直撃されてドクター・モレノはデスクの上に吹き飛んで書類やらいろいろなものを落とした。

「こら、ティエリア、人に向けて打っちゃだめだろ」
「ミスりました。大丈夫か、ドクター・モレノ」
そもそも、相棒をボールのように打たれて平気なのか、ロックオン・ストラトス。
「モレノ、ダサイ、モレノ、ダサイ」
「うっさいわ!」
ハロを捕まえて、ドクター・モレノはたんこぶのできた頭をおさえた。
「オカサレル、オカサレル!アーレ、アーレ」
「誰がお前なんぞ犯すか、このぽんこつが!」
ドクター・モレノはハロをロックオンに向けて放り投げる。それを、石榴色の瞳が狙う。
カキーン!
またハロは打たれて、ドクター・モレノの頭を直撃した。
ドクター・モレノはまた頭にたんこぶを作って、ハロをしっかりもつと、ドアの向こう側にぺって捨てた
「ハロさん、また遊んでね」
ティエリアが手を振っている。
「ハロ、マタアソブ、ハロ、マタアソブ」
ここは遊技場でも野球場でもバッティングセンターでもなんでもなく、神聖な医療施設の診察室だ。高額な機械だって置いてある。防水加工はばっちりです。いや、そうじゃなくて!!



NEXT