硝子細工の小鳥「大好きな絵本」







「お姫様は言いました。やっと願いが叶った、これで私は魔女の呪いから解放される。美しいお姫様は、硝子細工の小鳥になってしまいました。何百年もずっと一人で孤独に生きてきたのが、魔女の呪いだったのです。王子様は、硝子細工になってしまったお姫様の傍にいるとちかった通り、ずっとずっと傍にいました。そして、王子様は硝子細工の小鳥となったお姫様の対の小鳥になりました。王子様が、そう願ったのです。お姫様の傍で、王子様も硝子細工の小鳥となって、二人で永遠の時を過ごしました」
パタンと、ロックオンは絵本を閉じた。
ベッドの中のティエリアは、すーすーと寝息をたてて、よく眠っている。
「愛してるよ、ティエリア」
ティエリアの額にキスを落として、ロックオンは隣のベッドで眠りについた。

一度壊れてしまった関係。また戻せた。
愛していると、ティエリアは言ってくれた。
たとえ、その言葉の意味がわかっていないとしても、言ってくれただけで十分だった。

次の日、目覚めるとまた一日がはじまる。
「おはよう、ティエリア。愛してるよ」
「愛してるよ。ティエリア」
「違う違う。愛してる、ロックオンって言うんだ、そこは」
「ロックオン」
「そうだ。ロックオン」
「ロックオンー」
「うん、いい子だ」
「ロックオンー、お菓子食べたい」
「今作るからな。朝食の後でな」
「絵本読んで。絵本」
「食事の後でな」
近所の人間は、ティエリアのことを影で気狂いといっているのを、ロックオンは知っていた。でも、責めることはできない。
近所の子供が、ティエリアに向けて石を投げた時は流石に烈火の如くロックオンは怒った。その家に怒鳴り込んで、両親に土下座までさせた。
でも、ティエリアが泣いていじめないでいじめないでというので、それもやめた。
ティエリアは怖いのだ。ロックオンがいなくなったり、怒ったりするのが怖くて仕方ないのだ。
ティエリアが一人でふらりといなくなることもなくなった。
何もかもがうまくいっている。

診察でも、ティエリアの知能は5歳児並みと前と変わらなかったけれど、そんなことどうでもいいんだ。
ティエリアがいてくれるだけでいい。
そこに、ロックオンの幸福は存在する。
「あなた誰?」
あいかわらず、ティエリアは記憶してくれない。
それでも構わない。
二人で、生きていこう。
償いは一生かけてするから。一生かけて愛しぬく。死ぬ時は勿論一緒だ。連れていく。
世論なんて知ったことじゃない。
連れて行く。
そう、決めたんだ。

ティエリアに、はじめて「愛している」ともう一度言ってもらっったあの日に。
ロックオンはティエリアを愛する。ただひたむきに愛する。
ティエリアは笑顔を零す。愛してくれている人の名前をすぐに忘れてしまうけれど。

「絵本読んで。硝子細工の小鳥の」
ティエリアは、お気に入りの本のことは記憶した。
完全に記憶できないというわけではない。言葉だって、長くしゃべれるようになった。完全に回復している。
まだ人生は長い。
一緒に、また成長していけばいい。

「お姫様は言いました。やっと願いが叶った、これで私は魔女の呪いから解放される」
何度も何度も、もう何百回も読み聞かせた絵本を開いて読んで聞かせる。もうその絵本はボロボロだった。ティエリアが、この絵本が欲しいといって、ロックオンは地上に降りた。
その間にティエリアは敵襲で重症をおい、後遺症でこうなった。

本当に、この絵本のように硝子細工の小鳥のつがいになれたらいいのにね。

そう心から思う。
そして何度も、次の日も読みきかせる。もう、ロックオン本人だって、絵本を開かなくても中身は暗記してしまっている。それでも、絵本を開いて読みきかせるのだ。
毎日の習慣でもあった。

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