硝子細工の小鳥「硝子細工の小鳥







一年ぶりに、ティエリアを病院に連れて行った。ティエリアはリハビリなどのせいですっかり病院嫌いになっていて、健康診断の日などないきたくないと泣き出して、しまいにはてこでも動かなくなってしまって、ロックオンも諦めた。無理に健康診断をさせる必要もないかと思った。
そんなある日だった。
ティエリアが風邪をひいた。すぐに治ると思い、市販の薬を買って飲ませた。
けれど、ティエリアの症状は一向に改善されない。
ティエリアの具合は悪くなる一方で、流石のロックオンも泣いていやいやするティエリアをつれて病院に出かけた。
そこでつげられたのは、風邪とかそんなのでもなんでもなくって。

どうして、思い出さなかったのだろう。
ティエリアは人間という生命ではないのだ。病気になると、普通の人間とは違う症状を引き起こす可能性があるということに。昔、ドクター・モレノが注意しろといっていたではないか。
平和すぎる日々に、昔のことを忘却して。
その代償が、ティエリアなんてあんまりだ。

ティエリアは、ガンだった。
腫瘍は手術で取り除いたが、担当の医師が暗い面持ちのロックオンに告げた。
かつて、ティエリアの脳の手術を担当してくれた医師だった。
「結果から申しますと、悪性です。すでに転移しています。年月の問題ですね」

死刑宣告を聞く気分とは、こんなものだろうか。
ロックオンは思った。

「もって・・・・あと何年ですか?」
「延命治療を・・・続けて5年。しないと3年ですね」
「そうですか」
「ガン専門の病院に入院することをオススメします。発作の少ない効ガン剤が処方されていますし、延命治療と手術を繰り返せば、6年はもたせることができるかもしれません」
「・・・・ません」
「はい?」
「延命治療はしません」
「ですが、それでは・・・」
医師は、ロックオンの健気さから、ティエリアをてっきり延命治療させるのだとばかり思っていた。
「入院もしません。通院はします。ですが、自宅治療にします」
「それでは、お金のほうが・・・・」
「経済的な問題は大丈夫です」
「そうですか。では・・・・」
ティエリアの保護者であり配偶者はロックオンである。家族はロックオンのみだ。
患者の意思が確認されない以上、現在では延命治療などは全て家族の意思に任されていた。

「心中、お察しいたします」
それだけ告げると、医師は去っていった。
退院したティエリアがつれてこられる。処方された効ガン剤を受け取って、ティエリアと手を繋ぎながら帰途についた。

「なぁティエリア」
「ティエのこと、呼んだ?」
「うん、呼んだ」
ティエリアは、自分の名前とロックオンの名前を記憶してくれた。
省略した愛称のようではあるが、記憶してくれた。ロックオンのことをちゃんと、自分を愛して守ってくれる者と認識だってしてくれる。もう怯えたりはしない。
「なあに?」
「硝子細工の小鳥になりたいか?」
「うん、なりたい!僕、なりたい!」
「そうか。奇遇だな。俺もなりたいんだ」

硝子細工の小鳥のつがいは、時間も永遠だろう。
過ぎ去っていく季節がこんなにも苦しいなんて。
この一刻一刻、一秒一秒を大切にしなければ。

「愛してるからな、ティエリア。死ぬ時は一緒だ」
「ロック、死ぬの?」
「ううん、死なないよ」
「ティエが死ぬの?」
「いいや。死なないよ。死なせないよ」

ベッドで眠るティエリア。
効ガン剤は昔のような酷い副作用はなくなったが、完全に副作用がなくなったわけではない。
日に日にやつれていく。
もう、笑って、走り回ることもなくなった。
起き上がって散歩する回数だって減った。

「ティエ・・・ティエ、ロックのこと、愛してるよ」
ティエリアは、涙をこぼして、同じようにやつれたロックオンの頬に手を添える。

この愛は、永遠だから。
お前は、俺が守る。死ぬ時は一緒だ。
そう決めたんだ。
連れて行く。先にいくというのなら、一緒にいく。
一人にはしないから、泣かないでくれ。
「一人にしたりしないから、泣くな」
「ティエ、絵本すき。あれよんで」
「ああ、今読んでやるよ。お姫様は言いました」

季節は移り変わり、年月は無常にも過ぎ去っていく。


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