青春白書7







二人は「約束」をした。

「いいよ。でもかわりに、もうリストカットしないって約束だ。「特別」になるから、もうしないって。悩みがあったらちゃんと話すこと。いいか?」
「・・・・・・・・・・うん」
石榴色の瞳とエメラルド色の瞳が交じり合う。
ティエリアは涙を零すことを止めた。


どうせ。
どうせ、この大人もすぐに飽きてしまうだろう。
僕にはなんの魅力もないから。可愛そうだと構っているだけだろう。
同じような境遇を過ごしていたということに、すごくひかれるものはある。でも、なまじ同じ環境を過ごしただけに同じ者の心の痛みは分かる。可愛そうという同情心は他人よりも大きい。
どうせ、僕は。
お金よりもこの命は安いのだから。


そのまま、ティエリアはまた眠ってしまった。
ニールはしばらく傍にいたが、そのままアレルヤの元に戻った。
事情を説明しようか迷ったが、ティエリアは知られたくないだろうと思って秘密にした。アレルヤに悪いと思いながらも、どうして自分がティエリアという名の少女にここまで吸い寄せられるのかよく分からない。
似たような、いや自分よりも酷い環境を過ごしていたのも理由にあるが。美しい容姿だからというのも確かにあるのかもしれない。放っておけないというのもある。
それ以上に、もっと何かがあるような気がした。そうだ、青春ドラマにありがちな運命の悪戯ってやつだろうか。
青春白書じゃあるまいに。
しかも相手は生徒。未成年だ。年齢は17歳。同じ学校の生徒で、ニールは教師だ。
その障害は大きい。それなのに、どうしてだろうか。
まるで蜘蛛の糸にかかった蝶のようだ。でも、ティエリアになら捕食されても構わないとさえ思った。
まだ知り合って数日だというのに。


週末があけて、月曜日。
ニールはいつも通り保健室にいた。
3時間目、ティエリアがやってきた。
「お、どうした?」
「悩みがあるの。あなたがいった。悩みがあったら打ち明けろと」
「話してくれる気になったのか。どうした。クラスになじめないのか?女子の友達がいないってな。いじめられてるとか、そういう話か?」
「違う。クラスにはなじめなくったってどうでもいい。女の友達なんて別にいらない」
いじめのことについて、ティエリアは触れなかった。
「アレルヤが好きなの。好きで好きでどうしようもない。どうしたらいい?」
「あー・・・・・」
ニールは天井を仰いだ。
確かに、重要な悩みだろう。まるで本当に青春白書。青春の悩みだ。
「アレルヤに告白はした?」
「してない。彼女がいるから振られるにきまってる。だからしてない」
「うーん・・・・」
恋だとかの悩みを打ち明けられるとは思ってもいなかったので、少し考える。
「そうだ」
「何?」
「お兄さんに恋しなさい。お兄さんを好きになりなさい。だって「特別」なんだろう?だったらお兄さんに恋をしなさい」
「・・・・・・・・・・あなたバカ?」
ティエリアは、ニールを睨みつける。
特別でいてくれとは言ったが、その存在定義はティエリアにとっては仲間というようなもので、恋だとか好きだとかの特別とはまた違う。
バカと言われた保健室の先生は、朗らかに笑っていた。
「バカだよ俺は。なぁ、ティエリア。アレルヤを好きなままでいいから、俺も好きになっていこうぜ」
「バカだ。相談した僕もバカだ」
「はははは」
「帰る」

ティエリアの手をとって、引き止める。
すぐに、ティエリアはふらついた。
華奢すぎる体。
「ちゃんと食ってる?」
「ある程度は。それ以上は体が受け付けない。嘔吐する。だから無理には食べない」
「そっか・・・・・」
ひきよせらる。
ティエリアはニールの腕の中にいた。
「あなたは。これは同情?」
「多分、違う」
「だったら何だっていうの」
ティエリアの唇に、自分の唇を重ねる。
ティエリアは、この前は全然平気だったのに、真っ赤になってニールから逃れた。
「な、な、な!この犯罪教師!」
「おー、犯罪だよな、これ」
「帰る!」
ティエリアは、保健室のドアを乱暴にあけた。かと思うと、ニールの元に戻ってくる。
そして、石榴色の瞳で見上げる。
「これ、僕の携帯番号とメルアド」
書かれたメモをニールに渡した。
拒否されているわけではないのだろうかと、ニールも思う。
メモを渡してくるティエリアの頭を撫でていると、ティエリアは年齢よりも幼くみえた。視線の使い方を知っている。自分を守ってくれと訴えるような使い方だ。多分、両親のせいでこんな使い方を覚えたのだろうと思うと、胸がチクリと痛んだ。
ニールが抱きしめると、ティエリアは瞳を閉じる。
「アレルヤと刹那とリジェネ以外にこうされたことはない」
「居心地悪い?」
「分からない」
そういって、また石榴色の瞳を開く。いつでも熱を孕んでいるように潤んだ瞳。
「帰る。あなたなんて嫌い」
ティエリアは、頬を赤くして保健室から逃げ出した。

「嫌いっていいながら頬赤くしてもなぁ。あーやべ、まじでかわいい。青春白書ってドラマあったよなぁ。こんな犯罪ちっくな内容じゃなかったけど・・・・」
ニールは、ティエリアがくれたメモを見る。
綺麗な執筆だ。
メモの裏には絵が描かれてあった。
「あー。なんだこれ?」
それは、ティエリアの大好きな縫いぐるみのジャボテンダーさんだった。


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