青春白書11







また、いつもの朝がはじまる。
「ニール」
3時間目になると、ティエリアは保健室にやってくる。
教師はティエリアが発作的に暴れたりすることが全くなくなったせいで、みなニールを信頼して、ニールにティエリアのことを任せていた。
ティエリアは、ニールのことを「ニール」と呼ぶようになっていた。
鞄には、買ってあげたキーホルダーをつけているし、毎日ニールがあげた髪飾りをつけるようになっていた。
ためしに、違う髪飾りをプレゼントしてあげた。
翌日には、それをつけてきてくれていた。髪もアレルヤに綺麗に結ってもらって、周囲がみてもティエリアは明らかに変わっていた。そう、とてもよい方向へ。

週末、いつものようにティエリアの家に泊まりにいくと、ティエリアは笑顔で出迎えてくれる。それから、一日の出来事をニールに語って聞かせる。
「なぁ、俺のこと好き?」
そう聞くと、必ずティエリアはこう答える。
「ニールなんて嫌い」
そういいながらも、腕を引っ張って、自分の部屋に通してくれる。
夜になると、ニールが買ったジャボテンダーのパジャマに着替えたティエリアは、ニールと一緒に寝ると言い出した。
いつもはアレルヤか刹那と寝ているのだという。
誰かが傍にいると、とてもティエリアは安心する。
ニールは誘われるままに、一緒のベッドで眠る。ティエリアを抱きしめて。

デートする回数が多くなった。
毎日、携帯電話で話をする。おやすみと、必ずメールがくる。朝になると、おはようとメールがやってくる。
ニールの元で、カウセリングに似たものを受けるティエリア。
ある日、ティエリアから重大なニュースが飛び込んできた。
はじめて、同じクラスで同性の友達ができたそうだ。とても嬉しそうにしていた。
活発的になったティエリア。もう、以前のような退廃的な雰囲気はないに等しい。
ティエリアの周りに、刹那の友人以外の友人が増えた。同性の友達もできた。
以前ケンカを起こして騒ぎになった女生徒からの接触はあれからないらしい。他の女の子のグループから嫌がらせを受けることもなくなった。

ティエリアはクラブに入った。委員会にも入った。
目まぐるしく変わっていく。

ティエリアが、熱を出して欠席することも、突然倒れることも少なくなった。
アレルヤからは、正式にティエリアのことをお願いすると言われた。それは、将来的な意味も含めてのことだ。無論ニールは受け入れた。

「いや。行きたくない」
「どうして?」
2年の修学旅行に、ティエリアは行きたくないと言い出した。
「ニールがいないから嫌!」
ニールは修学旅行には行かないことになっていた。
「でも、みんなティエリアが来るといいなっていってたよ」
「でも、ニールがいないから嫌!」
「じゃあ、俺がいればいいんだな?」
「うん」
ニールは、なんとか無理をして修学旅行に自費で一緒に行くことになった。生徒たちの安全を見守りたいということで、ニールの個人的な我侭は通された。
何より、理事長がIQ180のティエリアのことを気にしていて、特別に計らってくれたのだ。
ティエリアは学校はじまっていらいの天才だ。学力テストなどでは、全国でも必ず1位か2位をとる。今までは、学力テストも適当で、IQ180と名高いのに、成績は今ひとつだった。それが、飛躍的に一気に伸びたのだ。それはもう、理事長からしても、自分の学校にそんな生徒がいるとなると鼻が高いだろう。
ニールは精神的に不安定になりやすいティエリアのケアをしていることもあり、理事長の耳にもその名前は届いていた。

修学旅行はイタリアだった。
2週間の旅になった。

修学旅行が終わった次の日、ニールはティエリアに尋ねた。
「なぁ、ティエリア。俺のこと好き?」
「ニールなんて大嫌いの反対」
「え」
ニールが聞き返した。
いつも「ニールなんて大嫌い」と答えるティエリアの返答が変わっていた。
「もっかい言って」
「やだ」
ティエリアは、ニールに小さく舌を出して、そのまま教室に戻ってしまった。

「大嫌いの反対かぁ・・・・つまりは大好き?」
一人職員室でニマニマしているニールに声をかける教師はいなかった。


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