ジャボテンダークッキー







「うん、うまく焼けた」
フェルトは出来上がったクッキーを見て、満足そうだった。
「ティエリアは?」
「こっちもOKだ」
ティエリアも、焼きあがったクッキーを見て、フェルトに答えを返す。
「ほんとにティエリアはジャボテンダーが好きね。かわいいわね。食べるのが勿体ないわ」
ティエリアが作ったクッキーはジャボテンダーの形をしていた。
「ニールとリジェネにあげるために作ったのだから、食べて貰わねば困る」
二人とも制服の上からかわいいエプロンをきて、食堂の調理場をかりて、二人でクッキー作りをしていた。フェルトが作っていたのをティエリアが見かけて、一緒に作りたいと言い出したのだ。
ティエリアは、自分だけでつくるとどうにも味が素晴らしいことになるらしいので、ひとりでは作れない。
フェルトはいつものように、刹那にあげようと思ってつくっていた。

乙女な二人。
このトレミーには、ミレイナ、フェルト以外にも乙女になるティエリアが存在する。

できあがったクッキーを綺麗にラッピングする。
フェルトと一緒にお菓子をつくるのは楽しい。ニールと一緒につくるのも楽しいけれど、愛する人にあげるのだと話に花を咲かせてつくれる。
乙女なティエリアはどこまでかわいく、乙女をしている。
フェルトだって勿論かわいいのだけど、この乙女と化したティエリアはある意味無敵かもしれまい。クルーの皆に愛されている。
「ジャボテンダーさん、味はどうだ?」
見物人として椅子に座らせていたジャボテンダーを抱きしめて、クッキーを一つジャボテンダーに食べさせようとしている。かなり本人は真面目だ。
「うむ、美味しいらしい」
「そう、良かったわね」
食べさせようとしても、ジャボテンダーは食べてくれないのでいつもかわりにティエリアが食べる。
ティエリアはいつでもジャボテンダーと一緒。そしてジャボテンダーの言葉が分かる。

 

「ティエリア!何してるの?」
食堂に暇をもてあましたリジェネが入ってきた。
リジェネと一緒にお菓子をつくることもある。リジェネの料理の腕は天才的で、フェルトとティエリアは生徒のようにリジェネから学ぶ。ミレイナも混じって、乙女3人で料理教室みたいになってしまった、リジェネから料理を学ぶ時間。
「ああ、いいところにきてくれた。これあげる」
綺麗にラッピングされたクッキーを手渡されて、リジェネは嬉しさのあまりにティエリアに抱きつく。
「ありがとうティエリア!手作りなんだね。愛してるよ。すごく嬉しいよ」

「じゃあ、私は刹那に渡しにいってくるから」
戯れてはしゃいでいる二人を残して、フェルトは刹那の部屋に向かう。
「フェルト?どうした」
「あ、あのね、刹那。クッキー焼いたの。美味しいか分からないけど、一生懸命作ったから」
「フェルト」
刹那は、真っ赤になってしどろもどろになるフェルトに笑顔を向けると、その額の髪をかきあげてキスをする。
「ありがとう。一緒にお茶にしようか」
「うん」
フェルトはとても嬉しそうだ。
「その前に、そのエプロン姿のままでいいのか?」
フェルトのエプロンはティエリアとお揃いのジャボテンダーエプロン。
「あ、きたままだった。脱ぐわ」
「そのままでもいい。かわいい」
刹那は、フェルトの肩を抱いて自分の部屋に招きいれた。時間はちょうど2時。昼過ぎのティータイムには悪くない時間だろう。

「今日もリジェネのジャボテンダーさんは元気そうで」
「いやいや、ティエリアのジャボテンダーさんは、人生の先輩だから、いろいろ習いたいことがあると言ってるよ」
「それは嬉しいことだ。リジェネもジャボテンダーさんスキルをマスターしたようで、僕も嬉しい」
「愛するティエリアのためなら。いやでもジャボテンダーさん愛しいよね」
「うん。ジャボテンダーさん大好き」
「僕も大好き」
食堂で、二人はジャボテンダーを抱きしめながらジャボテンダーについて語り合う。
あのリジェネが。リジェネが。ティエリアのようにジャボテンダーを抱きしめて歩くようになった。ティエリアの影響なのは言うまでもない。ティエリアと同じIQ180を誇る天才は、やっぱりティエリアのツイン。
今ではデッキにでて、ティエリアとニールと一緒にジャボテンダーに光合成をさせたりしている。
おかしな歌だって一緒に楽しそうに歌うようになってきた。

適応能力が高すぎです、リジェネ。

「ジャボテンダーさんとニールと一緒にティータイムにしよう」
「ニール呼んでくるよ」
リジェネはニールをバカにするけど、その仲が悪いわけではない。

「おいバカの王様!」
リジェネは、ニールの部屋の前で大声をだす。
「バーカバーカ!!」
ジャボテンダーを抱きしめて、ひらすらバカを連呼するリジェネはかわいい。そりゃティエリアと同じ容姿なのだからかわいくいて当たり前なのだが、ティエリアよりもきつい性格の美人であるリジェネの子供じみた姿は、ティエリアと違ったかわいらしさがある。
「バカすぎて脳みそが杏仁豆腐!早く出てこないと、怒るんだから!」
「勝手に怒ってろー」
部屋の中から返答があった。
「いったなこのやろう!いいもん、いいもん。ティエリア独り占めしてやるー」
食堂に戻ろうとするリジェネの手を、ニールが掴む。
「ジャボテンダーアタック!」
リジェネは抱きしめていたジャボテンダーでニールを何度も殴った。
「いててててて、独り占めはするな!俺が悪かった」
ちなみにリジェネにジャボテンダーで殴られると、本当に痛い。ティエリアでさえも痛いのに、加減というものが全くないリジェネの攻撃は凄まじい。
リジェネを引き寄せ、耳元でニールは囁いた。
「愛してるよ」

ボン!

真っ赤になったリジェネ。
「な、な、な、このたらし!スケベ!変態!ロリコン!」
「はははは、真っ赤だぞ。さぁ、ティエリアのところに行こうか」
ニールが心から愛しているのはティエリア。でも、リジェネだって大好きだ。恋人の愛ではないけれど、そう他のガンダムマイスターに対する感情よりはもう少し上の感情を抱いている。
「ニール」
リジェネに「愛してるよ」ていう場面を目撃してしまったティエリア。でも怒らないし、すねたりもしない。
「ずるい!僕だってリジェネのこと愛してる!独り占めはずるい!!」
ちょっと論点がずれている。そこがアホカワイイティエリアの特徴か。
なぜか二人でリジェネの取り合いになった。ニールは冗談半分だったが。

やっと落ちついたのが3時前。約1時間は三人でぎゃーぎゃー騒いでた。


「ティエリアのエプロン姿かわいいな」
「うん、かわいい」
リジェネも頷く。
ジャボテンダーを抱きしめた、ジャボテンダー柄のエプロン。ふりふりではないが。伸びてきた髪はバレッタでとめている。
リジェネはジャボテンダーを抱きしめて、反対の手でティエリアと手を繋いで、そしてティエリアはニールと手を繋いで食堂に向かう。
「らんらんらららら〜〜」
機嫌よく歌を歌いだす。三人でスキップでもしそうな勢いだ。
三人手を繋いで並んで歩くと、流石のトレミーの廊下も狭くかんじる。

「ティータイムです。ニール、リジェネ、ジャボテンダーさん」
食堂につくと、ティエリアが自分でつくったクッキーを二人にあげた。ティエリアの分は別にとってある。
「ありがとな、ティエリア」
ニールはティエリアの頭をなでる。
「ありがとね、ティエリア」
リジェネはニールを突き飛ばして、ティエリアの頭を撫でる。
「リジェネ〜〜〜〜!!」
「あれ、いたんだ。気づかなかったよ」
「えへへー。二人とも大好き!」
ティエリアはジャボテンダーを椅子において、笑顔で二人をぎゅって抱き寄せた。
それに、ニールとリジェネは顔を見合わせて、一時停戦。

「ドリンク入れてくるよ。ティエリアはホワイトメロンソーダね。ニールはメロンソーダね。僕はメロンソーダカルピス・・・・見事にメロンソーダ系ばかりだ」
ティエリアの大好きなドリンクメロンソーダ。一緒にいつもいるニール好きになってしまった。
ティエリアが好きなら、無論リジェネだって大好きなメロンソーダ。

三人そろって、ティータイム。

「あら、まだ食べてなかったの?」
フェルトと刹那が食堂に現れた。時間は3時半。
「今から食べるんだ」
「フェルト、部屋に戻ろう。邪魔をしたな、三人とも」
「またね、刹那、フェルト」
「またね〜」
リジェネとティエリアが手を振っている。
ニールも手を振る。

刹那は、笑いをこらえるので精一杯だった。
「く・・・くくく・・・・あの三人、本当に見ていて笑える」
「刹那、笑っちゃだめよ」

ドリンクの入ったコップは全部で5つ。
リジェネとティエリアはそれぞれ椅子にジャボテンダーをもたせかけてその前にコップを置いている。
行動も同じ二人。思考も同じ位置にたどり着く。
「では。まずはジャボテンダーさんを称える歌を歌いましょう」
「何それ!?」
いつものごとくつっこむニール。
「いや、それよりもジャボテンダーさんをより効率よく光合成させるために、葉緑体を増やすにはどうすればいいかについで議論を交わそう」
「そんなのあり!?」
またつっこむニール。
ひたすらジャボテンダーについて続く。結局本当のティータイムになったのには、ひと段落した5時過ぎになっていた。ニールはつっこみながらも、議論にまじめにまざり、ジャボテンダーを称える歌を一緒に歌っていた。

アホだろ、お前ら。アホだ。ただのアホだ。
IQ180の二人に、頭の悪くないニールもこうなればただのアホ。
三バカトリオだ!

天然アホなのだから、なおしようもない。
ちなみにツッコミ役のニールは忙しい。

ジャボテンダーさんを加えて、三人でやっとティータイム。
楽しい一日は、こうして夕方になっていく。