ロックオンの負け







「はい、起きる」
「うーん」
ティエリアはジャボテンダーさんを抱きしめたまま、うなっている。
眠りを妨げる者に、ティエリアはいつもうーんだとかもう少しだとか、とにかくまだ眠っていたいのだという意思を見せる。
「はい、起きろー。7時だぞー」
目覚ましはない。
ロックオンは体内時計で7時きっかりに起きる。訓練されているのもあるが。
ティエリアは、完全に目覚ましがないと起きれない。いや、目覚ましがあっても破壊するので、あっても意味はない。

「もう少し、眠い・・・・」

いつもの台詞だ。
甘えるような、少し高めの声。
ロックオンは基本的に、規則正しい生活を推奨しているが、ティエリアといるときはどうしてもそれが100%遂行できるというわけではない。

「お願い・・・」
ティエリアが、石榴の瞳を開いて、毛布にくるまったままロックオンを見上げる。
見上げる、というよりは明らかに視線の使い方を知っている。
そうすれば、自分が他人から見てどのように見えるのか、普段は知らないだろうに、こういうときだけ計算づくで行ってくる。
「う」
「お願い、ロックオン」
潤んだ瞳に見上げられるのは、あまり得意ではない。
ティエリアは、ベッドから半身を起き上がらせて、ロックオンの手をひく。
思いがけない強い力に、油断していたロックオンの姿勢が緩む。
唇に、唇を重ねる。それから、また潤んだ瞳で見上げる。

ジャボテンダーさんを抱きしめて、思い切り子供じみたように。

それが、恋人であるロックオンにどう映っているのか、普段は知らない。でも、こういうときだけちゃんと知っている。
畏怖さえ感じさせる美貌は、とても幼くて、かわいいという一言につきる。
おまけのジャボテンダーさんが、より一層ティエリアを幼く見せている。

「あと30分な」
ロックオンが折れた。
大抵、こいういう行動をとられるとロックオンは折れる。
毎日ではないので、ロックオンも甘やかす。

「好き」

ロックオンの首に手を回してくる。
ロックオンも仕方なくベッドに戻る。

壊滅的にかわいいんだから、本当に。

30分といったが、こうなると昼まで惰眠を貪るティエリア。
それを許してしまうロックオン。
昼間で眠るなんて、規則正しい生活からはかけはなれているが。本人が望むのだから仕方ない。
多分、眠るということがティエリアは大好きなのだろう。
食事と睡眠のどっちが好きかと問うと、必ず睡眠という答えが返ってくる。

ロックオンは、4日ぶりにティエリアに負けた。
緊急時にはティエリアは必ず起きるので、ロックオンも甘やかしている。

ティエリアはとういうと、もう寝ていた。
ロックオンはため息をついて、ベッドに腰かけて、いつものように読みかけの本を開く。
ティエリアが起きるまであと5時間。
ロックオンは一緒に眠ることもあれば、本を読んだり、ネットサーフィンをすることもある。

一人だけ朝食をとりにいくことはない。必ずティエリアと一緒に行動を開始する。
甘やかしすぎだと、周囲の者はいうが、ティエリアが寝坊してそれでスケジュールに支障をきたすようなことはないので、皆黙認している。昼まで惰眠を貪る日は、昼からにスケジュールが入っているときのみ。ロックオンだって、ちゃんとそこらへんはわきまえている。

「あーもう。俺のお姫様は眠り姫だなぁ」
本を閉じて、ロックオンは眠ってしまったティエリアの頭をなでると、同じように惰眠を貪るためにベッドに横になって、ティエリアを抱き寄せるのであった。