血と聖水U「エターナル、襲来」







その日の夜は、ティエリアはリジェネと一緒のベッドで寝た。
ロックオンは一緒に寝たそうにしていたが、リジェネが警戒しまくって、それにいつもティエリアと一緒に寝ているのだからと、ティエリアを独り占めしてしまったのだ。
ブラドはフェンリルの寝床で、一緒に眠っている。
夕飯時にはブラドはフェンリルをからかって遊んでいたが、いくら魔の白梟とはいえ、精霊を食べることなんてできない。実体化しているとはいえ、あくまで精霊は精霊。精霊種族として、人の形をつくっている種族もいるが、あくまで精霊は世界に満ちている因子の一つ。自然界の上位存在である。

「さて。昨日は聞けなかったけど、ロックオンは帝国出身なんだってね。今回のターゲットは、帝国で、400年ほど前に皇帝の暗殺を企み、唯一処刑されなかった先代皇帝血族の皇子の末裔で名はアズリエルという。エターナルヴァンパイアだ。ヴァンパイアマスターだろう」
「アズリエル・・・・名は聞いたことはある」
「どんな奴だ?」
「ロックオン、知っているのですか?」
「まぁ、俺も帝国出身だからなぁ。帝国から出た時点で貴族、王族、皇族以外はただのヴァンパイアに落ちぶれる。アズリエルは、先代皇帝血族の皇子の末裔じゃない。皇子そのものだ」
「なんだって」
「それは本当なの?」
「千年前には有名な皇子だった。次の皇帝となるのはアズリエルだと」
「へぇ。それで選挙で選ばれなくって、皇帝を逆恨みして暗殺計画を企んだってわけ。でも、何故処刑されなかったんだろうね?」
リジェネが首を傾げる。
「それは・・・・2千年生きたエターナルは知っているだろう」
「ああ、皇帝の摂政として長いこと歴代の皇帝を補佐してきて女性ですね」
「そう。今の皇帝は彼女の曾孫にあたる。彼女の名はジブリエル。アズリエルは、ジブリエルの恋人だ」
「はぁ?」
リジェネが間抜けな声をだす。
「何、アズリエルはジブリエルってばあさんの恋人?」
「ばあさんってのは不正解だ。俺たちヴァンパイアは不老だ。不死ではないが、不老ではある。若い姿のまま、寿命を迎える」
「では・・・摂政である彼女が、裏から糸をひいて、彼の命を救ったと」
「そうなるだろうな。暗殺計画も未遂であったし、アズリエルは現皇帝の忠実なる家臣でもあった。そのせいで減刑され、流刑となった」
「流刑・・・・魔の島か」
そこは、帝国領土内でありながら、皇帝の力も及ばないことがある未開の地。
そこでは力だけが全て。力のあるヴァンパイアが他のヴァンパイアを支配する。

「はぁ。なんかめんどくさくなってきたけど、まぁ皇族のエターナルにはかわりないわけだ」
「皇族かぁ・・・・」
「ロックオン?」
「いや、なんでもない」
三人は荷物をまとめて、アズリエル討伐に出た。アズリエルが出現するという城に出向く。
フェンリルとそして何故か一緒に行動している白梟のブラドも一緒だった。

古びた城はよく手入れが施されていた。
「へぇ・・・けっこうなお住まいで」
リジェネは、ベルトの内側からビームサーベルの柄を取り出す。光が瞬く。イノベイターたちにのみ与えられた、対ヴァンパイア用の武器、ビームサーベル。
リジェネのビームサーベルの光は蒼である。
それを構える。
ティエリアはホルダーから銀の銃を2対取り出して、弾丸を装填し、セイフティーロックを解除して、構える。
ロックオンは、フェンリルの首根っこを掴みあげて、構えた。

おい、武器フェンリルかよ!
二人ともそう思ったが、つっこまない。

濃厚な血の匂いが充満してきたからだ。ヴァンパイアの気配がする。
長年ハンターをしているせいで、血の匂いには敏感だ。

「いるな」
「いる」
「何匹だ?」
「ざっと・・・15匹」
「多いな」
「1匹は某に任せてくれ。某もヴァンパイアハンター」
「分かった。ブラド、無理はしないように」

「散れ!」

ティエリアの号令で、皆四散した。

カカカカッ!
ティエリアのいた床に、血でぬれた短剣が突き刺さる。
「ティエリア!」
「平気だ!まずはザコから片付け・・・・っぐは」
ティエリアは、血を吐いた。
背後から、腕がティエリアの体を貫いていた。

そのまま、ボロ雑巾のようにティエリアの体は床に叩きつけられる。

窓から入ってくる月明かりに伸びる、真紅ではない純白の翼。天使のようなものではなく、他のヴァンパイアたちと同じ皮膜翼だ。白い翼は、エターナルの証。

「ヴァンパイアハンター・・・・に、ヴァンパイアか」
アズリエルは、真紅に染まった血を舐めとって、綺麗な青い瞳を煌かせた。



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