血と聖水U「或いは小さな奇跡」







「代価を払った?ティエリア!」
「はい」
「消えないでくれ!」
ぎゅっと、ロックオンはティエリアを抱きしめる。ロックオンの腕の中で、ティエリアは微笑む。
ティエリアの命が、存在が消えてしまうことを恐れてロックオンは震えていた。
ティエリアは背伸びして、優しくロックオンの頭を撫でる。
「代価は払いました。僕の、ヴァンパイアとしての存在。それでいいと、ライフエルが」
「にゃああああ。主ーー!!」
フェンリルが、ティエリアの腕の中に飛び込んでくる。
「我が君!」
白梟ブラドが、ロックオンの肩に止まる。
二匹とも泣いていた。

刹那が眩しい太陽を仰ぐ。
「知っているか。いつも唱える、血と聖水の名においての台詞には続きがあるんだ。血と聖水と太陽神ライフエルの名において、アーメン。廃れた精霊神信仰は、太陽神信仰と一緒になった。もともと、存在は一緒だからな」
「太陽神、ライフエル。れっきとした、創造神の一つだよ。精霊神でもあるけれど。精霊であるが故に召還できる。とても気まぐれで、どんなに魔力をもっていても召還に応じてくれないんだ。契約、そうだね、真の皇帝であった者にならできるだろうね。だって、その存在はヴァンパイアの神なんだから」
「もう、その力はない。ヴァンパイアの神であったのは、遠い昔のことだ」

「でも、ライフエルは答えてくれた」

ティエリアは、ロックオンにキスをして、自分が払った代償と一緒に説明をする。
「あなたが、皇帝ネイであった時代はあなたはヴァンパイアの神であった。だから、ライフエルはあなたの力と引き換えに、願いをかなえてくれた。そしてその力を失ったあなたはロックオン・ストラトスとなって、記憶も力も失ってただの狂ったヴァンパイアとなり、吸血を繰り返して、そして自我を持つ。それが、新しいロックオン、あなたの始まり。あなたは僕と出会って、僕を血族にした。ライフエルは、僕からその血族としての力を奪った。それが、ライフエルが望んだ代価。愛を知ったあなたに、これ以上強いる犠牲はないと言っていた。僕は消えることはない。ヴァンパイアではなくなって、ただの人間になってしまったけれど。ロックオン、あなたなら僕を」
ティエリアの首筋に牙をたてて、ロックオンは笑う。
「もう一度、血を吸って血を与えて、血族にする。マスターは俺だ。お前は、俺だけのものだ」
「あなたの願うままに。愛しています」
ロックオンは、ティエリアの血を吸う。
そして、自分の血と混ぜて、それをティエリアに分け与えた。ティエリアは、再びロックオンの血族、ヴァンパイアとなった。

眩しい太陽が皆を照らす。
「にゃあ、主眠いにゃ」
「ほっとして某も」
「俺も眠い」
「僕も」
みんな、ずるずるとその場で眠りこけてしまった。

二人きりになったティエリアとロックオンは、手を繋いで少しだけ散歩する。
「ティエリア、食べていい?すごい食べたい」
服の下にごそごそと手をもぐりこませてくるロックオンから、ティエリアは紅くなって身を捩る。
「ダメです!家に戻ってから!」

ロックオンはにっと笑うと、ペガサスを召還する。その背にティエリアを横抱きにして乗せる。
「みんなは!?」
「置いてく!」
「ロックオン!!」
「ティエリアがいったんだぞ。家ならいいって。今すぐ家に戻る!!」
「もー!!」
ティエリアは真っ赤になりながら、ロックオンの胸に顔を埋めた。

協会には後日出向き、アズリエルの灰を提出した。でも、ティエリアは未だに三つ星。ティエリアは、協会にもロックオンを連れて行くようになった。
いつでも一緒。ヴァンパイア退治の時だって、一緒に力を合わせて倒す。眠るときも食べるときも一緒。
傍から離れない。

かつて、皇帝ネイは孤独だった。生まれながらの真の皇帝でありながら。神として恐れられた。
そこに光がさす。最初の光はブラドという家臣だった。
それから、ジブリエルという女性が現れる。天使ジブリールの名のように慈悲深く愛に満ちた彼女は孤独な皇帝ネイを愛した。そして、二人の間にはソランという子供が生まれる。二人の家庭には、ジブリエルの弟リジェリエルもよく遊びにきた。
やがて、皆崩御する。
皇帝ネイは願った。ジブリエルとの再会を。もう一度出会い、愛し合うことを。ソランとリジェネも、この世界にもう一度生きて欲しいと。自分のせいで、命を落としていった彼らに。
太陽神ライフエルは、彼の願いを叶える。
かわりに、皇帝ネイは力と記憶を失い、狂って南の王国を滅ぼした。水銀から生まれたネイ。水銀によって、南のみっつの王国は滅びた。それから千年生きた。たくさんの血をすった。ロードとなり、やがてマスターとなる。
気づけば、ロックオン・ストラトスと名乗っていた。
記憶はないまま、出合ったティエリアという無性の少女に惹かれ、恋をして手を出して自分の物にした。ティエリアは、マスターであること関係なしにロックオンを愛した。
皇帝ネイは、再び愛する人と出会い愛し合った。

「ジブリエル。いつかそなたとまた出会い、愛する」
「ネイ。私もあなたと出会い、あなたを愛します」

皇帝ネイとジブリエルの長い長い物語は、ロックオンとティエリアの出会いでまた始まる。
愛を、もう一度。
何度でも何度でも、愛し合う。

太陽が、優しく地上を照らす。
ロックオンとティエリアを。
今日も、二人はヴァンパイアハンターとそのマスターでありパートナーとして世界を生きて廻る。

再び出会い愛し合うこと。それは、或いは小さな奇跡。


               血と聖水U The End
                                      Presented By Masaya Touha

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前回が簡単な物語だったのに比べて、今回はなんか転生?っぽいかんじがはいったり。
パロでも同じような展開かい!!!
ヴァンパイアの帝国とか、「トリニティ・ブラッド」がちょっと設定で入ってますね。
せいぜい、帝国くらいだけど。
何の小説が好き?ってアンケートをぼーっと見ているうちに、「吸血鬼ファンタジーもの」に10票も票が入っていたのでちょっと書いてみた。普通に、マスタークラスを退治する、ってお話のつもりだったんですけど。
不思議ですね。書いていくうちに物語がかわっていく。
矛盾している部分も多いんですけれど。
もともとこのシリーズともう一つ完結している吸血鬼ファンタジーがありまして。まぁ吸血鬼ファンタジー、意外に人気あるなぁと続編の書けるこっちを書いたのですけれど。
まぁ昔の作品読んでみて、自分で「へぇ。こんなの書いたんだ」って、書いた気がしないです。
何度か読んだ小説を、第三者が読んでいる気分ですね。「それは神の子ではなく」を書いていた時はリジェネあんまり好きじゃなかったので、なんというかティエリアラブだけど今とかなり性格が違う。
今のリジェネはティエリアラブアホ。
ドイツ語で夜はナハト。ネイってなんかで夜を意味をしたような。文字のつづりをいじってニールとか、Nしかあってないんじゃないのかとか思いますけど深いツッコミは自分でもしない。このシリーズはとにかくティエリア、ロックオン、刹那、リジェネ・・・他。
アレルヤいないじゃんか!と思いつつも。
青春白書では、逆にリジェネが名前だけで登場しませんでした。パロはいろいろあるなぁ。
吸血鬼ファンタジーもの、完全パロとして暇つぶしにでもなったら幸いです。
ギャグっぽいかんじも少ないし。なんともいえない作品だ。
でもファンタジーものはファンタジーっぽくって雰囲気出すのはちょっと書き方かえたりとか。普段のシリアスよりえーとってない脳みそひねってる自分がいる。
感想とか一言くれたらかなり喜びます。
今週の月曜にシリアス長編書いて、火曜短編、二日あいて金曜にはパロ長編か。昔みたいにはいきませんが、執筆の勢いは他のサイトに比べたらかなり頻度高いかなぁ。
長編を1日で完結させてのっけるからですね。連載にしようかとも思うのですが、いっきに書くとせいぜい小出しで二日か三日に分けることしかできない。
今回は分けようか、と思ったのですがまぁいつもきてくださってる、新作を待ってくださってる方のためにそのまま最後までのっけて終わります。
こんなんだから、更新のネタに苦労するんだよ!長編1話ずつ連載すれば、かなりもつのにな!
でもそれすると執筆頻度落ちるし、何よりもきてくださってる方に申し訳ない気もするし、新作を書こうって気分がそがれていく。OORPGUを連載にして、あー小出しは無理だなぁと思いました。いい加減最後ののってないとな。まぁ本日〜週末はこれで我慢してください(土下座)