血と聖水W「危うしロックオン」







女官たちにかしずかれ、ロックオンは薔薇風呂に入れられて、化粧を施され、急遽あつらえたドレスではなく、王としての衣装をまとった。
化粧といっても、男性用のもので、完成したロックオンにティエリアは顔を赤らめた。
「かっこいい・・・・反則」
これなら、精霊王といっても通じるだろう。
ネイはもともと、血の帝国の真なる皇帝、気高き者なのだ。いつもはちゃらついた優男だが、纏う衣服と雰囲気をかえれば、懐かしい血の帝国のネイそのもの。

同じく薔薇風呂に入れられたティエリアに、本当に輿入れする予定のジルフェルは、それぞれ化粧を、これは中性用のものが用いられ、衣服もドレスではなく中性的な衣服を着させられた。
ジルフェルの纏う衣服の豪華さは、それでもジルフェルの王としての美しさを少しも失わせてはいない。
同じように飾り立てられたティエリアであるが、どちからというと少女のような印象をもつ。
ジルフェルは、少女のような顔立ちをしていながら、佇まいも中性的な服を着ていても、男性の王としての威厳と気品が溢れていた。
「なんか場違いのところにいるかんじ」
「ティエリア、美人美人」
にへらとロックオンが笑う。
ちゃらついてしまうのは、ロックオンの癖なのだろうか。前世のジブリエルの記憶では、ネイはもっとちゃんとした皇帝だったのだが。まぁ言ったところで変わらないのだから仕方ない。

家臣が客室の扉をのっくする。
「述べよ」
「イフリエル様がお見えになられました」
「通すな」
「え、通すな!?ここって通せじゃないの普通!?」
家臣は混乱している。
絶対的な王としての言葉。重圧感がある。精霊王の言葉には。

「クリスタルの間にいく。そこに通すな」
「え、また通すな!?ジルフェルさま、もうご覚悟なさってくださいまし」
「ち・・・・」

入れ違いで、ジルフェルの兄が現れた。
「よう、妾腹のできそこない。お前が嫁げば、王位は俺のものだ」
ジルフェルはオッドアイの瞳で数度瞬いた後、護身用の短剣を取り出して実の兄の喉笛を浅く切り裂いた。
「覚えておけ。お前が精霊王になることはない。ジルフェの精霊王は俺だ」
「ち!」
溢れた血を手でおさえて、ジルフェルの兄は逃げていく。
「かっこいい・・・・」
ティエリアは、生まれながらの王者というものをジルフェルから感じた。
「十分に王だろ、お前は」
ロックオンが、宝石で飾られたクラウンをジルフェルの頭にのせた。
「一つの精霊種族に王はただ一人。二人もいらない。兄は邪魔だ、俺が自分で殺す」

やがて、三人はクリスタルの間に移動した。
中央にロックオンを立たせ、ティエリアとジルフェルはクリスタルの巨大な水晶の影に隠れている。

「イフリエル様のお出ででございます」
「ジルフェルよ散々じらしてくれたな。お前を正妃として首都に迎え入れる」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「あれ、ジルフェル背が高くなったか?随分と逞しくなったなぁ。あれ、なんか精霊じゃないな?お前は・・・誰でもいいやvVV。すっごい好み」
「あ”?」
ロックオンは瞳を真紅にかえて、白い翼を広げる。
「へぇ、エターナルヴァンパイア。いいね、いいね、最高萌えるよ燃えるよ」
イフリエルはロックオンを拉致して帰ってしまった。

「ちょ、どういうこと!?」
「いや、俺もまさかこんな展開になるとは」
「ロックオンの貞操が危ない!今すぐ助けにいくよ、ロックオン!!」
ティエリアは、フェンリルを起こして、それからジルフェルと一緒にイフリールの国へと飛び出していった。


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