プチパラレル。15〜18禁注意。ロクティエ ----------------------------------- ティエリアは、不安が募って具合が悪くなった時にたまに服用していた精神安定剤のシートをゴミ箱に捨てた。 こんなものにいつまでも頼っていては、強くなれない。 それに、刹那、アレルヤの帰還、そして新しいライル・ディランディとの出会いが、彼を強くしていた。 年月をたつごとに、ロックオンのことだけを追っていた自分の姿が、いつの間にか涙を零す回数が減り、やがて彼のことを思い出しても涙を流すことなく平静でいられるようになっていた。 一人でロックオンのことを思い出しても、涙を流すことは少しづつ少なくなっていた。 彼は、今も自分と一緒に生き続けているのだ。 自分はもう一人じゃない。刹那もアレルヤも、ライルもいる。 はじめは、他のガンダムマイスターが行方不明のせいもあり、精神的に不安定な日々を過ごしていた。 刹那とアレルヤの帰還で、ティエリアはまた人間として成長した。心の脆弱な部分が、まるで彼に守られているように、少しづつではあるが磨かれた硝子の脆さから強度な宝石のような強さへと変わっていく。 確かに、はじめてライルと会った時はとまどい、そして彼と同じ姿をしているのに、彼ではないその哀しさから、それまで飲むこともなくなっていた精神安定剤を服用することもあった。 けれど、ライルとも打ち解け、ティエリアはロックオンの死を再び乗り越えた。 仲間たちに支えられている今、精神安定剤など無用のものだった。たとえ、これからどんなに辛いことが起ころうとも、自分だけの力で立ち直ってみせると、ティエリアはロックオンの手袋を握り締めながら、まるで彼に誓うかのように強い決意をした。 リジェネ・レジェッタとリボンズ・アルマークとの再開は、ティエリアにとって試練であった。 ヴェーダとの強制的なアクセスで与えられた、自分の真実に、ティエリアは打ちのめされた。けれど、それでも折れなかった。 イオリアの人形として生きているのかという疑問に駆られながらも、彼を愛したことはまやかしでも何もないし、彼を愛したことでティエリアは人間になれた。そして、彼もまたティエリアを愛してくれた。リジェネやリボンズ、他のイノベーターたちよりも何億倍も幸せなのだ、ティエリアは。 彼に包まれた愛を忘れることなく、彼を愛し続ける。彼を愛したことを誇りに思い、そして人間として生きる自分に喜びさえ感じる。 リボンズに、半ば喧嘩を振り掛けるような形で口にした言葉は全て真実であり、ティエリアはロックオンを愛し続ける。 失ってしまった人は、僕の心に生きている。目を瞑ると、いつだって彼の微笑みと穏やかな声に包まれる。 例えそれが異常な執着心であったとしても、ティエリアは構わなかった。 何故なら、ティエリア・アーデという人間を愛してくれたのはロックオンだけだったから。 心を開き、彼の愛を受け入れ、そしてティエリアもまた彼を愛した。 あの人が、家族の仇のために命を散らせてしまったこと、自分を置き去りにしてしまったことに、最初は酷い人だとも思った。 一緒に生きると約束したのに、自分だけ先に逝ってしまうなんて。僕を置き去りにしてしまうなんて。 そしてティエリアは強く彼の元に逝くこと願った。けれどそれは叶わず、生き続ける自分に後ろめたさを覚えた。 けれど、思う。 ロックオンにとって、家族の仇をうつことは命よりも重大なことだったのだ。 彼にだって、優先順位がある。 ティエリアと生きることより、彼は家族の仇を討ち、そして散る道を選んだ。きっと、それは正しいのだろう。ロックオンが選んだ道なのだから。 「ロックオン。あなたのために、僕はあなたと、そしてあなたの家族の仇を討ってみせる」 トレミーの窓から見える深海の景色に、その深い紺色に染め上げられながら、ティエリアはよくロックオンと立ち話をしていた位置に立った。 「アリーを、必ず仕留めてみせる。それまで、少しの間待っていてください」 自分の目の前に、透き通ったロックオンが立っているように見えた。そして、頼むなと、ティエリアを胸にかき抱いて消えた。 幻でも、それでも良かった。 ロックオンの姿を見れたから。 彼は、時折神様の悪戯か何かのように現れる。 それは、刹那とアレルヤがソレスタルビーイングに復帰し、ライルが加わわり、彼とうち解けることができた数日後からはじまった。 ライルという、誰よりもロックオンに近い魂の存在が、今まで見ることのできなかったロックオンの姿を目にすることを許してくれているようであった。 ティエリアが見る彼の姿はいつも透き通っており、言葉を交わすこともできない。それはほんの一瞬であることが多かったが、ティエリアは、ロックオンの魂は、いつも自分の傍でひっそりと自分を守ってくれているのだと核心した。 4年間の間には見ることのできかったロックオンの一瞬の幻影に、ティエリアのいつでもどこかで折れそうだった心が、しっかりとしたものになっていくのを感じていた。 女装し、アロウズの高官たちが集うパーティーに出席した時も、彼は不意打ちのように現れた。 彼は、自分を置いて死んだのではない。触れ合えないけれど、今も僕の中で、そして僕の傍で生きている。 「ティエリア」 ふいに、背後から抱きしめられた。 彼とは触れ合えない。なれば、彼の声を持っているのはライルしかいない。 「ライ……ル?」 「わりぃ。ちょっと、あいつの身体借りちまった」 「ロックオン?」 ティエリアの声が上ずった。こんなこと、今まで一度だってなかったのだ。 ロックオンにそんな力があるとは思えなかった。 向き直ると、確かにライルだった。けれど、そこに宿る表情も全てロックオンのものだ。 愛しい人が、一番近い双子の弟の身体をかりて仮初の間蘇っている。 ティエリアは、禁忌であると知りながら、ライルの身体に抱きついた。 「愛しています。今も、昔も、そしてこれからもずっと、あなただけを」 「俺もだよ、ティエリア。ずっと一人にしてごめんな。どうしても、お前の身体に触れたかった。だから、神様を脅してライルの肉体を少しの間借りちまった」 「つかの間の間でもいい。あなたと会話できるなんて夢のようだ。僕の瞳に時折映るあなたの体はいつも透けていました。言葉をかける暇もなくかき消えた」 「だから、さ。ちゃんと、話できるような形にしたんだ」 ロックオンの体がライルだと分かっていても、禁忌を犯すことになると分かっていても、二人は互いを抱きしめあい唇を深く重ねる。 舌と舌がからまる。 「ロックオン・・・ああっ!」 仰け反る白い細い肢体。 自分のものだという証をいくつも残していく。 再び唇はを重ねる。 「はう・・・・ん」 「感じているのか?かわいい」 「ロックオン、大好きです」 「ティエリア」 ベストの中に手をいれられ、直接胸を触られた。 ロックオンが、言葉を紡ぎ続けるティエリアの唇を自分の唇で塞いだ。 「ん、ん……」 思いの他深い口付けに、ティエリアがロックオンの背中に手を回す。 「んあっ」 首筋を強く吸われて、痕を残された。 ロックオンが生身の時代にキスは何度も受けた。所有の証のような刻印も刻まれた。今日は、一段とロックオンがティエリアを求めた。 こんな形であれ、つかの間現世に戻られたのだ。愛しいティエリアを愛したい。 ライルの身体を借りたロックオンが、焦るようにティエリアの衣服の中にまた手を忍ばせ、滑らかなティエリアの身体のラインを確認するように、そっとわき腹を撫で上げた。 その感触に身震いしながらも、ティエリアがロックオンの手をおさえた。 「だめです。ロックオン、これ以上はだめです。あなたが本気で僕を手に入れようとしたら、僕は拒めない」 「ティエリア?」 「僕は・・・・だって、ライルや刹那ともキスしている」 「知ってる。いいんだ、ティエリア」 服を脱がされた。 触れる体温の寒さに身震いする。 そのまま、ロックオンはティエリアを抱きかかえると、ティエリアの部屋に入った。 どさりと、二人の体重でベッドが軋む。 ロックオンも上の服を脱いだ。そして、唇を重ねると、僅かに膨らんだティエリアの胸をもみしだき、先端の赤い部分をキュっと摘む。 「ロックオン。怖いです。僕が、溶けてしまう」 「ああっ」 胸の先端をいじられて、ティエリアが喘いだ。 白い体がシーツを泳ぐ。 無垢なティエリアの白い雪のような肌が、少しづつピンクに染まっていく。 「ふわっ」 胸に、唇がすべる。 決して豊満とはいえない、むしろツルペタな胸を愛撫する。 そのまま、二人は肌を重ねあった。 ライルの体であったが、もう迷いはなった。 肩甲骨に口付け、綺麗な背骨のラインにそって口を這わせる。 何度もキスをして、抱きしめあう。 ティエリアはロックオンに組み敷かれたまま、じっと大人しくいていた。怖かったが、もう迷いはなかった。 一つに溶けあっていく体。 「あああああ、ロックオン、ロックオン」 体の奥に熱い楔を打ち込まれて、熱に浮かされたかのように名前を繰り返す。 快楽はそこにはない。ただ、痛みと熱が駆け抜けていく感触だけがした。 「ああ、いやっ、あ、あ、ああああああ」 僕が、壊れていく。 溶けて、壊れていく。 そのまま、二人は一つになって溶けた。 --------------------------------------------------------- 互いにシャワーを使って、行為の跡を消し去るように清めた。 ベッドに座ったティエリアは、ロックオンを見上げる。 「ロックオン」 思い切り抱きしめられて、ティエリアが声をあげてしまった。熱い抱擁に、ティエリアが耐えかねず、ロックオンを抱き返す。 「ごめんな。ティエリアは無性なのに、女性化が進んでしまった。このまま女の子になっちゃうのかな?」 愛撫の手をとめて、真剣にティエリアをみる。 「いいえ。多分、そうなることはないと思います。女性化が戻らないだけで、性別が現れることはないと思います。こんな僕を気味悪いと思いますか?」 「どうしてだ?」 ロックオンがティエリアの瞳を見つめる。そのエメラルドの強い輝きに、ティエリアの石榴の瞳がうつっていた。 「だって。あなただって、愛する相手が女性のほうがいいに決まっている。なのに、僕は女性化が進んでも、女性にはなれない。中途半端な中性体として生きるしかない」 「ティエリアは、ティエリアだろう。俺は、ティエリアが無性だから愛したんじゃないぜ。それに、ティエリアは男性の自我を持っているだろう?それでも、俺はティエリアを愛した。愛さずにいられなかった」 「ロックオン」 「自分を責めないでくれ。おれはただお前が愛しいんだ。おれの方こそ、責められるべきだ。お前を残して、俺は勝手に死んじまった」 「それは、言わないで。あなたが選んだ道を、僕が非難する権利はありません。確かに、最初はなんて残酷な人だと思いました。でも、あなたはいつも僕の傍にいてくれる。本当なら天国にいって、新たな命を受けているはずなのに、あなたは僕の傍にいてくれる。たとえ触れ合うことができなくても、時折見えるあなたの姿を、イノベーターという特殊な能力で見ることができて、僕はあなたと生きているんだと実感できるんです。心の中にだけ生きているんじゃない、あなたは僕の傍でいつも僕を見守っていてくれると思うと、それだけで僕は」 石榴の瞳が潤みだす。 そして、透明な涙を流した。 「あなたが、好きなんです。あなたを愛しているんです。ごめんなさい」 「どうして謝る?」 「だって、僕はこんなにもあなたに固執している。あなたが愛してくれたから、僕は生きていられる」 「ティエリア」 女性化が進んでいるのは、どうも肉体的なことだけでなく、精神面でも進んでいるようだった。 涙を零して、縋りつくようにロックオンの身体に身を埋めたティエリアの紫紺の髪を、ロックオンは撫でた。 ロックオンが知るティエリアは、もっと強かった。それを、こんなに弱い存在にしてしまったのは、ロックオン意外の何者でもない。 「愛してるよ、ティエリア。お前だけを。天国にいかずに傍にいるくらいに、俺だってお前に固執している」 「ロックオ……」 再び唇を塞がれて、ティエリアはロックオンのなすままに身体を預けた。 「本当は、ずっと傍にいてやりたいんだけどな。いっそのこと、ライルの身体を自分のものにして蘇りたいけれど、それはできない。ライルには、ライルの人生がある」 「はい」 もうすぐお別れなんだとティエリアは悟って、声を落とした。 「あーもう、そんな顔すんなって!まじでまた襲っちまうぞこら」 「あなたになら、僕は何をされても構わない」 「ティーエーリーアー。いいか、他の男にも女にも絶対にそんなこと言うんじゃないぞ!」 ロックオンが頭をがしがしとかいた。 目の前の絶世の美貌は、自分が放つ言葉の効果を知らなさ過ぎる。 もしも、他の誰でもいい、誰かにこんな言葉を冗談だとしても言ったとしたら、きっと無理やりにでも関係を求められるはずだ。 「あなたにだけです。あなただけを愛してるから」 ふるふると、ティエリアが首を振った。 濃紺の髪が、サラサラと音をたてて首の動きにあわせて揺れる。 ティエリアの石榴の瞳が、金色に輝きだした。 「愛しています、ロックオン」 背伸びして、ティエリアは自分からロックオンに口付けた。 その行動さえもかわいくそして愛しくて、ロックオンはこのままティエリアを連れ去りたい衝動に駆られた。 ライルの身体を支配したまま、ティエリアを連れ去って、二人だけで静かな時間を過ごしたい。けれど、それは禁忌だ。ロックオンは4年以上も前に死んだ存在であり、一時的にライルの身体を借りているにすぎないのだ。 それに、家族思いのロックオンにはライルの身体を借りることさえも胸が痛かった。ライルにはライルの生き方があるのだ。ライルの邪魔をしてはいけない。 「そろそろお別れだ」 「また、会えますよね?」 「ああ。いつだって、俺はお前の傍にいるんだから。悪いけど、どうにも透明な身体じゃ不自由だ。また、ライルの身体を借りることになりそうだ。ごめんな、ライル」 すうっと、ロックオンの意識がライルの身体から遠ざかっていくのをティエリアは感じていた。 「愛しています。がむしゃらなまでに、人間として生きて、そしてあなたを愛し続けます」 その声は、もうロックオンには届いていなかった。 ティエリアは、金色の瞳を数度瞬かせたが、涙は零さなかった。 きっと、また会える。 夢の中でだっていい。また、会えるから。 「あーあーあー。ほんっと、兄貴ってば自分勝手すぎ」 「ライル?」 ロックオンの気配をなくし、通常に戻ったライルとティエリアは距離を取った。そして、不思議そうに彼の顔を覗きこむ。 「大丈夫ですか?その、立ちくらみとかは?」 「ティエリア・アーデ!!」 「はい?」 「俺、決めた。また、兄貴に身体かすわ。会いたくなったら、いつでも言ってくれ」 「え?」 ライルが、状況をのみこめないティエリアの頭をぐりぐりと撫でた。 「あーもうなんでこんなにかわいいのー。恋した相手が、兄貴でほんとに良かったな」 「ライル?」 普段なら威嚇行動と共に手を振り払っているところだったが、ロックオンの余韻が続いているのか、ティエリアはロックオンにだけ見せる顔でライルと呼んだ。 「あーもうそのかわいさ反則だぜ。兄貴がな、俺の身体かりてごめんって言ってるんだけど、だったら最初から借りるなつーのな」 「どうしたんですか、ライル。大丈夫ですか?」 「大丈夫なわけねーだろー」 ぐいっと、ティエリアの顎を掴んだ。 ティエリアの金色の瞳が、石榴の色に戻っていく。 ライルにどう接すればいいのか分からなくて、ティエリアは怯えた子兎のようにライルの様子を伺うばかりだ。 ライルが、不意にティエリアの掴んだ顎をそのままに、自分のほうに引き寄せ、唇を重ねた。 「!!」 されるままになっていたティエリアであったが、すぐに身を捩って逃げようとする。 「やっ!」 「俺のキスは、嫌か、ティエリア?やっぱり、ライルの肉体じゃいやか?」 「え…ロックオン?どうして……」 さっき消えたはずのロックオンが、再びライルの肉体に宿っているのを確認して、ティエリアは混乱した。 「双子の兄弟揃って、神様脅しました。神様泣いてました。ライルの肉体に、俺の精神が半ば寄生する形になちまった…ってライルまじでごめん」 しくしくと泣き出すロックオンに、ティエリアが警戒の色をだす。 これは、ライルの一人芝居ではないのだろうか? 「つーまーりーだーな!」 泣いていたはずのライルが、ばっと顔をあげて、ティエリアの腰に手を回した。 「何をする、離せ!」 「うわ、まじで腰くびれてる。これで女じゃないなんて、本当に反則だよな。無性の中性体かー」 「離せっ」 「おい、ちょっと胸膨らんでないか?気のせいか?」 「やだっ」 身体をまさぐられて、ティエリアが悲鳴をあげた。 恐怖に震え上がる。 「いやっ」 涙を零して嫌がるティエリアに、ライルがティエリアの身体の無性というものがどういうものかと、ただ確認しようとしていただけだったのだが、相手のあまりの嫌がりようと、恐怖に震える瞳に、すぐにティエリアを解放した。 そして、そっと抱きしめる。 「悪かった。俺が悪かった。ごめんな。ただ、女性化していく無性ってものがどんなのか知りたかったんだ」 「僕は、玩具じゃない。ひっく」 ロックオンと会えたせいもあり、ティエリアの精神は脆くなっていた。 しゃくりあげるティエリアの背をさすって、ライルがロックオンと交代した。 「ごめんな、ティエリア。ライルのこと、許してやってくれ。俺の意思がある間、ライルの意識は眠ってなくって、俺と一緒に意思を保ってるんだ」 「ロックオンの真似をしないでくれ」 ティエリアが、ロックオンの精神を宿したライルの足を踏みつけた。 「あいてて。俺はライルじゃない、ニールだ」 「??」 「混乱しても仕方ないよな。簡単に説明すると、ライルの身体に俺の魂が宿ったまま抜けなくなっちまったんだ。つまりは、ライルは今は二重人格になっちまったみたいなもんで、ライルはライルでありながら、ニールの魂を宿してるんだ」 「ロックオン?」 「そう、今は俺はロックオンだ。お前を愛した、ロックオン・ストラトスだ」 「僕を騙そうとしているのか、ライル?」 「愛している、ティエリア」 ロックオンの表情と雰囲気で、ロックオンがティエリアを見つめた。 「本当に、ロックオン?」 「そうだ。今度からは、俺の意識がある間はライルには悪いけど、眠ってもらうことにするから、いきなりライルが現れて悪ふざけをすることもない。ライルが、俺に身体を貸すことを了承してくれたんだ。それで、ティエリアが少しもで幸せになるならってさ。ライルは、あいつなりにティエリアのこと心配してるんだぜ?多分、好きなんだろうな。だけど、ライルに渡す気は毛頭ないな、流石に」 「あなたの言っていることを、信じていいのか?」 「俺は嘘は言わないさ。他の仲間がいる間はさすがに表に現れることもできないし、ライルの時間だってある。毎日というわけにはいかないけど週に数回はこうやって会える」 「………」 「ティエリア?」 「愛しています、ロックオン。どうか、僕を放さないで下さい。あなただけを愛しています。あなたがいない世界なんて、僕にはもう絶えられない」 泣きじゃくるティエリアの大粒の涙を、ロックオンは服の裾で拭き取りながら、ティエリアの耳を噛んだ。 「俺だって、愛しているぜ。お前だけを」 深海に潜っていくトレミーの窓際を後に、ティエリアは誘われるままに自分の部屋にロックオンを招き入れた。 そして、ロックオンの手を握ったまま、ベッドに腰掛けると、瞳を閉じた。 「少し、目を瞑っていて下さい。恥ずかしいですから」 「ティエリア?」 「着替えるんです。涙で、服が汚れてしまった」 「そっか。見ててもいいか?」 「……ご自由に」 ティエリアは、無造作にまずブーツを脱いで、次にポレロ、その下の服、最後にズボンと服を脱ぎ捨てていく。ティエリアの肉体の女性化が進んでいるというのは本当のことのようで、昔見た時よりも一段とその身体は女性的なものに見えた。腰のくびれははっきりとしたものになっており、僅かであるが胸が膨らんでいるようにも見える。 それが目の毒でしかなくて、ロックオンは目を瞑った。 ティエリアは、いつもパジャマ代わりに来ている大きなシャツを、クローゼットから取り出して羽織り、ボタンを全てとめた。 「終わりました」 「そのシャツ」 それは、ロックオンの私服だった。それを、ティエリアはパジャマがわりにいつもきているのだ。 無論、それを羽織っているだけなので、下着を身に着けているとはいえ、ぶかぶかなシャツからみえる胸元や、太ももの白さがこれまた目の毒だ。 「お前なー。そんな扇情的な格好するか普通?」 女の子が、彼氏のシャツ一枚でいるようなものだった。 「別に。いつもこの格好で寝ています。この前、この格好の時に警報が鳴って、外に出ましたけど、刹那もアレルヤもライルも普通でしたよ?」 それは、本当は違ったのだ。ティエリアの格好を目にすまいと、競うようにその場から逃げ出したのだ、彼らは。しかも、ティエリアは寝ぼけてフェルトからプレゼントされた熊さんの大きなぬいぐるみを抱えていた。 その愛らしい姿を女性陣の中で一番はじめに発見してフェルトが、ティエリアを自分の部屋に拉致して、一緒に眠った。 朝起きたとき、ティエリアは驚いたが、何度かフェルトの部屋に泊まったことがあったので別段気にもしなかった。 ティエリアが無性の中性体であるということは、ロックオンの他にフェルトも知っていた。 「あれ。ティエリア、その足の爪?」 綺麗に整えられた足の爪には、かわいいネイルアートが施されていた。 それに気づいたティエリアが、真っ赤になった。 「ち、違います!フェルトが、どうしても僕の足の爪にネイルアートがしたいと言って聞かないものだから、彼女の好きにさせただけです!それを、落とすのを忘れていただけです!」 「へー。フェルトとねー」 いつの間にか、ティエリアとフェルトは苦境を乗り越えた仲間同士であるせいか、性別をこえて親しくなっていた。 「彼女が好きなのは、ロックオン、あなたなんですよ。今でも、彼女はあなたのことが好きだと言っていました」 冷たい床から離れて、ベッドに腰掛けるティエリア。ロックオンに半身をもたせかけ、目を瞑る。 「僕だけこんな幸福を味わっているだなんて、フェルトに知られてしまったら、きっと嫌われるでしょうね」 「そんなことはないさ」 「そうですか?僕は……」 それきり、返答はなかった。 泣きつかれて、眠ってしまったのだ。 ロックオンは、ライルに悪いと思いながらも、ティエリアの眠っている顔を見たくて、しばらくの間彼の身体をかり続けた。 ティエリアの肢体をベッドに横たえて、毛布を被せてやる。そして、昔のようにオヤスミのキスを額に落とした。 「おやすみ、ティエリア」 ロックオンは、ティエリアの部屋を見回した。 テーブルの上には、大切そうに置かれたロックオンの手袋があった。それは、ティエリアが墓参してくれた時に、摂理を曲げてティエリアに託したものだ。 部屋のいたるところに、ロックオンの所持品が置かれていた。 ティエリアの手首にされている腕時計も、ロックオンのものであることにその時気づく。 ティエリアの部屋は、まるでロックオンの部屋に私物をもちこんだような有様になっていた。 そして、ロックオンはこんな大切な存在を残して勝手に逝ってしまった自分の行動を後悔した。 けれど、今はライルの肉体を借りることで、またティエリアに触れることができる。 ロックオンは、ティエリアのベッドに腰掛けて、目を瞑った。 自然と、意識が遠くなっていく。 ライルの身体を、流石に彼に返してあげなくてはならない。 そう思いながらも、ロックオンもティエリアと同じように深い眠りについていった。 目覚めた時、ライルの体の支配権はライルにあった。ロックオンは、今は胎児のように丸くなって、ライルの意識の奥で眠っている。 眠るティエリアは、まるで人形のようであった。生きているのかを確認したくて、彼の呼吸の音を確認して、ライルはほっとする。 そして、そっと毛布をめくりあげたライルは、思わず鼻血を吹きそうになっていた。 「なんつーかっこで寝てるんだ!前は下にハーフパンツはいてたぞ!」 ライルが見た、警報が鳴った時のティエリアの姿は、大きなシャツを羽織ってはいたが、その下にハーフパンツをはいていた。 今は、それをはいていない。 白い生足の露出に耐え切れず、ライルは鼻血を出した。 「ったく、ほんとに危機感のないお姫様だなぁ」 中性体とはいえ、女性化が進んでいると知った今、ライルにはティエリアが女性であるとしか思えなかった。 いくら愛した男の精神が宿っているとはいえ、時間が過ぎれば肉体の支配権はライルに戻ってくるのだ。 そのあたりを、今度説き伏せる必要があるなと、ライルはティッシュを片手に眠り続けるティエリアの寝顔を見つめた。 ライルには、ティエリアを手に入れるつもりでいた。たが本物のニールが蘇ってしまったのでは、到底叶わない。 それでも、ティエリアの傍にいられるだけで、ライルは満足だった。 兄が一身に愛した存在を、壊すような真似はしたくなかった。 ライルは、ティエリアのことを好きだと自覚していた。その気持ちは溢れ出しそうだった。 けれど、ティエリアはニールのものなのだ。決して、ライルのものにはならない。 ライルは、それを悲しく思いながらも、ティエリアへの感情を捨てきれずにいる自分を叱咤した。 「おやすみ。兄貴の天使」 ティエリアの額にキスを落として、ライルはティエリアの部屋を後にした。 ------------------------------------- プチパラレル。 昔かいた小説を改稿。 エロシーン追加。15禁なのか18禁なのか分からない。一応最後までしてるからエロい描写はすくなくても18禁かな。 ついにロクティエが体の関係をもってしまった。 ライルの体かりてだけどね!(あ) |