実はすごい音痴









日本の経済特区、東京にある刹那の家でガンダムマイスターたちは新年を祝った。
初詣も終わり、刹那の家に戻る途中だった。
ついでに、みんなでおみくじをしたが、大吉が刹那、凶がアレルヤ、ティエリアとロックオンは大凶だった。
ティエリアもロックオンも並んでくじをびりびりに破りすてると、見なかったことにした。
アレルヤは、「凶だよ、ハレルヤ。僕はやっぱり、ついてないんだね」と独り言を呟いていた。
大吉だった刹那は、とても機嫌が良かった。
大凶になったからといって、ティエリアとロックオンの機嫌はマイナスにはならない。
おみくじは、いわゆる運勢占いの一種だ。
当たることもあれば外れることもある。あてにはならない。

「そうだ、カラオケにでも行こうぜ!」
アレルヤの暗さを少しでも明るくさせようと、ロックオンが提案する。
それに、アレルヤが顔をあげた。
「カラオケかぁ」
「歌うのは、好きです」
ティエリアも、賛成のようだった。
ティエリアは歌姫のような声で綺麗に歌う。
「皆がいくのなら、俺もついていく」

そのまま、帰り道の町で見つけたカラオケ店に四人は入っていった。
「四名様でございますね。お席のほうにご案内いたします。ついてきてください」
店員が、四人をカラオケルームへと案内した。
そこは、わりと広い部屋だった。
東京のカラオケ店は狭い店がおおいと思っていたティエリアには、意外だった。

「よーし、うたうぜええ!」
ロックオンが、ドリンクと食べ物を注文して、早速曲を入力して、腕まくりをする。
英語の曲で、ロックオンは歌った。
なかなに上手であった。
パチパチと拍手をしながら、アレルヤ、刹那、ティエリアはもってこられた食事を食べたり、ドリンクを飲んだりしていた。
ちなみに、ティエリアのドリンクはやっぱりメロンソーダだった。
どうにも、ティエリアはメロンソーダが大好きらしい。
「次は僕が歌うね」
アレルヤが、凶のおみくじをひいた時の暗さはどこへやら、明るく入力された歌を歌う。
それも、英語の曲だった。
アレルヤの英語の発音は変だ。なんいうのか、英語に慣れていない日本人が英語をカタカナのふりで読む発音に似ている。
音程もずれる。相変わらずのおかしな発音に、ロックオンが笑った。
「ははは、アレルヤ、発音が変だぞ」
「アレルヤ・ハプティズム、もっと英会話を身につけるべきだ」
「アレルヤ・ハプティズム、無理に英語の曲を歌わなくてもいい」
三人にそういわれたが、アレルヤは好きなだけ歌えたので満足だった。

マイクが、ティエリアに渡される。
「僕は・・・・」
歌わない。
そう拒否しようかと思ったが、ロックオンにウィンクされた。
歌っちまえ。
実は、ティエリアの歌声が美しいことは、ロックオン以外の刹那もアレルヤもすでに知っていた。
ロックオンのためだけに歌っているが、一人でいる時も歌うことがある。
トレミーは広くて狭い。
一人で美しい歌を歌っていれば、そのうち誰かに気づかれる。
ティエリアの歌声を耳にしたアレルヤと刹那は感動したが、無理に歌ってくれとせがむことはなかった。
ティエリアの歌声は、ロックオンが独占していたのだ。
奪うような真似はしない。

ロックオンが、耳打ちでティエリアの歌がうまいことがアレルヤも刹那も知っていると囁いた。
気づかれていたのかと驚きつつも、気づかれても仕方ないかと、ティエリアはマイクを握り直した。そして、曲を入力する。
見たこともない文字が、画面に現れた。
上にカタカナをふっているが、発音が複雑すぎて、ロックオンもアレルヤも刹那もなかなか読めない。
それを、ティエリアは画面も見ずに歌った。
遥かなる歌姫、オリガの曲だ。
画面に出ている言葉は、ロシア語だった。
「ポール・シュカポーレ」を歌い終わる。
「凄いよティエリア!もっと歌って!」
「もっとききたい」
「アンコールだぞ、ティエリア」
アレルヤと刹那にせがまれて、仕方ないとばかりにティエリアは英語の曲を歌う。
それさえも、画面を見ずに歌う。
本物の歌手でもそうそうはないような、とても綺麗な済んだ声でティエリアは歌った。
そして、そのまませがまれるように、ティエリアばかりが歌うはめになった。
ティエリアは、一度歌い終わると、メロンソーダを口にした。

「僕ばかりに歌わせずに、刹那・F・セイエイ、君も歌え」
「お、刹那も歌うのか。刹那の唄ははじめて聞くな」
「僕も」
刹那が、最近発売された人気の曲を入力した。

いざ、マイクを握り締める。
そして、画面に歌詞が出てくる。
刹那は口を開いて歌った。

ホゲ〜〜。

まるで、ドラえもんのジャイアンのようであった。

ホゲ〜〜〜。

その酷い歌声に、ティエリアは耳を塞いだ。
ロックオンの顔は引きつっている、
アレルヤは、気絶していた。

それに構わず、刹那は熱唱した。

ホゲ〜〜〜。
ホゲ〜〜〜〜〜。

「は、ははははは」
耳を塞ぎながら、ティエリアがかわいた笑い声をあげる。
刹那が、こんな音痴だったなんて。
しかも、ウルトラスーパーダイナマイトに音痴だ。
ここまで音痴な人間を探すほうが、むしろ難しい。
ロックオンも、しまいには耳を塞いで、顔を引きつらせたまま、気絶したアレルヤを心底羨ましそうに見ていた。こんな歌声を聞かずにすめるのなら、気絶したい。

「うむ、われながらなかなか美しい歌声だった」
満足そうに歌い終わって、刹那はマイクを離した。
そして、ティエリアのメロンソーダを勝手にのむ。

「どうした?アレルヤ・ハプティズムは何故気絶している?」
「刹那の歌に感動しすぎて気絶したのさ」
なんとか自然な表情を作って、ロックオンがフォローする。
ティエリアは、刹那の歌声を聞かなかったことにして、かってに飲まれたしまったメロンソーダーの追加を注文した。
「そうか。感動するくらいにやはり俺の唄はすばらしいか。ではもう一曲!」
刹那がマイクを握り締める。

「簡便してくれえええ!」
ロックオンが叫ぶ。
ティエリアが、気絶したアレルヤに往復ビンタをかます。
「君だけ聞かないなんてずるいぞ!起きろおおぉぉぉぉ!!」
何度もビンタされた、赤くなった頬をおさえてアレルヤが気づいた。
「ここは、地獄?」
ある意味地獄だった。

ホゲ〜〜。

刹那の熱唱が、カラオケルームに響く。

「・・・・・・・・・僕は、もうだめだ」
ティエリアが、ロックオンに手を差し伸べた。
「ティエリア!愛している。いくな!」
何気に昼メロのドラマのような展開を繰り広げる二人。
ティエリアは力つき、がっくりとうなだれた。
「ティエリあああぁぁぁ!待ってろ、俺もいくからな!」
そう言って、ロックオンも意識を手放した。

ホゲ〜〜。

「ぎゃあああ、なんだこの声は!アレルヤ、てめぇ、聞きたくないからって俺と交代すんなぁぁぁ!」
アレルヤは、ハレルヤに交代してもらい、眠りについた。
そして、ハレルヤは我慢できずに、窓を開け放つとそこから飛び降りた。
3階であったが、鍛え上げられたアレルヤの肉体は、俊敏に受身をとると、スタっと地面に着地して、立ち上がる。
「付き合ってられるかよ、バーカ!」
かっこよく決めたハレルヤであったが、足がじんじんとしびれて、足をおさえて蹲った。
開け放たれた窓から、刹那の歌声が響く。

ホゲ〜〜。

町を歩く人は、その声を耳すると、何もない道路で躓いた。

ホゲ〜〜。

刹那のジャイアンな歌声は、軽快に東京の空へと吸い込まれていった。