この世界が終わっても







ああ。
誰よりも愛しいライル。
泣かないで。泣かないで。
あなたには、笑顔が一番似合ってるから。誰よりも優しくて、本当は寂しがりやなライル。
愛しているわ。

刹那が純粋なるイノベイターとして目覚めたことによる光を受けて、アニューの魂はすこしだけライルに寄り添うことができた。

「アニュー!?」
ボロボロになったライルの前に、アニューが現れた。
裸で、体は半分すけている。
そう、これは意識体のイノベイドに近い。意識体だけのアニュー。
ラベンダー色の髪を揺らして、アニューは血を流すライルの右目に接吻する。
「お疲れ様、ライル。よく頑張ったわね。偉いわ」
「アニューー!!!」
ライルは涙を流して、アニューを抱きしめようとするが、アニューの体を掴むことも、触れることも叶わなかった。

「アニュー!!愛してる!ずっと、ずっと愛してる!お前を守れなかった!それでも愛してる!!俺は、お前を・・・お前を守れなかった・・・・」
「いいのよ、ライル。もう、いいの」
アニューは、腕を広げてライルを包み込んだ。
ライルは、目を閉じる。
アニューの暖かさが、ライルにも伝わった。

ボロボロのケルディムが、また機体を揺らして小さな爆発を起こす。
「なぁ。このまま、連れてってくれないか」
「ライル。だめよ。あなたは生きるの」
「アニュー!お前のいない世界なんて、嫌だ!!」
「あなたらしくないわよ、ライル。もっと、あなたは自身満々で、不敵だったじゃない。いっつもセクハラまがいの発言してたけど・・・・かっこよかったわ。今もかっこいいわ。あなた、私の自慢の恋人。世界で一番すてき。愛しているわ・・・・・」

刹那の放つ、緑のGN粒子の光がアニューを包み込む。
「ねぇ。私、アイルランドに行きたい。連れて行って」
「ああ。連れて行くよ、アニュー。お前に、俺の故郷を見せるよ」
「嬉しい」
アニューは綺麗に微笑む。
ライルの涙が、弾けてヘルメットの中で耀いていた。
「泣かないで。ライル。ライル」

女神のように両手を広げて、美しいアニューはラベンダー色の髪を宙に広げてライルを今一度抱きしめると、また世界に溶けていく。
「行くな、アニュー!!」
「私、ライルに出会えて幸せ。あなたに愛されてとても幸せ。それは今も変わらないわ。ライル、私のライル」

緑のGN粒子が二人を包み込む。
「アニュウウウー!!!!」
ライルの絶叫は、ケルディムの機体の軋む音にかき消される。

アニューが消えていく。
世界に溶けていく。
あの時のように、とてもとても、美しすぎる微笑を浮かべたまま、アニューが溶けていく。
淡い光の燐光をまとって、アニューは薄紫色の蝶になると、ライルの周りを羽ばたいて、完全に沈黙した。
「・・・・・・・・・つれて、いくよ。お前を、アイルランドに・・・・アニュー・・・ずっと愛してる。お前だけを、愛し続ける・・・アニュー。守ってやれなくてごめんな。救ってあげられなくてごめんな」
右目から溢れていた血が止まる。
ライルは涙を零すのを止めて、アニューが消えた空間に向かって手を伸ばす。
「アニュー・・・・」
そこで、ライルの意識は途絶えた。


この世界が終わっても、変わらないものがある。
この世界が変わっても、変わらないものがある。
不変の愛。それは、誰にも変えることができない。

「アニュー。アイルランドだよ・・・ここが、俺の故郷だ」
アニューの墓に、ラベンダーの花を捧げて、ライルは膝を折った。
「ずっと愛してる・・・・いつか迎えにきてくれ。おれは、ガンダムマイスターとして生きる」
ライルは、青空を見上げる。
アニューの元にいくのは、俺の命が尽きる時。
その時は、誰に止められようと、神に反逆してもアニューに会いにいく。
そうして、もう一度愛し合うのだ。
いつか、この世界にもう一度命を受けて。廻る輪廻の輪の中で、再びめぐりあう。

「アイルランド・・・・・・・綺麗」
アニューが、ライルの傍で彼に寄り添って、そしてまた薄紫色の蝶になると、この世界に溶けてしまった。

愛しているわ、ライル。
あなたは精一杯私を守ってくれた。守れなかったなんて、そんなことないわ。
あなたが大好き。
いつかまた、この世界で会いましょう?
だから、あなたを私はいつでも見守り続ける。
愛しているわ。
愛して・・・・いるわ。

アニューの意識は、完全に深い眠りへとついた。
ライルは、ガンダムマイスターとして歩み続ける。
いつも、アニューととった写真を、ロケットペンダントに入れてずっと身につけていた。
イノベイターと人間の恋は叶わなかった。
でも、その結末は。
二人は愛し合っていた。分かり合っていた。それは真実。
二人の愛は純粋なるもの。
透明すぎて、眩しい愛。