血と聖水[「極秘指令」







ビニールプールで泳ぐフェンリルを見ながら、ロックオンはティエリアの隣に座る。
日陰になっていて、涼しい。
「さぶー!!!」
アイシクルが、ロックオンの上から雪を降らせた。
「ちょ、もういいからアイシクル!」
「でも、暑いのでしょう、主。やっぱり・・・雪だるまなんてどうですか?」
にっこりと微笑んで、アイスランスをロックオンの首につきつける。
「お前な・・・・主に向かっての態度」
ポン。
ロックオンは、アイシクルの魔法で雪だるまにされた。
顔だけ露出している。
「いいなぁ。かわいい」
ティエリアが本音を漏らす。

服従の契約といっても、契約者を裏切らないという条件なので、わりと精霊はフリーだった。こうして、主である契約者で遊ぶこともできる。いや、アイシクルの場合は遊んでいるのではなく、本人はいたって真面目に主であるロックオンに夏の暑さを忘れて涼しくなってもらおうとしているが、精霊だけに考えることも人間と思考が違う。

ロックオンは雪だるまから自力で脱出すると、ティエリアは残った雪で雪うさぎをつくって遊んでいるのを見て、まぁいいかとバシャバシャ溺れるように泳ぐフェンリルと長閑な時間を過ごす。
アイシクルは、ティエリアが召還したウンディーネと、庭でお茶をしていた。
精霊はどこまでも自由。精霊界では、人間とかわらぬ暮らしをおくっている。

そうして、平和な一日は過ぎていく。
けれど、いつまでも平和は続かない。
次の日、ハンター協会に呼び出され、指令を受けた。
今回は普通の指令ではなく、刹那も行動を共にすることになる。

この世界にいるヴァンパイアはいくつかに分かれる。帝国に住むエターナルヴァンパイアと、帝国の外にいる普通のヴァンパイア。それから、亜種の寄生型ヴァンパイア「ヴェルゴール」、水に住む「ブラッドマーメイ」、精霊種族のヴァンパイア「ブラッドエレメンス」、炎属性のヴァンパイア「ブラッドイフリール」そして全てのヴァンパイアの上位に位置する「ホワイティーネイ」
ネイの名をつけられたこのヴァンパイアは、少数で絶滅が危惧されている。
他の寄生型ヴァンパイア「ヴェルゴール」も希少種であるが、それよりもさらに数が少なく、個体数は10より下だ。他のヴァンパイアの亜種たちは、帝国に設けられた種族の自治区に住んでいて、それなりに個体数も多い。

今回の指令内容は、ヴァンパイア駆除は駆除であるが、絶滅危惧種「ホワイティーネイ」の個体を聖都まで送り届け、ホワイティーネイを狙うヴァンパイアを駆除せよとの命令だった。
普通なら裏のエターナルたちの仕事だろうが、エターナルたちは皆貴族で構成されている。自分より身分が高い者に関係する仕事はしない。ホワイティーネイは、その名前の通り、ネイが生み出した種族である。初代ネイの子孫の血脈にあたるエターナルの中から、突然変異をおこしたアルビノ体。ネイの血筋は皇族。
翼も髪も肌も真っ白で、瞳の色だけが紫だった。普通のアルビノは瞳は毛細血管が見えて真紅に見えるのだが、瞳の色だけは違う。
ヴァンパイアは血が高ぶると瞳の色が必ず真紅になる。
普通のバンパイアは真紅の瞳をもつ場合が多い。ロックオンのように、緑だとか、青とか違う色の瞳をもつほうが珍しいのだ。
ティエリアの瞳はイノベイターの証である金色。時折石榴色に変わる。それはリジェネも刹那も同じ。
金色の瞳が、ヴァンパイアの血として目覚めたときだけ真紅にかわる。

「なんか厄介な指令だな」
荷物をまとめたティエリアに、ロックオンが頭にフェンリルを乗せて(正確にはフェンリルに頭をかじられて)自分の分も荷物をまとめた。
「普通なら護衛は帝国騎士の仕事だと思うんですけど・・・帝国騎士は皇帝の護衛直属なのでブラッド帝国から出れないみたいで。裏のエターナルは、今回のホワイティーネイが皇族ということで我関せずを貫き通してるみたいです。傭兵や普通のモンターハンターに頼んでもいいのでしょうが・・・・協会から聞いたホワイティーネイを略奪する可能性があるので、僕と刹那に護衛が回ってきました」
ホワイティーネイ。
通称、慈悲の神の子。
ヴァンパイアに神の子など、矛盾も甚だしいが、実際にホワイティーネイはその力から聖人、聖女と言われても仕方ない。
その血は、全ての怪我や病気を癒す。
治癒術士でも治せない病気を。死に掛けた人間を。

「聖都におくってくるってことは・・・皇帝メザーリアの仕業だな。少しでも、ヴァンピールにされた人間を救い、人間との共存をはかる。ブラッド帝国は鎖国をやめたしな」
「そうなのですか?」
「ああ。前は船で1ヶ月はかかっていたが、今は飛行船を利用して1週間でつく。空間転移はバリアーがあるのであいかわらず無理みたいだが。もっとも、空間転移なんて魔法使うバカはまずいないだろ。俺だってそうそう使わない。人間とヴァンパイアの出入りが激しくなっている。ブラッド帝国から人間世界に旅行に出かけるヴァンパイアもいるそうだ。皇帝に特殊な庇護を受ければ、平民でもエターナルからただのヴァンパイアに堕ちることはない。だが、その分管理も厳しい。人間世界で人間を襲ったエターナルは極刑だ。裏の貴族のエターナルのハンターも増えたのも、そのせいだろう。監視も必要だしな」
「・・・・・・実現できればいいですね。エターナルと人間の、人間世界での共存が」
「皇帝メザーリアはそのつもりだろうさ。人間世界に、エターナルだけでなく、普通のヴァンパイアも受け入れた人間との共存国家を作り上げる・・・・。この前届いた皇帝の使役魔がその未来理想図を語っていた。国の名前はエタナリア共和国」
「エタナリア・・・共和国」
共和国という響きが、まさに共存という何相応しいと、ティエリアは思った。


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