血と聖水[「エタナエル王国」







カラカラカラ。
馬車は、聖都に向かってなんの問題もなく進んでいく。
ナイトメアに乗ったロックオンも、フェンリルに乗ったティエリアも景色を見ながらのんびりと道を進む。
町から町へ移動し、1週間も経った頃には聖都はすぐそこになっていた。

今夜は、野宿だった。
ロックオンが見張り番をして、みな毛布にくるまって寝ていた。
聖女マリナは野宿が始めてだったが、適応力は抜群で、皆と食事を終えると草むらに毛布をしいて、上から毛布を被って早々に眠ってしまった。

「いるな・・・・何匹だ?」
「5、6・・・・」
刹那が、目を開けて銀の短剣を手にとる。
「ずっとつけてきたみたいだな。厄介だな・・・・炎の魔人、ブラッドイフリールが混じっている」
「ブラッドイフリール・・・・名前しか聞いたことがない。見たこともない」
「そりゃそうだろうさ。エターナルの亜種だ。自治区から、ブラッド帝国から普通は出てこない。皇帝が鎖国を解いたせいで、出てこれるようになったんだろう」

ロックオンは、焚き火を消した。
闇に煌く真紅の瞳が6つ。

刹那は、木の幹に跳躍する。
銀のホーリーダガーを咥え、それを狙い違わず様子をうかがっていたヴァンパイアの喉元に投げつけた。
「ぐぎゃ!」
短い悲鳴をあげて、ただのヴァンパイアは絶命して灰となっていく。
「ハイサラマンダー、ぶっぱなせ!」
ロックオンは、茂みに隠れていたヴァンパイアに炎のハイサラマンダーをしかけると、さらに炎を追加する。
「ヘルブレス!!」
ロックオンが使う精霊魔法。炎の吐息のような凄まじい火炎が茂みごとヴァンパイアを焼き払う。
茂みから、全身に炎をまとわせたヴァンパイアが現れる。炎属性のブラッドイフリール。ヴァンパイアの亜種。
「聖都にいくのは止めろ!!聖女マリナを殺す気か!?」
そのブラッドイフリールは、そう叫んで炎の矢をロックオンに向けて射る。
「はぁ?聖都はヴァンパイアも人間も受け入れる共存の場所だ。そんなわけねーだろ!」
炎の矢を避ける。
それは眠っていたティエリアのほうへ飛んでいった。
「ティエリア!!」
ティエリアは、金色に目を輝かすと炎の矢を素手で掴んだ。
じゅっと、肉の焦げる匂いがする。

「にゃああああ、主、手が、手が!!」
「大丈夫。フェンリル、あのヴァンパイアに氷のブレスを」
「了解にゃ!」
ごおおおおと、フェンリルが氷のブレスを吐いた。
ブラッドイフリールは、その氷のブレスをもろに浴びて叫び声をあげる。ブラッドイフリールは常に全身に炎を纏っているが、それは熱くない。戦闘時のみ、本当の炎となる。

「ネイ様!聖女マリナを殺すおつもりか!?私の名はフレイア。帝国騎士だ!!」
その言葉に、ロックオンも刹那もティエリアも、相手を殺そうとしていた手をいったん止める。
「信じるか信じないかはネイ様の自由だ。だが、聖都に聖女マリナを行かせるわけにはいかない」
フレイアの額には、確かに帝国騎士の証である第三の目があった。
帝国騎士は、裏切らないように額に第三の瞳を植えつけられる。それは全身を支配し、皇帝の意思に背けば自動的に命が散るようにできていた。

「皇帝メザーリアが、聖女マリナを聖都におくるように仕向けたんだろう?」
ロックオンが、血で出来た剣を念のため構えながら聞き返す。
「違う・・・・我らが皇帝メザーリア様は、聖女マリナ様の出国を知らない。仕向けたのは・・・新しい教皇、先代教皇アルテイジア様の子アルザール様」
「新しい教皇?そんな話、聞いてないぞ」
「新しい教皇は完全に教皇庁を支配して、皇帝と対立した。そしてすぐに教皇を退位して・・・人間世界にいかれた。聖都に、新しいブラッド帝国となるエタナエル王国を作るのだと」
「あー。またややこしくなってる」
ロックオンは、教皇アルテイジアに捕らえられ、血を抜かれて弄ばれた嫌な記憶を思い出していた。自分が血の神になるのだと、血族にしろと強制した教皇を、ロックオンは決して血族にしなかった。だから、教皇アルテイジアはロックオンの体から血を抜いてそれを自分の血にした。
だが、血の神は選ばれた者のみ。
ネイの他に血の神がいたという記憶は、ロックオンにはない。

「聖都は・・・・閉じた箱庭だ。エタナエル共和国ではなく、王制のエタナエル王国となることを、住人たちは受け入れた。アルザールが、人間たちを支配している。洗脳して操っているんだ。そして、ヴァンパイアの新しい国が誕生しようとしている。アルザールが王として君臨するエタナエル王国が」
「ややこし・・・・恐怖政治と洗脳で、他の共存していたヴァンパイアも元々の人間の住民も支配してるってことか」
「ネイ様。聖女マリナは、王国樹立のための生贄に選ばれた」

ロックオンは血でできた剣をフレイアにつきつける。
「聖都は閉じた箱庭だっていったよな?」
「ロックオン!」
ティエリアを後ろに匿い、その剣をフレイアの喉元に。
「情報が外に出ていない。なのに、何故お前はそれを知っている?アルザールがエタナエル王国を作ろうとしていることを。皇帝メザーリアすら知らない情報を、たかが帝国騎士の一人であるお前が何故知っている?」


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