もうこのプール使えない







本日の体育の授業は、水泳だった。
アッシュフォード学園には温水プールもあり、年中水泳が楽しめる。
水泳部であるシャーリーや水泳が好きな生徒には、まさかにうってつけの環境だ。
「ストレッチは、したわね。各自並びなさい」
際どいビキニ姿のヴィレッタ先生の姿に、鼻の下を伸ばす男子生徒の多いこと。
「今日は遠距離水泳をしてもらいます。各自、呼ばれたらスタート地点にたって、泳げるところまで泳ぐこと。 1キロを泳ぎきった場合は交代です」
シャーリーは今にもプールに飛び込んでいきそうな勢いである。
水泳部であるだけに泳ぎにはかなり自信があった。

ヴィレッタ先生が、ベンチに毎度のように体操服姿で腰掛けているルルーシュを嗜めた。
「ルルーシュ・ランペルージ。どうしてあなたは授業が水泳になるといつも欠席なの?」
「嫌だなぁ。言ったでしょう、俺は今日は体調が悪いんですよ、ただそれが水泳の時と重なるだけです」
本当は15Mしか泳げないための欠席であった。
潜ることはできても、泳ぐことはできない。完璧なかなづちなのだ。
それを披露するほどルルーシュも落ちぶれていない。
最悪浮き輪をつかって泳ぐという手もあるが、副生徒会長であるルルーシュは、完璧になんでもこなす人物といったイメージが定着してしまっている。それを壊すのも忍びないし、 18にもなって浮き輪で泳ぐってどうよっていう、ルルーシュ自身のとまどいもあった。
別に自分のイメージが壊れようと、他人が勝手に作り上げたルルーシュ像だからどうでもいいが、しかし水泳だけは本当に苦手なのでいつも欠席してしまう。
それに、他人の前で肌をむやみに晒すのも嫌だった。
「先生、ルルーシュは今日は女の子の日なんです!」
リヴァルが手をあげてそう笑いをとる。
女子はルルーシュ君ならありえそうとか勝手にキャァキャァ悶えてまぁ楽しそうなものだ。
とりあえず、授業終わったらリヴァルに拳骨一発と、ルルーシュは青空を見上げた。

ザッパーン。
ジャブジャブジャブ。
水泳授業が開始されみなはしゃぎながら泳ぎだす。 プールはとても広く、遠距離水泳している以外の生徒は自由に泳いでいいとのヴィレッタ先生の指示で、半数の生徒が遊んでいた。
「ルル、きもちいいよ」
シャーリーが水を手のひらですくいあげて、ルルーシュに向かって放つ。
そんなシャーリーに、ルルーシュはあらかじめ用意していた水鉄砲で応戦した。
いつも欠席なので、少々ハメを外してもヴィレッタ先生は怒らない。
何よりルルーシュの機嫌を損ねれば、男爵の地位を奪われかねないのだ。気丈に先生として、脅迫したあの日以来からも変わらずに振舞う彼女にルルーシュも脱帽したものだ。
「水鉄砲なんて卑怯よー!ルルのバカー」
シャーリーが舌を出して遠くのほうに泳いでいった。
ルルーシュは早く授業が終わらないかなとぼーっと空を仰いでいる。

プールが広いためか、反対側のプールサイドから不審な影がこっそりとプールの中に入っていったのを見咎める者は誰もいなかった。
ジャパジャバジャバ…。
もの凄いスピードで、その人物はルルーシュがいる側のプールサイドに泳いできていた。
頭には水泳帽のかわりに濡れた白いブリーフ。
ザバリと、変態皇帝は25メートルもの距離をものの数秒で泳ぎきり、そしてプールサイドに立ち上がった。

「きゃあああああああああああああああああ!!」
「ぎゃあああああああああああああああああああ!」
木霊する悲鳴の連鎖。
女子用の、スクール水着を着た変態皇帝が、ふうと息をつき、うんこ巻きの髪型を整えていた。

「変態がまた出たああああああああ!!」

女子用のスクール水着は身体にピッチリと張り付いている。
股間はもっこりで、収容しきれなかったピーははみだしたまま。
名前のところに「シャルル」と本名が書かれてあった。

「ヴィレッタ先生ご苦労。今日は私も水泳の授業に参加する」
引きつった表情のヴィレッタ先生に、変態皇帝はそうのたまった。
「生徒たち諸君。何も恐れることはない。私は皇帝である。諸君らと共に水泳の授業を楽しみたく、来ただけなのだ」
悲鳴が止む。
変態皇帝が、皇帝と名乗ったからには、騒いではいけない。
アッシュフォード学園で皇帝に似た者が皇帝と名乗った場合、それはないものとして扱わなければならないのだ。
例えどんなに変態な格好をしていようとも。

唯一、平和をまた崩されたルルーシュが毅然とした態度で皇帝を非難する。
「何が水泳の授業を楽しみたいだ!ただ単に俺がいるから水泳の授業に参加しにきただけだろうが!」
「いやん、ルルーシュってば勘が鋭い」
ルルーシュは、水鉄砲で変態皇帝の両目を打った。
珍しくルルーシュからのスキンシップだと嬉しくしなを作った皇帝は、水鉄砲の中身はてっきり水だと思い込んでいた。
ルルーシュはそんな甘いことはしない。中身は蜜柑の皮の汁を絞ったものだ。
「ぎゃああああああああ目が染みる!!!!!!!!!」
「ハハハハハハ」
見事に罠に落ちた変態皇帝に、ルルーシュはニヤリと笑み、クラスメイトたちに向かって説いた。
「いいか、皆、こいつは皇帝ではない。こんな変態が皇帝であるはずないだろう」
「目が、目があああああああああああああ」
ムスカのように両目に手を当ててふらふらと歩み続ける皇帝を、リヴァルが背中を足けりしてプールに落とした。
「ルルーシュの言うとおりだ!皇帝が、こんな変態な格好をしてやってくるはずがない!いつも警察に連行されているあの変態だぞ、こいつ!」
勇気あるリヴァルの行動に、誰しもが息をのんだ。
ルルーシュはよくやったとリヴァルを心の中で褒め称えた。
「いつもいつも、この変態が!」
「私の下着がなくなったのも、きっとこの変態のせいね!」
「汚いものいつも見せやがって!」
クラスメートが、一致団結して、変態皇帝に攻撃にかかった。
水の中に沈めたり、股間を蹴ったり。
女子は主に、水で濡れたタオルでびしばし変態の背中を打ったり、石などをもちだして変態の頭に投げたり。
「クハハハ」
実にすばらしい。
ギアスを使わずとも、こうまで生徒たちに嫌われ、迫害を受けるとは。
流石に変態皇帝なだけはあるなと、ルルーシュは関心した。
「おおう、愛がいたいいいいい」
攻撃を受けながらも、これがスキンシップなのだと信じて疑わない変態。
しかし、タフすぎる。
いくら迫害を受けても嬉しそうに身を捩り「もっと〜」とねだってくる姿は、マゾ以外の何者でもないだろう。 生徒たちの息もあがっており、授業も終わりなので、ヴィレッタ先生が皆にプールからあがるように指示した。

「グおおおおおおおおおおおおお!?」

急に、変態皇帝が苦しみだした。お腹を抱えて苦しんでいる。
やはりかと、ルルーシュは難色を示した。
コインロッカーに、スポーツドリンクを置いてきていたのである。
体育の授業になる前に、念のために、下剤をいれておいた。
それを飲んだのだろう、変態皇帝は。
かなり強力なものをいれたので、水泳などで身体を冷やし、なおかつ動き回れば作用が早くなるのも同然。
「皆、はやく避難しろ!」
ルルーシュは変態が漏らすシーンを見たくなかった。
シャーリーやリヴァルはそれにならったものの、まだ物珍しげに変態を観察していた生徒たちから新たな悲鳴があがった。

ぶりぶりぶりぶり〜〜〜〜〜!!!

「ぎゃああああああああああああああああああああああああ!!!」
「変態がプールの中でクソしやがった!!もうこのプールはいれねえぇええ!」
「いやああああ、水がにごっていくううう」

叫び声をに耳を塞ぐルルーシュ。
想像もしたくない。
シャーリーは蒼い顔で、「どうしよう、あのプール午後に部活で使うのに」
と呟いていた。

結局、プールでうんこを漏らした変態皇帝は警察にまた連行されていき、プールはしばらくの間使用禁止になった。
その間、シャーリーは温水プールのほうで部活をするはめになったという。

ルルーシュは、やりすぎたかなという罪悪感は全くなく、自業自得だと、連行されていく変態皇帝に石を投げていた。