枯れた涙(コード継承シリーズ)








「シャーリー。どうしてだろうな。涙が流れないんだ」
ルルーシュは、シャーリーの墓に赤い薔薇を添えながら、シャーリーに語りかけた。
確かに、好きだったはずなのだ。
活発で、一途に自分を好きでいてくれたシャーリーの存在は、荒んでいく現実を忘れさせる可憐な花のようであった。
監視ばかりが目立つ学園で、シャーリーと過ごした時間は、ロロより長かった。
入学式の時からの付き合いだった。そのまま生徒会に入り、いろんな感情を分かち合った。
大切な仲間だった。
けれど、彼女は兄を愛しすぎたロロの手によって命を奪われた。
流れていく血に、ルルーシュは絶叫した。涙を流した。
何度死ぬなと叫んでも、一度ギアスをかけたシャーリーには通ることなく、結局彼女は自分のせいで命を落としてしまった。
葬儀にも出なかった。
墓参りにも行かなかった。

そして、ロロの墓参りをしに日本に訪れ、同じようにシャーリーの墓にも訪れた。
だが、不思議と涙は溢れなかった。
哀しくないわけではない。喪失感は確かにある。
だが、涙は流れなかった。

ルルーシュは、シャーリーに対してなんて自分は冷たいのだろうと思った。
だが、本当は違った。
シャーリーが死んだ日、涙を流しすぎて枯れてしまったのだ。

ゆっくりと思いだす。
生徒会でシャーリーと過ごした日々。
黒の騎士団の活動で学校を休めば、いつもその日のノートをコピーして渡してくれた。
シャーリーとのキスを思い出す。
ただ、唇を重ねただけの拙いキス。

ルルーシュは、シャーリーが好きだった。
マオによってシャーリーとの恋心は砕かれたが、皇帝のギアスによってシャーリーは再びルルーシュに普通に接するようになっていた。
平穏な日々。
ブラックリベリオン後の半年間。
監視されているとも知らず、ルルーシュは学園生活を過ごした。
シャーリーと、よく買い物に出かけた。
好きだという感情はあったが、不思議と付き合う気はなかった。
シャーリーは付き合いたがっていたようだったが、結局告白はミレイが行った突拍子もないイベントの時までなかった。

シャーリーは、いつもルルーシュの写真を持ち歩いていた。
二人で映った写真をとても大事にしていた。
二人きりになると、シャーリーはいつも顔を赤くして、逃げ出した。

不器用で、けれど誰よりも一途で。
死に際、シャーリーは微笑んでいた。
「何度生まれ変わっても、ルルを好きになるよ」
今でも思い出す、その言葉。
シャーリーの純粋な愛情を、ルルーシュは踏みにじったのだ。
たとえそれがロロの手だったとしても、ルルーシュが殺したようなものだった。



「ルル、大好きだよ。だから、私のこと忘れないでね」
墓標からシャーリーの幻影が現れて、ルルーシュのアメジストの瞳を駆け抜けていった。
ルルーシュの瞳が、ギアスを使うときのようにローズクォーツに輝いた。

「ルルーシュ。私よりも、シャーリーのことを愛していたか?」
ルルーシュは首を振った。
「分からない。あの頃は、C.C.に何の感情も抱いていなかった」
「だろうな」
C.C.は、白いワンピースを風に遊ばせながら、ルルーシュの手に小さなリップを手渡した。
「これは?」
「シャーリーの部屋を家宅捜索したとき、ちょうど欲しい新品があったので実はくすねていた」
結局、一度もそのリップを使うことはなかったけれど。
「本当なら、写真とかいろいろ、渡したいんだがな。だが、私はシャーリーという人物をあまり知らない」
「C.C.」
「ロロの形見はあって、シャーリーの形見がないなんて、不公平すぎるだろ?」
C.C.は苦笑した。
ロロの形見は、可憐な細工の作りの携帯ストラップだ。あくまで携帯ストラップとして使っているだけで、本当なら首飾りなどに 使うべきものだろう。だが、ロロはあえていつでも触れるように携帯ストラップとして、ルルーシュからもらったそれを大切にしていた。
それに引き換え、シャーリーの形見は賞味期限が切れた、荒れた唇を潤すだけのリップ。
その差をどうにかしてやりたかったが、C.C.にはできなかった。
シャーリーという人物と、面と向かって接したことはない。勿論、持ち物だって普通はもっていない。
ただ、あの時くすねたものがこんな形になるとは思いもしなかった。

「ルルーシュの双子の弟として通している以上、シャーリーの墓参りをすること自体もおかしいんだ。これが、最初で最後だぞ、ルルーシュ」
「分かっている」
「お前は、本当に不器用だな。心が泣いている」
「涙はもう出ない」
「ロロのためには流せても、シャーリーのためには流せないか。つくづく、不器用なやつだよ、お前は」
「シャーリー。どうか安らかに」
「痛いな。お前の心が血を流している。シャーリーという存在に少し嫉妬しそうだ」
「シャーリーは、特別だった」
「特別だろうな。そうでなけれな、お前はそんな表情はしない」
「大切だった。壊したくなかった。守りたかった」
「もうよせ。心から溢れた血が、止まらなくなるぞ」
「なのに、涙は流れない。俺は、最低だ」
「ルルーシュ」
「俺は、C.C.をシャーリーのかわりにするつもりはない。シャーリーはシャーリーだ。C.C.はC.C.だ」
ボスっと、C.C.が自分の胸の谷間にルルーシュの顔を埋めた。

「少しくらいは、錯覚してもいいさ。私だって、ルルーシュに誰かの影を重ねたことがあった。罪にはならない」
「C.C.」
「大切だったんだろう?誰よりも」
「シャーリー。俺がお前を殺した。シャーリー。生まれ変わっても俺を好きになるだなんて、俺にそんな価値はない」
C.C.の胸に顔を埋めたまま、ルルーシュは苦しげに声を吐き出した。
「許す。私が、お前を許す。そして、お前にはそれだけの価値がある」
「C.C.」
「全て吐き出してしまえ。苦しいのなら、全て。私が受け止める」
「シャーリー。うわああああああああああ」
ルルーシュは涙を零すことなく絶叫した。
C.C.は、ルルーシュの全てを受け止める。


「私は、ルルを恨んでなんかないよ。今でも、大好きなんだから」


絶叫が収まった後、シャーリーの笑う声が聞こえた気がした。